「リン酸コデイン」は12歳未満に使っても良い?~呼吸抑制と日本人のCYP2D6
記事の内容
回答:呼吸抑制の副作用を起こす恐れがあるので、禁忌
「リン酸コデイン」や「ジヒドロコデインリン酸」などの麻薬性鎮咳薬は、呼吸抑制という危険な副作用を起こす恐れがあります。特に、海外では小児の死亡例も報告されているため、日本でも12歳未満の小児への使用が禁忌に指定されます(2019年までに)。
「コデイン類」はOTCの風邪薬や咳止めに多く使われており、現段階では小児用の商品にも配合されているため、注意が必要です。
回答の根拠:呼吸抑制のメカニズム~CYP2D6のUltrarapid Metabolizer
「リン酸コデイン」は「モルヒネ」と同程度の鎮咳作用を持ちながら、呼吸抑制の副作用が少ない、咳止めに適した薬です1)。
1) コデインリン酸塩散1% インタビューフォーム
摂取した「コデイン」の約10%は、代謝酵素「CYP2D6」の働きによって「モルヒネ」に代謝されています1)。通常、この「モルヒネ」で中毒症状を起こすようなことはありません。しかし、遺伝的に代謝酵素「CYP2D6」が強力に働くUltrarapid Metabolizerの人では、「コデイン」から「モルヒネ」への代謝が極めて速く進むため、「モルヒネ」の血中濃度が最大80倍にまで高まり2)、中毒症状を起こす恐れがあります。
海外では、12歳未満の小児がこの中毒によって死亡する事例も報告されているため、既に禁忌に指定されています。日本でも同様に、2019年までに全ての製剤が禁忌となります3)。
2) N Engl J Med.351(27):2827-31,(2004) PMID:15625333
3) 厚生労働省 薬生安発 0704 第2号「コデインリン酸塩水和物又はジヒドロコデインリン酸塩を含む医薬品の
「使用上の注意」改訂の周知について」
日本人には少ない体質だが、ゼロではない
欧米には、遺伝的にUltrarapid Metabolizerの人が多いため、この呼吸抑制の副作用はたびたび問題になっています。中には「コデイン」を服用していた母親の授乳によって、乳児が中毒を起こして死亡した事例も報告されています4)。
一方、日本人でUltrarapid Metabolizerの人は1%未満と、非常に少ないとされています5)。
しかし、2018年5月には「ジヒドロコデインリン酸」を含むOTCを使用した小児が中毒を起こし、高次脳機能障害が残ったという事例も報告されている6)など、遺伝的体質の関与が疑われる重篤な副作用も起こっています。
4) Lancet.368(9536):704,(2006) PMID:16920476
5) Medical Genetics Summaries.Codeine Therapy and CYP2D6 Genotype. PMID:28520350
6) 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構PMDA 「副作用救済給付の決定に関する情報 平成30年度5月分」
遺伝的体質は手軽に調べられるものではなく、また副作用が起きた際のリスクも大きいため、「日本人には少ないから」と軽視できるものではありません。
薬剤師としてのアドバイス:100種以上のOTCに、麻薬性鎮咳薬は配合されている
「リン酸コデイン」や「ジヒドロコデインリン酸」などの麻薬性鎮咳薬は、医療用の薬だけでなく、100種以上のOTC(風邪薬や咳止め)にも配合されています。現時点では、小児用の風邪薬や咳止めとして販売されているものもあります。
添付文書の改訂は2019年までに行われるとされていますが、それ以前に販売された商品は禁忌になっていないため、添付文書を読んでも避けることができません。古い咳止めが家にある人は、その成分に麻薬性鎮咳薬である「コデイン類」が入っていないかどうか、一度確認しておくことを強くお勧めします。
ポイントのまとめ
1. 2019年までに、麻薬性鎮咳薬の「コデイン類」は12歳未満への使用が禁忌になる
2. CYP2D6のUltrarapid Metabolizerでは、コデインからモルヒネへの代謝が速く、中毒症状を起こす恐れがある
3. 日本では、100種以上の風邪薬・咳止めに麻薬性鎮咳薬が含まれ、現時点では小児用のものもある
+αの情報①:代わりになる咳止めの薬は?
一般的に、「リン酸コデイン」などの麻薬性鎮咳薬は、他の非麻薬性鎮咳薬よりも強力とされています。しかし、非麻薬性鎮咳薬の中でも『メジコン(一般名:デキストロメトルファン)』は「リン酸コデイン」との優劣に結論が出ておらず7)、あまり劣ることはないと考えられます。
『メジコン』にも濫用のリスクはありますが、強力な咳止めが必要な際には十分に「リン酸コデイン」の代わりになり得ます。
7) Chest.144(6):1827-1838,(2013) PMID:23928798
+αの情報②:小児の咳には「ハチミツ」も選択肢に
風邪の咳に、咳止めはほとんど効果がありません8)。小児の風邪による咳には「ハチミツ」も選択肢になる9)ため、無理に咳止めを使うことはありません。
ただし、「ハチミツ」は国内産・外国産を問わず、たとえ加熱調理したものであっても、1歳未満の乳幼児には禁忌であることや、糖分の摂り過ぎ・虫歯には注意が必要です。
8) Cochrane Database Syst Rev. 2014 Nov 24;(11):CD001831 PMID:25420096
9) Cochrane Database Syst Rev.2018 Apr 10;4:CD007094 PMID:29633783
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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