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糖尿病治療薬 似た薬の違い

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『オゼンピック』と『トルリシティ』、同じGLP-1受容体作動薬の違いは?~血糖値と体重への影響

回答:効果が高めの『オゼンピック』、体重を減らしにくい『トルリシティ』

 『オゼンピック(一般名:セマグルチド)』と『トルリシティ(一般名:デュラグルチド)』は、どちらも糖尿病治療に使う「GLP-1受容体作動薬」の、週1回投与で良い製剤です。

 『オゼンピック』は、血糖降下や体重減少の効果が高めの薬です。
 『トルリシティ』は、体重をあまり減らすことなく治療できる薬です。

 そのため、高い効果を求める場合は『オゼンピック』、高齢者などであまり体重を減らしたくはない場合には『トルリシティ』が適しています。

 

回答の根拠①:効果が高めの「セマグルチド」~GLP-1受容体作動薬の血糖降下と心血管保護

 「セマグルチド」と「デュラグルチド」は、どちらも週1回の注射で治療ができる「GLP-1受容体作動薬」です。ともにHbA1c値を下げるだけでなく、心筋梗塞や脳卒中を減らす効果まで確認されています1,2)が、その効果に大きな差は確認されていません3)。
 これは他の「GLP-1受容体作動薬」でもだいたい共通している4)ため、厳密な使い分けの基準はなく、ガイドライン等でも「GLP-1受容体作動薬」はひとくくりで扱われています。

 ただ、「デュラグルチド」に比べると「セマグルチド」の血糖降下作用や心血管保護効果は同等かやや強めの傾向3,5)が報告されているため、”より効果の高い薬”として選ばれることもあります。

 1) N Engl J Med.375(19):1834-1844,(2016) PMID:27633186
 2) Lancet.394(10193):121-130,(2019) PMID:31189511
 3) Endocrinol Diabetes Metab.4(3):e00259,(2021) PMID:34277983
 4) Lancet Diabetes Endocrinol.7(10):776-785,(2019) PMID:32740122

 5) Medicine (Baltimore).102(27):e34122,(2023) PMID:37417602

  

回答の根拠②:体重を減らしにくい「デュラグルチド」のメリット

 体重を増やすことが多いインスリンと違って、「GLP-1受容体作動薬」は食欲を抑制して体重を減らす方向に作用します。この体重を減らす効果については「セマグルチド」の方が明らかに大きく6,7)、「デュラグルチド」はあまり体重が減らさないことがわかっています8)。
 これは、「デュラグルチド」だけがGLP-1受容体作動薬の中でも特異的に分子量が大きく、中枢に移行しにくいために食欲を抑制する作用が現れにくいことが関係している、と考えられています。

※GLP-1受容体作動薬の分子量
多くのGLP-1受容体作動薬:3,750~4,850
デュラグルチド:約63,000

 そのため、食欲不振に陥ると栄養状態が悪化する恐れのある高齢者などの場合には、体重をあまり減らすことなく血糖降下・心血管保護効果を得られる「デュラグルチド」が良い選択肢になります。

 6) Biomed Rep.22(3):35,(2024) PMID:39781043
 7) Lancet Diabetes Endocrinol.6(4):275-286,(2018) PMID:29397376
 8) Diabetes Obes Metab.17(10):974-83,(2015) PMID:26179187

   

薬剤師としてのアドバイス:「GLP-1受容体作動薬」は、”美容”目的で使う痩せ薬ではない

 「GLP-1受容体作動薬」は2型糖尿病の治療薬です。体重減少の効果が期待できるという理由で、まるで”美容”目的の痩せ薬のように扱われていることもありますが、そのような使い方をした場合の有効性や安全性は全く確認されていません。
 実際、不適切な減量を目的に「GLP-1受容体作動薬」を使っていると、膵炎や腸閉塞、胃腸の機能不全といった副作用を4~9倍以上起こしやすい9)ことがわかっています。
 さらに、こうした承認外の目的で薬を使用していた場合、重篤な副作用が起きても「医薬品副作用被害救済制度」の対象外になり、一切の補償を受けられないというリスクも伴います。

 また、そもそも「GLP-1受容体作動薬」のような医療用医薬品は、法律上、一般向けに広告宣伝を行うことができません。つまり、SNSなどで「GLP-1受容体作動薬」を美容目的に使うダイエット等の広告が流れてきた場合、それは”違法サービス”である可能性が極めて高い、という点にも注意してください。

 9) JAMA.330(18):1795-1797,(2023) PMID:37796527

 

ポイントのまとめ

1. 『オゼンピック(セマグルチド)』は、血糖降下・体重減少・心血管保護がやや高め
2. 『トルリシティ(デュラグルチド)』は、体重をあまり減らさずに治療できる
3. 「GLP-1受容体作動薬」を不適切な減量目的で使うと、副作用は通常の4~9倍起こりやすい

 
 

薬のカタログスペックの比較

 添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較

セマグルチドデュラグルチド
先発医薬品名オゼンピックトルリシティ
適応症2型糖尿病2型糖尿病
用法週1回週1回
用量の幅0.25mgから開始、最大1.0mg0.75~1.5mg
投与を忘れた場合次回投与までの時間が48時間以上なら、気づいた時点で投与次回投与までの時間が72時間以上なら、気づいた時点で投与
分子量4113.6約63,000
妊娠中の安全性オーストラリア基準【D】オーストラリア基準【B3】
世界での販売状況世界70ヵ国アメリカ、欧州諸国
剤型の規格皮下注(2mg)皮下注(0.75mg、1.5mg)
同成分の別製剤内服薬:リベルサス
肥満症治療薬:ウゴービ
(なし)
先発医薬品の製造販売元ノボノルディスクファーマ日本イーライリリー
同成分のOTC医薬品(販売されていない)(販売されていない)

 

 

 +αの情報①:「セマグルチド」の内服薬『リベルサス』

 通常、「GLP-1受容体作動薬」は基本的に胃で分解されてしまうため、内服で使うことができません。しかし、局所的にpH緩衝作用を発揮する「サルカプロザートNa」を添加することで胃での分解を遅らせ、経口投与を可能にした10)のが『リベルサス』です。
(※食後に服用したり、服用の際に水の量が多かったり、錠剤を噛み砕いたりすると、このメカニズムが機能しなくなるため、薬の効き目がほとんど無くなってしまいます)

 『リベルサス』は、内服薬として使用できる唯一のGLP-1受容体作動薬で、注射ができない人にとって貴重な選択肢になりますが、『オゼンピック』などの注射剤の方が費用対効果に優れる11)ため、通常は注射剤が使われます。

 10) Sci Transl Med.10(467):eaar7047,(2018) PMID:30429357
 11) Front Pharmacol.1226778,(2023) PMID:37621313

 

+αの情報②:肥満症の治療薬『ウゴービ』も、”美容”目的で使うものではない

 減量効果を期待できる「セマグルチド」には、肥満症の治療薬として『ウゴービ』という製剤も開発されています。ただし、『ウゴービ』の適応になるのは最低でもBMIが27以上で、肥満に関する健康障害を抱えている人だけです。決して、病気を抱えていない人が”美容”目的で使うような薬ではないことに注意が必要です。

※『ウゴービ』の適応 12)
肥満症(ただし、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法/運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。)
・BMIが35kg/m2以上
・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
→肥満に関連する健康障害(例:痛風、脳梗塞、脂肪肝、月経異常、睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症など)

 12) ウゴービ皮下注射 添付文書

 

 +αの情報③:GLP-1受容体作動薬は、「DPP-4阻害薬」と併用できない

 「GLP-1受容体作動薬」と「DPP-4阻害薬」は、作用するポイントが重複することから、基本的に併用することはできません。使う場合には、どちらか片方を選択する必要があります。

 

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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