地震などの災害が起こると、居てもたってもおられず、個人で支援物資を集めて被災地へすぐに持って行こうとする方がおられます。こうした精神はとても尊いもので、被災地に誰も関心を持たないような冷たい社会よりよっぽど良いものと思います。しかし、被災地の優先順位や受け入れ態勢などを考えることなく、災害発生直後に一般人が支援物資を運び込もうとしても、基本的にそれは被災地にとって「迷惑」や「邪魔」になってしまうことが多々あります。
つまり、たとえ”善意”や”正義感”によるものであっても、これは”控えるべき行動”ということになります。
記事の内容
もっと優先すべき人員や物資の運び込みを、邪魔してしまうことになるから
日本で地震などの災害が起きた場合、人命救助やインフラ復旧、飲料水や食料品・衣類などの生活必需品の運び込みのため、多くの人員と物資がすぐに送り出されます。このとき送り出される人員は、統率・指揮された災害支援活動などのプロフェッショナル、それも専用のフル装備をした集団です。送り出される物資は、規格が統一されて整理整頓・仕分けもされた、圧倒的な量の支援物資です。つまり、この統率されたプロフェッショナル集団と圧倒的な量の支援物資こそ、被災地に最も優先的に届ける必要があるものだ、ということです。
ところが、地震などの災害が起きるとがけ崩れや地盤沈下などが起きるため、多くの道路や鉄道網が寸断されてしまいます。そのため、被災地に入れるルートも数が限られています。つまり、この「災害直後にも使える道路」というのは、プロフェッショナル集団と大量の支援物資を輸送するのに極めて重要なルートでもある、ということです。
ここで我々一般人が、「何か被災地に持って行ってあげよう」と考えて、自家用車に支援物資を積んで出発したとします。当然、通れる道は限られていますので、必然的に「災害直後にも使える道路」で向かうことになります。同じように考えた人たちはみんなこの道路に集まってきますので、その道路は大渋滞を起こすことになります。
これによって、本来は被災地に最も優先して送り込むべきプロフェッショナル集団と大量の支援物資の輸送が滞ってしまうことになります。
(参考)
・首相、1月4日12:47の投稿
https://twitter.com/kishida230/status/1742754547024707804
・石川県知事、1月4日15:32の投稿
https://twitter.com/hase3655/status/1742796098027257861
・石川県知事、1月5日15:02の投稿
https://twitter.com/hase3655/status/1743150940872650815
・国土交通省富山河川国道事務所、1月5日7:14の投稿
https://twitter.com/mlit_toyama/status/1743033132675387825
それでも支援物資が「無い」よりマシではないのか?
自家用車で運び込める支援物資の量に比べて、自衛隊や企業が運び込む支援物資の量は、桁違いに多いです。たとえばパンでも、大型トラックに同規格のパンを百や千の単位で運んできます。それが1台や2台ではなく車列でやってきますので、個人ではどう頑張っても勝てません。さらに言うと、その物資の選別や仕分け、整理、品質管理、運搬に関してもプロフェッショナルが行っているため、やはり個人では遠く及びません。
たとえ個人で何かを届けられて、局地的には感謝されたとしても、それによって”大量の支援物資の供給が滞る”状況を生み出してしまっては、被災地全体にとってはマイナスになってしまいます。そのため、そんなものを運び込むくらいなら、むしろ「道路を開けて、プロフェッショナル集団と大量の支援物資をスムーズに輸送できるように協力した方が、むしろ被災地の役に立てる」ということになります。
支援物資は”量”よりも”配布”がよく課題になる
また、そもそもの問題として、近年の日本では災害が多発することもあり、自衛隊や企業が豊富に支援物資を供給してくれます。そのため災害直後であっても、支援物資は”量が不足する”というよりも、”大量に集まったものをどうやって配布するのか”の方がよく課題になります。つまり、個人で思い立って支援物資を運び込んだところで、既にそういった物資は十分に足りている状況で、その物資輸送の手配を邪魔するだけになってしまうことが多々起こります。
(参考)
・石川県、1月5日18:13の投稿
https://twitter.com/motto_ishikawa/status/1743199013833441651
1台くらい居ても問題ないのではないか?
確かに「1台くらい」は居ても問題になりませんが、みんなが「1台くらい」と思うから100台、200台になっていくので、大いに問題があります。
また、本当に「1台」だけであっても問題があります。それは、「災害直後でも使える道路」というのは、確かに”使える”ことは使えても、段差や亀裂、がけ崩れがあったり、あるいは停電していたり、水没している箇所があったりと、非常に危険な道路になっているケースもあります。そのような悪路を素人が装備も整っていない自家用車で運転していたら、パンクや脱輪、事故などを起こしてその道路の往来を邪魔してしまう可能性が非常に高いからです。
微々たる支援物資を積んだ自家用車が事故を起こして、それによってプロフェッショナル集団と大量の支援物資の供給・配布が滞る、挙句の果てに救助まで必要になる、というのは、被災地にとってただの迷惑になってしまいます。
個人が”気の利いたもの”を運び込むのは、状況が落ち着いてから
では、個人での支援物資の運び込みは全く不必要なものか、というと、必ずしもそういうわけでもありません。インフラ復旧が進み、避難所運営も軌道に乗ってきた頃になってくると、個人レベルで”気の利いた支援物資”が非常に役立つようになってくるからです。
…というのも、企業などによって大規模に供給される支援物資は、確かに被災地で生命を繋ぐのに極めて重要ですが、”小回り”はあまり効きません。少し状況が落ち着いてくると、被災者も「そろそろ甘いものが食べたい」とか「久しぶりにお肉を食べたい」、「肌にやさしいティッシュがほしい」などなど、色々と生命維持以外のことを考える余裕が出てきますが、そういった細かな個人の需要にはなかなか応え切れないからです。つまり、個人で物資を支援したいのであれば、こうした落ち着いた状況になってから”気の利いたもの”を運び込むのが良いと思います。
ただ、この場合も「被災地では何を求められているのか」「個人での支援を受け付けているのか」「どこにどのようなかたちで運び込めば良いのか」を確認してから行動することが大切です。
なお、誰にでもできて、確実に被災地のためになるのは「募金」です。大規模な災害が発生すれば、必ず自治体や日本赤十字社による募金が始まりますので、そこに応募するのが最も効果的です。また、実際に身体を動かしたい場合には、避難所での「トイレ掃除」のボランティアは被災者の”生命を守る”という意味でも極めて重要な活動です。
何か貢献したい、と考えている方は、ぜひご検討いただければと思います(※ボランティアも”募集があってから応募”してください。募集のない段階で自治体に問い合わせをすると、その対応に手をとられて現地の業務が遅れます)。
(参考)
・石川県「令和6年(2024年)能登半島地震に係る災害義援金の受付について」
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/suitou/gienkinr0601.html
・日本赤十字社「令和6年能登半島地震災害義援金(石川県、富山県)」
https://www.jrc.or.jp/contribute/help/20240104/
・NHK「ボランティア 問い合わせも控えて” 石川県(2024年1月6日)」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240105/k10014310931000.html
「自分のやりたいこと」ではなく「相手が求めていること」を
被災地のために何かしたいと考えること自体は、非常に大事な感情です。そういった意味で、災害発生直後に行動する人は、根っからの善人で、正義感に溢れ、行動力もある方なのだと思います。しかし、大きな災害が起こると、直接の被害を受けていなくても一種のパニック状態に陥ります。「自分も何かしなければならない」と気持ちばかり焦って、被災地の状況を確認することなく「自分のやりたいこと」をやってしまうと、それは被災地にとって”ありがた迷惑”になってしまいます。
被災地のためを思って行動するのであれば、「自分のやりたいこと」ではなく「相手が求めていること」を、自治体などの要請を確認した上で行うことが重要です。特に災害発生直後は、パニックに陥ることなく、「余計なことをしない」ことを頑張る、という視点も極めて重要です。せっかくの”善意”が、迷惑や邪魔という残念な結果に繋がってしまわないように、ぜひこのステップを挟んでもらえたらと思います。
なお、自分が被災したときに備えて、最低3日分、大規模災害に備える場合はストックローテーションを活用して1週間分くらいの備蓄をしておくことが推奨されています。この機会に、こちらもぜひ見直してみてください。
(参考)
首相官邸「災害が起きる前にできること」
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/bousai/sonae.html
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