OTCの痛み止め(内服・外用)、各成分の特徴から考える使い分け~鎮痛効果・副作用・年齢制限の違い
痛み止めの薬は、ドラッグストア等で購入できるOTC医薬品にも色々なものがあります。ついパッケージの見栄えやテレビコマーシャルのイメージで購入してしまいがちですが、各商品の成分によって使い分けることができれば、より安全で効果的な使い方が可能です。
そこで、今回はOTC医薬品の痛み止め(内服薬・外用薬)の各成分の特徴や違いから、どう使い分ければ良いかの原則をおさらいしたいと思います。
記事の内容
原則1.内服薬と外用薬で、効果に大きな違いは無い
基本的に、OTC医薬品に使われている痛み止め(NSAIDs)は、飲む・貼る・塗るといった投与経路によって効果に大きな違いはありません1,2,3)。そのため、使いやすさを重視して選ぶことができます。
ただし、飲み薬では胃腸の副作用、貼り薬や塗り薬では皮膚の副作用がそれぞれ多い傾向にある3)ため、胃の弱い人や皮膚の弱い人は選び方に注意が必要です。
1) BMC Fam Pract.5:10,(2004) PMID:15147585
2) Cochrane Database Syst Rev. 2016 Apr 22;4:CD007400. PMID:27103611
3) Phys Sportsmed.41(2):64-74,(2013) PMID:23703519
原則2.内服薬では「鎮痛効果の強さ」と「使える状況の広さ」が選択基準に
OTC医薬品として販売されている、内服の痛み止めには、以下のような種類があります。
・アセトアミノフェン
・イブプロフェン
・ロキソプロフェン
・アスピリン(アセチルサリチル酸)/エテンザミド
・イソプロピルアンチピリン
このうち、「イブプロフェン」や「ロキソプロフェン」は他の薬よりも鎮痛効果が高めという報告があり4,5,6,7)、OTC医薬品としては「鎮痛効果が強めの薬」と言えます。そのため、より強力な痛み止めが必要な場合には、これら2つの成分が入った製剤が良い選択肢になります。
■商品例
「イブプロフェン」や「ロキソプロフェン」単独の商品
4) Korean J Fam Med.33(5):262-71,(2012) PMID:23115700 (高用量NSAIDs>アセトアミノフェン)
5) J Orthop Sci.21(2):172-7,(2016) PMID:26888227 (ロキソプロフェン>アセトアミノフェン)
6) Cochrane Database Syst Rev. 2013 Dec 12;(12):CD004624.PMID:24338830 (イブプロフェン>アセトアミノフェン)
7) J Oral Surg.35(11):898-903,(1977) PMID:269932 (イブプロフェン>アスピリン)
ただし、OTC医薬品の「イブプロフェン」と「ロキソプロフェン」は、どちらも15歳未満の子どもに使うことはできません。また、妊娠後期(出産予定から12週以内)の使用は「胎児動脈管収縮」を起こす恐れがあるため、使用は禁忌です8,9)。
その点、「アセトアミノフェン」は鎮痛効果はやさしめなものの、OTC医薬品でも1歳の子どもから使える製剤があり、また妊娠中に使用しても先天異常のリスクを高めないことが確認されている10)など、「年齢や妊娠などの状況を問わず使える薬」と言えます。子どもの熱冷ましが必要になった場合、生理痛で初めて痛み止めを使う場合、妊娠中にも痛み止めが必要な場合などには、「アセトアミノフェン」を選ぶことをお勧めします。
■商品例
「アセトアミノフェン」単独の商品
8) ブルフェン錠 添付文書
9) ロキソニン錠 添付文書
10) Am J Obstet Gynecol.198(2):178.e1-7,(2008) PMID:18226618
インフルエンザの際には「アスピリン」を使わない
インフルエンザの際に「アスピリン(アセチルサリチル酸)」や「エテンザミド」を使うと、インフルエンザ脳症やライ症候群の重症化・死亡リスクが高まることが報告されています11,12)。そのため、インフルエンザの流行期や、インフルエンザの可能性がある場合には避けた方が無難です。
「イブプロフェン」や「ロキソプロフェン」による明確なリスクの報告はありませんが、子どもの場合は安全性が確認されている「アセトアミノフェン」を選ぶことが推奨されています13)。
11) Acta Neurol Scand.115(4 Suppl):45-56,(2007) PMID:17362276
12) 国立感染症研究所 感染症情報センター「インフルエンザの臨床経過中に発症した脳炎・脳症の重症化と解熱剤の使用について」
13) 日本小児科学会 「インフルエンザ脳症はどうしたら予防できますか?」
なお、川崎病などで「アスピリン」を定期的に服用している子どもがインフルエンザに罹患した場合は、主治医に相談して服薬の継続 or 中止の指示を仰ぐようにしてください(※インフルエンザはワクチン接種で予防するのが最も効果的です)。
「催眠鎮静薬」を配合した商品を安易に選ばないよう注意
OTC医薬品の痛み止めの中には、「ブロモバレリル尿素」や「アリルイソプロピルアセチル尿素」といった「催眠鎮静薬」が配合された商品もあります。これらの成分は鎮痛効果を助ける目的で配合されていますが、実際に臨床試験で明確な効果が示されているものではありません。
また、眠気を催す薬のため、「薬を飲んで早く寝たい」といった場合には便利ですが、「薬を飲んで仕事や勉強を頑張りたい」ときや、薬を飲んだ後に「自動車運転をする」ような場合には不適切です。
特に、これらの薬は依存・習慣性があるため「習慣性医薬品」に指定されている上、薬疹や皮膚症状の副作用14)なども多く報告されているほか、連用していると神経障害などの中毒症状を起こす15,16)恐れもあります。決して、安易に使える薬ではありません。
14) 皮膚の科学.13(6):435-8,(2014)
15) Intern Med.37(9):788-91,(1998) PMID:9804091
16) 臨床神経学.60(11):795-798,(2020)
こうした催眠鎮静薬を含む商品は、パッケージが一段と派手だったり、より強力な痛み止めであるような宣伝で販売されていたりすることが多いですが、本当に今の症状に必要な成分かどうかは冷静に判断する必要があります。
原則3.外用薬では「鎮痛効果の強さ」と「直射日光への対応」が選択基準に
OTC医薬品として販売されている、外用の痛み止めには、以下のような種類があります。
・ジクロフェナク
・ケトプロフェン
・フェルビナク
・ロキソプロフェン
・インドメタシン
・ピロキシカム
・サリチル酸メチル/サリチル酸グリコール
このうち、鎮痛効果は「ジクロフェナク」が最も強力で17,18)、「ケトプロフェン」はそれに次ぐとされています18)。そのため、OTC医薬品の貼り薬や塗り薬で鎮痛効果の高いものが必要な場合は、これら2つの成分が入った製剤が良い選択肢になります。OTC医薬品は医療用の薬よりも「弱い」「効かない」と思われがちですが、外用薬はOTC・医療用で成分や濃度に違いはありません。
17) Cochrane Database Syst Rev. 2015 Jun 11;(6):CD007402. PMID:26068955
18) Br J Sports Med.52(10):642-50,(2018) PMID:29436380
ただし、「ジクロフェナク」や「ケトプロフェン」を含め、多くの痛み止めは内服・外用を問わず15歳未満の子どもには使うことができません。そのため、子どもに使用する場合は、特に年齢制限のない「サリチル酸メチル/サリチル酸グリコール」や、11歳から使える製剤がある「インドメタシン」が選択肢になります。
■商品例
年齢制限のない「サリチル酸メチル/サリチル酸グリコール」、11歳から使える「インドメタシン」の商品
※『サロンパス』などの「サリチル酸メチル」の効果は気休め程度と思っている人も多いですが、筋肉の痛みに対して臨床試験で効果が示されています(Clin Ther.32(1):34-43,(2010) PMID:20171409)
なお、炎症が起きている場合は患部を冷やせる冷感タイプ、慢性的な痛みには患部を温められる温感タイプのものがよく使われますが、「使用して気持ちの良い方」を選べば問題ありません。
「光線過敏症」のリスク
痛み止め(NSAIDs)の外用薬には、「光線過敏症」の副作用を起こすリスクがあります19)。特に「ケトプロフェン」や「ピロキシカム」ではその報告が多く19,20)、「ジクロフェナク」でも報告がある22)ため、これらの薬を使用している間は直射日光(紫外線)に当てないようにサポーターなどで患部を保護するとともに、使用後も最低4週間程度は直射日光を避ける必要があります23)。
このことから屋外で活動する機会が多い、直射日光に曝される恐れのある部位が痛む場合には、これらの成分の外用薬を避ける、あるいは外用薬ではなく内服薬を選ぶなどの対応が必要です。
19) Clin Dermatol.34(5):571-81,(2016) PMID:27638435
20) 医薬品・医療機器等安全性情報 No.276,(2011) 「ケトプロフェン外用剤による光線過敏症に係る安全対策について」
21) 重篤副作用疾患別対応マニュアル「薬剤による接触性皮膚炎」
22) 医療薬学.41(5):360-6,(2015)
23) モーラステープ インタビューフォーム
「外用薬」であっても、妊娠後期は使用できない
貼り薬や塗り薬は「たかが外用薬」と油断している人も少なくありません。特に、「外用薬であれば妊娠中でも大丈夫」と根拠なく思い込んでいる人も多いですが、妊娠後期(出産予定から12週以内)に痛み止め(NSAIDs)の外用薬を使用すると、内服薬を使用した時と同様に胎児に悪影響を及ぼすことが確認されています24)。
痛み止めの外用薬は、使い残した薬が保管されていることも多いですが、妊娠後期には使用しないよう注意してください。
24) PMDA「Pharmaceuticals and Medical Devices Safety Information.312, April 2014」
薬剤師としてのアドバイス:こんな時は病院へ
痛み止めの薬は、医療用としても広く使われているものがOTC医薬品として販売されています。そのため、危険な疾患やケガでなければ、OTC医薬品を使って対応することも十分可能です。
様子がおかしい、いつもと違うと感じた時は病院を受診するのが基本ですが、他にも以下の項目に当てはまるような場合にも危険な痛みである可能性があるため、たとえ痛み止めが効いたとしてもOTC医薬品で対応するのではなく、病院を受診することをお勧めします。
首や肩・腰など関節や筋肉の痛み
①身体を動かさずに安静にしていても痛む
普通の「腰痛」や「関節痛」といった筋肉の痛みは、横になって安静にしていれば痛みが和らぎます。じっと安静にしていても痛みが改善しない、眠っていても痛みで目が覚めるといったような場合は、内臓疾患や感染症などによる痛みの可能性があります。
②痛みの部分が明確でない、痛む部分を強く押しても痛みが強まらない
例えば、心筋梗塞では胸が痛むのが一般的ですが、中には胸ではなく、下顎や顔、肩の痛みやしびれとして現われることがあります(放散痛)。このように広範囲に漠然とした痛みがある、痛む場所を押しても痛みが強まらないといった放散痛がある場合は、危険な病気が隠れている可能性があります。
③脚やお尻に痺れがある
OTC医薬品で、痺れるような痛み(神経障害性疼痛)を治療することはできません。特に、お尻の周りがサドル状に感覚が無くなっている状態は、脊髄圧迫による神経障害の可能性があります。麻痺が進行すると治らなくなってしまう恐れもあるため、すぐに病院を受診する必要があります。
頭痛や喉の痛み
①顎(あご)が胸につかない
通常、顎(あご)を引けば胸にくっつきます。寝違いなど明らかなケガをしていない状況で、首が硬直していてこれができなくなっている場合、「髄膜炎」や「くも膜下出血」といった危険な疾患である可能性があります。
②人生で初めて感じるような頭痛、一瞬でピークに達した頭痛
OTC医薬品で対応できるような頭痛や喉の痛みであれば、これまでの人生に何度も経験している程度の痛み方をします。人生で初めて感じるような強烈な痛みを感じる場合、一瞬でピークに達するよな痛み方をする場合は、「脳出血」などの危険な疾患である可能性があります。
また、つい最近に頭をぶつけた経験があり、次第に頭痛が酷くなってくるようなものにも注意が必要です。
③ものを飲み込んでも痛くない「喉の痛み」
通常、風邪などで喉が痛む場合、唾液を飲み込むと喉が痛みが強まります。これが起こらない場合、先述の「放散痛」として喉に痛みを感じていることがあります。
+αの情報①:「アスピリン喘息」は外用薬でも注意
痛み止め(NSAIDs)では「アスピリン喘息」というアレルギー症状を起こすことがあります。これは飲み薬だけでなく、貼り薬や塗り薬でも起こり得るため、内服・外用を問わず「アスピリン喘息」を起こしたことがある人、痛み止めの薬を使うと鼻詰まりや喘息のような症状が出たことがある人は、これらの薬を避ける必要があります。
なお、内服薬では「アセトアミノフェン」25)、外用薬では「サリチル酸メチル/サリチル酸グリコール」26)は、それぞれ「アスピリン喘息」を起こすリスクは低く、基本的に使用可能とされています。
25) 日本アレルギー学会 「喘息予防・管理ガイドライン(2009)」
26) 大鵬薬品 「よくある質問と回答:MS冷シップ「タイホウ」」
+αの情報②:「ピリンアレルギー」と「アスピリン」
ピリン系の薬とは「ピラゾロン基本骨格」を有する薬のことで、OTC医薬品では『セデス・ハイ』に配合されている「イソプロピルアンチピリン」が該当します。ピリンアレルギーの人は、この成分を避ける必要があります。
※ピラゾロン基本骨格を有する薬(ピリン系の薬)
・アンチピリン、イソプロピルアンチピリン、アミノピリン、スルピリン
・フェニルブタゾン、ケトフェニルブタゾン、フェブラゾン、スルフィンピラゾン
なお「アスピリン」は名前に「ピリン」が入っていますが、「ピラゾロン基本骨格」を持っていないため「ピリン系」の薬ではありません。
+αの情報③:ブランド名だけでなく、商品名は最後まで明確に記録する
OTC医薬品では、「バファリン」や「イブ」と言っても商品はたくさんあり、それぞれ配合されている成分は全く異なります。そのため、病院や薬局で「バファリンを飲んでいた」とだけ伝えても、実際に何の薬を服用していたのかは特定できません。
自分が服用している薬については、商品名を正確に覚えるかお薬手帳に記載する、あるいはパッケージをスマートフォンで写真に撮っておくなど、どの商品かが正確にわかるように記録しておくようにしてください。
※『エキセドリン』のアスピリン+アセトアミノフェン+カフェインの組み合わせは、緊張型頭痛や片頭痛に対して、NSAIDs単独よりも高い効果が報告されています26,27,28)。そのため、頭痛の鑑別が難しい場合や、緊張型頭痛と片頭痛が混合しているような場合に良い選択肢になります。
※ただし、現在の片頭痛治療の第一選択薬は、医療用の「トリプタン」系の薬です。
26) J Headache Pain.15:76,(2014) PMID:25406671
27) Headache.46(3):444-53,(2006) PMID:16618262
28) J Headache Pain.18(1):107,(2017) PMID:29067618
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
【補足情報①】
「ロキソプロフェン」は海外での使用実績に乏しいため、有効性を解析した文献等にはデータが含まれていないことがあり、他剤との鎮痛効果を比較しにくいところがあります。
ただ、内服で「ジクロフェナク」>「ロキソプロフェン」という報告がある(ボルタレン錠 インタビューフォームほか)こと、ジクロフェナクやロキソプロフェンはそれぞれ内服/外用で有効性に差がない(PMID:30839430,29472748など)ことから、基本的な大筋は変わらないと考えています。