第52回 日本薬剤師会学術大会 分科会26に参加して
先日10月13~14日に下関で開催されました、第52回日本薬剤師会学術大会において、分科会26「薬剤師は、薬害に対して何ができるか」を拝聴しました。薬剤師が「これで良くなる」と思って患者さんにお渡しした薬によって、実際には患者さんが健康被害を受けてしまう、そういった事態を少しでも減らすためには、日常業務の中でどういった意識付け・情報収集が大切か、改めて気が引き締まる思いでした。
この分科会では、HPVワクチン接種後の体調不良についても多くの時間を割いてとり挙げられていました。因果関係の有無を問わず若い女性に発生した様々な体調不良に対し、「安全かつ有効な治療法の確立」がいま最も求められていることだという点について、他職種の方とも共通した認識であることを確認できたのはとても有意義でした。また、薬害には薬やワクチンが直接の原因にならなくとも、「それ仮病じゃないの?」といったような周囲の対応のまずさが引き起こす「人災」の側面も少なくないことは、自分たちの服薬指導や対応を省みる大きなきっかけになる貴重な視点だと感じました。
しかしながら、講演を前提知識なく聞いていた場合、「HPVワクチンがサリドマイドと同様に危険なものであることが既にわかっていながら、その危険性を国が認めない、隠そうとしていることが問題だ」という誤解を与えかねない、違和感のある内容でもありました。
第一に、この分科会では「HPVワクチン接種後の体調不良」を「サリドマイド事件」や「薬害エイズ」と同列で扱っているように感じられた点です。「サリドマイド」では、オッズ比が100を超えることになるというレンツ警告があったにも関わらず、国の対応が遅れたことで被害が拡大したことは事実です。しかし、「HPVワクチン」に関しては、現状そのような顕著な兆候は確認されていないはずです。「症状が多様過ぎてオッズ比を出せない」との意見もありましたが、名古屋市の女性7万人を対象にした名古屋studyでは、その多様な24の症状と学校・就職活動に対するオッズ比が検証され、いずれも1.0を有意に超えるものは示されていません1)。このように大きく背景が異なる2つの事例を、同じ「薬害」の例として一緒に語ることには、強い違和感を覚えました。
第二に、「HPVワクチン」に対しては、オッズ比の上昇が観察されないという研究結果があっても「薬害」の可能性が少しでもあるならそれを疑うべきだ、という姿勢である一方、接種後の体調不良に対してはステロイドのパルス療法や免疫吸着療法などが効果的だと言及している点です。これらの治療法も決して負担の少ないものではありません。安全性や有効性が確立されていない治療を実験的に行うことは、それこそ「薬害」の温床となってしまうのではないでしょうか。体調不良に陥った患者が、更に無用の身体的リスク・経済的負担を負うことがないようにするためにも、そのような未承認の治療方法へ安易に薬剤師が誘導することがあってはなりません。これがもし本当に希望のある治療法であるなら、きちんと承認へ向けての手続きを行うことを最優先にすべきと思います。
第三に、「薬害に関する情報は国が隠す」「製薬企業は営利団体だから」といった、非科学的な論調も多かった点です。こと「HPVワクチン」に関しては、どちらかと言えば安全性や有効性の話の方が公表されていません。事実、2013年以降、WHOの安全宣言や学会の声明といった情報は大手新聞社でほとんど報道されておらず、有害事象や訴訟などの情報ばかり報道されているという調査結果も示されています2)。この分科会でも、名古屋study1)やその他の安全性に関する研究結果3)、ワクチンの効果や子宮頚がんそのものの怖さについては、話題に一切出てきませんでした。有効な予防法があるのに、その情報すら与えられない・・・これもまた薬害とは別の大きな問題だと思います。
シンポジストには弁護士さんも含まれていたため、公衆衛生云々よりも個人の権利を守るという立場からの意見が出ることに異論はありません。しかし、公衆衛生を司るべき薬剤師が科学的根拠を踏まえることなく、その意見に全面同調してしまうことは、非常に問題だと感じました。患者さん自身が登壇したこともあり、会場全体が「患者を何よりも優先しよう」という空気になってしまった中、こうした違和感について意見を述べることは恐怖に近い感情を覚えたことも事実です。「薬害に対して、薬剤師として何ができるか」というテーマの分科会、確かに「薬害」に対して細心の注意を払い、患者の声に耳を傾けることはとても大切ですが、それは科学的根拠を軽視する理由にはならないはずです。日薬の学術大会という場で「薬害」を取り扱うことはとても有意義なことと思いますので、もっとフェアに意見交換ができる場であって欲しかったなと感じました。
1) Papillomavirus Res.5:96-103,(2018) PMID:29481964
2) BMC Public Health.19(1):770,(2019). PMID:31208394
3) J Infect Chemother.25(7):520-5,(2019) PMID:30879979
※10月15日に、こちらの文章を山口県薬剤師会へ意見として送付しました。翌日すぐに、本来の趣旨と異なる論調になってしまった場をコントロールできなかったことへの謝罪と、この意見を次回から活かす旨の返信を頂きました。
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