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花粉症の市販薬の選び方~抗ヒスタミン薬とステロイド点鼻薬、効果や眠気を踏まえた選択

 
 インターネットやSNS等では、花粉症の市販薬(一般用医薬品)に関する投稿も多いですが、薬剤師から見ればちょっとお粗末なもの、主観的・極端過ぎるものも多く、あまり参考にはして欲しくないものも多い印象です。なので、一度こちらに「基本」をまとめておこうと思います。

 

早見版:花粉症の市販薬の選び方

 花粉症を治療しようと思ったときの「市販薬の選び方」の原則は、下記のとおりです。

① 手軽にできる治療
 眠くなりにくく、服用後の自動車運転も禁止されていない「ロラタジン」か「フェキソフェナジン」の飲み薬を試します。
(商品例)
クラリチンEX(ロラタジン製剤)
アレグラFX(フェキソフェナジン製剤)


② 最も効果的な治療
 ①で満足できるほどの効果が無かった場合は、より効果的なステロイドの点鼻薬を使います。市販薬では「季節性アレルギー専用」と表記のあるものが該当します。
(商品例)
ナザールαAR0.1%〈季節性アレルギー専用〉
フルナーゼ点鼻薬〈季節性アレルギー専用〉
パブロン鼻炎アタックJL〈季節性アレルギー専用〉

③ 病院受診
 ②でも治らない場合、よほど重症化、あるいは花粉症ではない別の疾患である可能性がありますので、病院を受診してください。

 

【原則①】ステロイドの点鼻薬が最も効果的で、眠気の心配もない

 花粉症の治療薬の中心は、「抗ヒスタミン薬の飲み薬」と「ステロイドの点鼻薬」の2種類です。「抗ヒスタミン薬の飲み薬」の方が手軽に使えて便利ですが、くしゃみ・鼻水・鼻づまりに対する効果は「ステロイドの点鼻薬」の方が高く1,2,3)、また眠くなる作用もありません
 このことから、「効き目」や「眠くならない」という要素を重視するのであれば、「ステロイドの点鼻薬」を選んでもらうのが一番です。市販薬では、「季節性アレルギー専用」と表記されている商品が該当します。

 ときどき、「ステロイドの点鼻薬」のことを”いよいよ症状がひどくなってからしか使ってはいけない薬”だと思っている人もおられますが、そんなことはありません。日本の診療ガイドラインでも、軽症の段階から第一選択薬として挙げられており4)、海外の診療ガイドラインでは、むしろ「ステロイドの点鼻薬」」の方が優先度が高く設定されているくらいです5,6)。

1) Am J Rhinol Allergy.31(1):19-28,(2017) PMID:28234147
2) Am J Respir Med.2(1):55-65,(2003) PMID:14720022
3) BMJ.317(7173):1624-9,(1998) PMID:9848901
4) 鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症(2023)
5) Ann Intern Med.167(12):876-881,(2017) PMID:29181536
6) J Allergy Clin Immunol.140(4):950-958,(2017) PMID:28602936

 

使い続けると、効果が無くなる?

 「ステロイドの点鼻薬」を使い続けていると効き目が無くなってしまう、という不安を感じる方は多いようです7)。しかし、そんな事実はありません(※血管収縮薬の点鼻は使い過ぎに注意が必要:→注意①)。むしろ、早めに使い始めて、花粉が飛んでいるシーズンを通して使い続けることで、花粉症のシーズンを楽に過ごすことができることも確認されている8)、そんな薬です。
 市販薬でも、「季節性アレルギー専用」と表記された「ステロイドの点鼻薬」は基本的に年間で”3ヶ月間”使うことができますが、これはスギ花粉が飛ぶ2月から5月まで継続使用できる設計になっています。

7) Integr Pharm Res Pract.6:109-119,(2017) PMID:29354557
8) Ann Allergy Asthma Immunol.109(6):458-64,(2012) PMID:23176888

 

【原則②】抗ヒスタミン薬の飲み薬は、「非鎮静性」のものであればどれも大差ない

 一方、「ステロイドの点鼻薬」は”点鼻”というデバイスが使いにくく、また噴霧したときに刺激を感じたり、喉に薬液が落ちるのが嫌だったり、そもそも面倒だったりと、色々な理由で使い続けられないケースがあります9)。いくら性能の高い薬であっても、きちんと使えなければその恩恵を受けることはできません。
 そこで、点鼻が苦手な人や、手軽に治療したい人にとって良い選択肢になるのが、「抗ヒスタミン薬の飲み薬」です。

 この「抗ヒスタミン薬の飲み薬」にはたくさん種類がありますが、基本的にどれもさほど効果に違いはありません10)。そのため、どれを選んでもらっても良いのですが、通常は眠気の少ない「非鎮静性」に分類される薬を使います4)。市販薬で治療するのであれば、その中でも特に眠くなりにくく、服用後に自動車運転をしても良い「ロラタジン」か「フェキソフェナジン」をお勧めします。

 ときどき、効果のランキングやマッピングなどの情報がよく出回りますが、いずれもかなり主観的なもののため、そういう情報に振り回されると自分に合った薬を正確に選べなくなります。あまり参考にする必要はありません。
 もし「効果の高さ」と「眠くならないこと」の両方を求める場合は、「抗ヒスタミン薬」の細かな差を気にするより、「ステロイドの点鼻薬」を選んだ方が速いです。

9) Expert Opin Drug Deliv.4(6):689-701,(2007) PMID:17970670
10) Arerugi.55(5):554-65,(2006) PMID:16883093

  

眠くなる薬の方が、よく効く?

 「眠くなる薬の方が強力」と勘違いして、敢えて眠くなりやすい薬を使う方もおられます。…が、基本的に抗ヒスタミン薬の眠気と効果は、相関関係のあるものではありません11)。
 アレルギー治療に眠くなりやすい「鎮静性」の薬を使うと、アレルギーの症状は治まっても、頭がぼんやりして作業効率は結局改善しない12)、学業成績はかえって悪化する13)といった可能性も報告されています。眠くなりにくい薬で治療した方が無難です。

11) 臨床皮膚科.67(5):155-8,(2013)
12) Allergol Int.59(4):345-54,(2010) PMID:20864795
13) J Allergy Clin Immunol.120(2):381-7,(2007) PMID:17560637

 

注意①:「血管収縮薬」の入った点鼻薬の扱い

 市販薬の点鼻薬、特に「季節性アレルギー専用」と表記されていない商品には、多くの場合「ナファゾリン」や「テトラヒドロゾリン」といった「血管収縮薬」が配合されています
 この「血管収縮薬」の点鼻薬は、使うと5~15分程度で鼻づまりがスッと解消しますが、効果は数時間程度しか続かず、「ステロイドの点鼻薬」の効果には遠く及びません14)。ところが、一時的にでも鼻づまりが解消するため人気で、用量オーバーで長期間使い続けてしまう人が多く15)、これによって薬が原因で起こる薬剤性鼻炎16)を起こしてしまう人が後を絶ちません。

 「血管収縮薬」の点鼻薬は、どうしても、今すぐに鼻づまりを解消しなければならないようなとき……結婚式のスピーチを控えているとか、大事なプレゼンの直前とか、そういった際の緊急避難的なアイテムとしては便利ですが、何日も続けて使うような薬ではない、ということに注意してください。

14) Ann Allergy.61(2):151-6,(1988) PMID:3400902
15) J Pers Med.13(4):579,(2023) PMID:37108966
16) ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec.56(3):157-60,(1994) PMID:7515487

 

補足①:ちょっとでも効果の高い飲み薬は?

 先述のとおり、「抗ヒスタミン薬の飲み薬」はどれもほとんど大して効果に違いはなく、効果を求めるのであれば「ステロイドの点鼻薬」を選んだ方が早いですが、”ちょっとでも効果の高い飲み薬”が欲しいという場合には、やや効果が高めな「セチリジン(例:ストナリニZ)」17)や「エバスチン(例:エバステルAL)」を選ぶのが合理的です。
 ただし、これらの薬は服用後の自動車運転が禁止されている、という点に注意が必要です。

17) Allergy Asthma Proc.26(4):275-82,(2005) PMID:16270720
18) J Investig Allergol Clin Immunol.14(1):56-63,(2004) PMID:15160443

 

補足②:病院で処方される薬は何が優れている?

 基本的に、花粉症治療においては主軸となる「抗ヒスタミン薬の飲み薬(非鎮静性)」と「ステロイドの点鼻薬(季節性アレルギー専用)」の両方が市販薬として販売されているため、病院を受診した際に処方される医療用の薬と大きな違いはありません。
 ただ、「抗ヒスタミン薬の飲み薬(非鎮静性)」は、市販薬は6種類であるのに対し、医療用医薬品は11種類あるなど、バリエーションが豊富です。効果にはさほど大きな違いはありませんが、小さな子どもから使えるなど、より細かなニーズに対応することができます

 また、「ステロイドの点鼻薬」に関しても、市販薬と医療用医薬品で効果に大きな違いはありません19)。ただ、市販薬は1日2回の噴霧が必要であるのに対し、医療用医薬品は1日1回の噴霧で良いように改良されたものが主流です。点鼻の手間を軽減したい場合には、病院を受診して相談してもらうのが良いと思います。

19) ナゾネックス点鼻液 インタビューフォーム

 

補足③:目の症状はどうすれば良い?

 花粉症では目の痒みを伴うこともありますが、目の症状には「抗ヒスタミン薬の飲み薬」と「ステロイドの点鼻薬」で同じくらいの効果があります1,3)。そのため、どちらかで治療をしていれば、敢えて点眼薬を使わなくてもおのずと症状は収まってくると考えられます。
 鼻症状がないのに目だけが痒いという場合には、「抗ヒスタミン薬」か「ケミカルメディエーター遊離抑制薬」の点眼薬が選択肢になりますが、効果に大きな違いはない20)ので、眠くなりにくい「ケミカルメディエーター遊離抑制薬」がオススメです。なお、ごちゃごちゃとたくさんの成分が入った高価な商品を買う必要はありません。

(商品例)
ノアールPガード点眼液(遊離抑制薬だけの製剤)
アレジフェンス(遊離抑制薬だけの製剤)

20) Cochrane Database Syst Rev. 2015 Jun 1;(6):CD009566 PMID:26028608

 

もっと詳しい情報を知りたい

 この本を買って読むのが良いと思うよ(´・ω・`)
 図書館にも置いてあるかもしれないので、探してみてね(´・ω・`)

 

 ~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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