『メジコン』と「リン酸コデイン」、同じ咳止めの違いは?~麻薬性・非麻薬性鎮咳薬の効果と副作用、咳止めの使いどころ
記事の内容
回答:依存や呼吸抑制のリスクが少ない『メジコン』、強力な咳止めの選択肢になる「リン酸コデイン」
『メジコン(一般名:デキストロメトルファン)』と「リン酸コデイン」は、どちらも咳止めの薬です。
『メジコン』は「非麻薬性鎮咳薬」で、依存や呼吸抑制のリスクが少ない薬です。
「リン酸コデイン」は「麻薬性鎮咳薬」で、強力な咳止めが必要な際の選択肢になる薬です。
咳止めとしての強さはほとんど変わらないことから、通常はリスクの少ない『メジコン』が優先的に使われます。しかし、強力な咳止めはこの2種しか無いため、「リン酸コデイン」も次の選択肢として使われています。
なお、風邪の咳に対して効果が報告されているのは、鎮咳薬の中で『メジコン』だけです。
回答の根拠①:非麻薬性でも強力な『メジコン』
咳止めには「麻薬性」と「非麻薬性」の2種があり、一般的に「リン酸コデイン」のような「麻薬性鎮咳薬」の方が強力とされています。
しかし「非麻薬性鎮咳薬」の中でも『メジコン』は強力で、『メジコン』10~20mg(通常1回量15~30mg)と「リン酸コデイン」15mg(通常1回量20mg)がほぼ同等とされ1)、これまでの臨床試験でも「麻薬性鎮咳薬」との優劣は明確になっていません2)。
1) メジコン錠 インタビューフォーム
2) Chest.144(6):1827-1838,(2013) PMID:23928798
そのため、『メジコン』と「リン酸コデイン」で咳止めとしての強さに大きな違いはないと考えるのが妥当です。
『メジコン』は依存や呼吸抑制のリスク、便秘の副作用も少ない
1%以下の「リン酸コデイン」は「家庭麻薬」に分類され、法律上は「麻薬」と別の扱いを受けます3)。
しかし、薬としては弱くとも麻薬と同じ作用を持つため、連用によって薬物依存を生じる恐れがあり4)、過量摂取すると呼吸抑制を起こして死に至る恐れもあるなど、リスクの高い薬です。
また、下痢止めとして使う薬でもあることから、副作用で便秘も起こしやすい傾向にあります4)。
3) 麻薬及び向精神薬取締法第2条第5号
4) コデインリン酸塩散1% インタビューフォーム
『メジコン』はこうした「麻薬性鎮咳薬」特有のリスクや副作用が無いため、咳止めとして扱いやすい薬です。
ただし、『メジコン』も眠気を催しやすく、服用後の自動車運転は禁止されている1)ことや、過量摂取で精神症状を起こすことがドラッグとして悪用されている事例もある5)など、濫用のリスクがあることには注意が必要です。
5) 国立医薬品食品衛生研究所 「医薬品安全性情報」 Vol.3 No.11,(2005)
回答の根拠②:「リン酸コデイン」の存在価値~強力な咳止めは選択肢が少ない
そもそも咳止めは、咳によって体力の消耗が激しく、骨折してしまうリスクもあるような場合に使います。そういった際には強力な咳止めが必要になりますが、『メジコン』以外の「非麻薬性鎮咳薬」は効果が弱く、臨床試験の報告も少ないなど、薬として非常に頼りない傾向にあります。
※非麻薬性鎮咳薬の効果と臨床試験
チペピジン:16mg/kgで使えば「リン酸コデイン」と同等とされている6)が、通常用量では劣る
ノスカピン:鎮咳効果は麻薬性のものに及ばない7)
クロペラスチン:鎮咳効果は麻薬性に匹敵する8)とされているが、臨床試験の数は少ない
6) アスベリン錠 インタビューフォーム
7) 純正ノスカピン 添付文書
8) フスタゾール錠 インタビューフォーム
そのため『メジコン』で効果が得られない、副作用などの問題で使用できないといった際には、「リン酸コデイン」が強力な咳止めとして貴重な選択肢になります。
回答の根拠③:風邪の咳に対する効果
咳中枢に作用する鎮咳薬は理論上、どんな咳にも効果が出るはずです。しかし、実際には鎮咳薬の効果は非常に限定的で、風邪の咳にはほとんど効果が得られないことが多くの臨床試験によって示されています9)。
特に「リン酸コデイン」などの麻薬性鎮咳薬は副作用も少なくない薬のため、効果が期待できない風邪の咳に対して、敢えて積極的に使う必要はないと考えられます。
なお、鎮咳薬の中で『メジコン』だけは風邪の咳にも効果の報告がありますが、その効果は「ハチミツ」と同程度とされています10)。
9) Cochrane Database Syst Rev.(11):CD001831,(2014) PMID:25420096
10) Cochrane Database Syst Rev. 4:CD007094,(2018) PMID:29633783
薬剤師としてのアドバイス:咳の原因には、色々なものがある
咳の原因には様々なものがあります。「咳が出る=咳止めを使う」という安易な使い方はせずに、原因によって適した治療や薬を選ぶ必要があります。特に、咳は肺炎や心不全などの症状として現れることもあります。自然に良くなっていかず日々悪化しているような場合は、早めに病院を受診するようにしてください。
※咳止めの効果が期待できる「咳」
感染後咳嗽:喉が痛む風邪のあとに、乾いた咳が続くもの
※咳止めの効果があまり期待できない「咳」
風邪の咳:咳だけでなく、鼻水や喉の痛みの症状もあるもの
※咳止めよりも別の治療をすべき「咳」
咳喘息・気管支喘息:ステロイドの吸入薬による治療
胃食道逆流症による咳:PPIやH2ブロッカーによる治療
副鼻腔炎による後鼻漏:ステロイドの点鼻薬による治療
ACE阻害薬による副作用:薬の変更
タバコによる咳:禁煙
ポイントのまとめ
1. 『メジコン』は、「リン酸コデイン」と同じくらい強力で、依存性や呼吸抑制・便秘などのリスクが少ない
2. 効果が確かな鎮咳薬は少ないため、『メジコン』を使えない場合は「リン酸コデイン」が選択肢になる
3. 風邪の時に出る咳に、鎮咳薬を無理に使う必要はない
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆薬効分類
メジコン:非麻薬性鎮咳薬
リン酸コデイン:麻薬性鎮咳薬
◆同系統の商品
メジコン:アスベリン・ノスカピン・フスタゾール
リン酸コデイン:ジヒドロコデインリン酸
◆適応症
メジコン:感冒、気管支炎、気管支拡張症、肺炎、肺結核、上気道炎(咽喉頭炎、鼻カタル)、気管支造影術及び気管支鏡検査時の咳嗽
リン酸コデイン:各種呼吸器疾患における鎮咳・鎮静、疼痛時における鎮痛、激しい下痢症状の改善
◆用法
メジコン:1回15~30mgを、1日1~4回
リン酸コデイン:1回2gを、1日3回(※1%製剤)
◆小児への使用に関する注意喚起
メジコン:特に記載なし
リン酸コデイン:12歳未満には禁忌(※2019年から)
◆依存性
メジコン:なし
リン酸コデイン:あり
◆呼吸抑制の副作用
メジコン:なし
リン酸コデイン:あり
◆服用後の自動車運転
メジコン:禁止
リン酸コデイン:禁止
◆妊娠中の安全性評価
メジコン:オーストラリア基準【A】
リン酸コデイン:オーストラリア基準【A】
◆授乳中の安全性評価
メジコン:Medications and Mothers’ Milk 17th ed【L3】
リン酸コデイン:Medications and Mothers’ Milk 17th ed【L4】
◆剤型
メジコン:錠(15mg)、散(10%)、配合シロップ(クレゾールとの配合)
リン酸コデイン:散(1%)、錠(20mg)
◆文献請求先
メジコン:塩野義製薬
リン酸コデイン:(※後発医薬品の各メーカー)
+αの情報:妊娠・授乳中の安全性評価
『メジコン』と「リン酸コデイン」は、どちらも催奇形性が否定されている10,11)ため、オーストラリア基準でも最もリスクの低い【A】と評価されています。しかし、「リン酸コデイン」では新生児に一時的な退薬症状が現れたという報告もあります12)。
また、「リン酸コデイン」を「CYP2D6」のUltrarapid Metabolizerである母親が服用した際、授乳によって代謝物の「モルヒネ」が胎児に移行し、胎児が呼吸抑制を起こして死亡した事例が報告されています13)。この体質の人は日本人には1%未満と非常に少ないとされています14)が、簡単な検査はできないため、可能な限り授乳中の服用は避けた方が無難です。
10) Chest.119(2):466-9,(2001) PMID:11171724
11) JAMA.246(4):343-6,(1981) PMID:7241780
12) Pediatrics.65(1):159-60,(1980) PMID:7355017
13) Lancet.368(9536):704,(2006) PMID:16920476
14) Medical Genetics Summaries. PMID:28520350
これらのことから、妊娠・授乳中に強力な咳止めが必要になった際は『メジコン』を選ぶのが一般的です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
前略
初めまして。お忙しいところ失礼いたします。
twitterで(研究に偏りがちですが)薬の話題も取り上げております。
ご存じだと思いますが、今年から12歳未満の鎮咳薬にリン酸コデインが禁止となり、ほぼメジコン一択になりました。
文字数の関係や筆者の力不足ゆえ、読み手に変な誤解を与えそうなので7月3日付のツイートで「総合感冒薬にはリン酸コデインが含まれている場合があるので小児の手が届かないように保管して下さい」とだけ書きました。
問題は貴ブログでも言及されている通りドラッグとしての乱用の可能性です。
アメリカでは2010年から若者に向けたキャンペーンを行い、35%乱用を減らしたと報告がありました。
出典:Subst Abuse Treat Prev Policy. 2016 Jun 23;11(1):22. doi: 10.1186/s13011-016-0067-0.
また、日本の薬理学雑誌でも精神症状のメカニズムは解明されております。
出典:日本薬理学雑誌 / 150 巻 (2017) 3 号 /
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/150/3/150_124/_pdf/-char/ja
これが依存性形成なのか過量摂取による一時的な脳内伝達物質の変化なのか判断が付かず、ご教授して頂きたく連絡いたしました。
お手すきの際で構いませんので何らかのご意見を頂けたら幸甚です。
草々
コメントありがとうございます、改めて調べ直してみますので少々お時間頂ければと思いますm(__)m