『エンシュア』・『ラコール』・『エネーボ』、同じ半消化態栄養剤の違いは?~値段・栄養バランスと微量元素
記事の内容
回答:安価な『エンシュア』、日本人の食事内容に合った『ラコール』、微量元素を強化した『エネーボ』
『エンシュア』・『ラコール』・『エネーボ』は、経口・経腸で使う半消化態栄養剤です。
『エンシュア』は、カロリー当たりの価格が最も安い製剤です。
『ラコール』は、脂質の割合が低く、日本人の食事内容に合った栄養バランスの製剤です。
『エネーボ』は、栄養剤で不足しがちなセレン・クロム・モリブデンの微量元素が強化された製剤です。
効能・効果は全て同じため、栄養成分や粘度・味などの違いによって選ぶのが一般的です。
回答の根拠①:最も値段の安い『エンシュア』
『エンシュア』は、半消化態栄養剤の中で単価・カロリー当たりの値段が最も安く、コストパフォーマンスに優れた栄養剤です。1988年に登場した最初の半消化態栄養剤1)で、使用実績も豊富なため、現在も栄養剤のスタンダードとして広く使われています。
また、カロリーを1.5倍に強化した『エンシュアH』も販売されており2)、熱量が必要な場合にも使いやすい製剤です。
※半消化態栄養剤の誕生年と値段(2018年改訂時)
『エンシュア』(1988年誕生)
→0.54円/mL(1缶250mL:250kcalで135.0円 ※1kcalあたり0.54円)
『エンシュアH』(1995年誕生)
→0.95円/mL(1缶250mL:375kcalで237.5円 ※1kcalあたり0.63円)
『ラコール』(1999年誕生)
→0.73円/mL(1袋200mL:200kcalで146.0円 ※1kcalあたり0.73円)
『エネーボ』(2014年誕生)
→0.73円/mL(1缶250mL:300kcalで182.5円 ※1kcalあたり0.61円)
1) エンシュア・リキッド インタビューフォーム
2) エンシュアH インタビューフォーム
長期に渡る栄養管理が必要で経済的負担が大きい場合は『エンシュア』のように安い製剤が、また胃が小さい患者の場合は少量で高いカロリーが得られる『エンシュアH』が、それぞれ良い選択肢になります。
回答の根拠②:日本人の食事内容・栄養バランスに合った『ラコール』
『ラコール』は、三大栄養素のうち「脂肪」の割合を減らし、日本人に合わせた栄養バランスになった製剤です3)。
また「タンパク質」の面でも、大豆食品の摂取量が多い日本人の食事内容に合わせ、植物性タンパク質が多めに配合されています3)。
※三大栄養素のカロリー比 1,3,4)
『エンシュア』・・・炭水化物54.5%、タンパク質14.0%、脂肪31.5%
『ラコール』・・・・炭水化物62.0%、タンパク質18.0%、脂肪20.0%
『エネーボ』・・・・炭水化物53.0%、タンパク質18.0%、脂肪29.0%
※タンパク質の動物性(乳):植物性(大豆)の比率 1,3,4)
『エンシュア』・・・87.3:12.7
『ラコール』・・・・66.6:33.3
『エネーボ』・・・・90.5: 9.5
3) ラコールNF配合経腸用液 インタビューフォーム
4) エネーボ配合経腸用液 インタビューフォーム
このことから、『ラコール』は日本人の食事内容・栄養バランスに最も近い半消化態栄養剤と言えます。
『ラコール』は製剤の粘度が低い
経腸栄養剤は、液体の粘度が高過ぎると管やチューブの中で詰まる原因にもなります。この点、『ラコール』は半消化態栄養剤の中で最も粘度が低く、経管投与する際にも使いやすい栄養剤です。
※半消化態栄養剤の粘度 1,3,4)
『エンシュア』・・・ 9.0mPa・s
『ラコール』・・・・ 5.51~6.52mPa・s
『エネーボ』・・・・16.0mPa・s
回答の根拠③:不足が指摘されてきた微量元素を強化した『エネーボ』
『エネーボ』は、2014年に登場した新しい半消化態栄養剤です。
『エンシュア』や『ラコール』など、従来の栄養剤では欠乏症が指摘されていた「セレン」・「クロム」・「モリブデン」といった微量元素を強化した製剤です4)。
※セレン・クロム・モリブデンの含有量 1,3,4)
『エンシュア』・・・配合なし
『ラコール』・・・・セレン 5μg、クロム・モリブデンの配合なし
『エネーボ』・・・・セレン20μg、クロム31μg、モリブデン34μg
特に、「セレン」の不足は慢性心不全のリスクにもなることから、栄養剤使用時は欠乏症に注意するようガイドラインでも明記されています5)。
5) 日本静脈経腸栄養学会 静脈経腸栄養ガイドライン 第3版
1缶の値段が高く、また250mLで300kcalというカロリー計算のややこしさ、さらに製剤の粘度もやや高めであることなど、取扱いは難しいですが、これら微量元素のほかにも「L-カルニチン」・「タウリン」・「フラクトオリゴ糖」が配合されている4)ことも『エネーボ』の特徴です。
薬剤師としてのアドバイス:過加熱や凍結・細菌繁殖に注意
卵を火にかけると固まるように、「タンパク質」は熱に弱い性質があります。つまり、『エンシュア』や『ラコール』・『エネーボ』のように「タンパク質」を含む半消化態栄養剤は、高い温度に曝すと成分が変性してしまう原因になります。
そのため、これらの栄養剤を温める際は直火や高温による加熱は避け、30~40℃程度の湯煎で行う必要があります。レシピサイト等で公開されているクッキーやケーキ等への調理は、余ったものの活用以外では行わないように注意してください。
また、ビタミン類には光や空気に触れると分解・変化してしまうものがたくさんあります。
※空気や光によって分解・変化するもの
ビタミンA (レチノール)
ビタミンD3(コレカルシフェロール)
ビタミンE (トコフェロール)
※光によって分解・変化するもの
ビタミンK (フィトナジオン)
ビタミンB6(ピリドキシン)
葉酸
さらに、糖類は人間だけでなく細菌にとっても栄養です。開封したまま長時間放置していると、栄養素が分解されてしまうだけでなく、細菌繁殖の原因にもなります。
開封したものはできるだけすぐに服用すること、また、どうしても残ってしまったものは冷暗所で保管し、24~48時間以内に使い切るようにしてください。このとき、凍結保管はできないことにも注意が必要です。
ポイントのまとめ
1. 『エンシュア』は、安価でコストパフォーマンスの良い半消化態栄養剤の代表
2. 『ラコール』は、脂質が少なく、植物性タンパク質が多めの、日本人の食事内容に合った栄養バランス
3. 『エネーボ』は、従来の栄養剤では不足したセレン・クロム・モリブデンを強化した製剤
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆栄養剤としての分類
エンシュア:半消化態栄養剤
ラコール:半消化態栄養剤
エネーボ:半消化態栄養剤
◆効能・効果
エンシュア:経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給
ラコール:経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給
エネーボ:経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給
◆販売単位の分量・カロリー・価格
エンシュア:1缶250mLで250kcal(135.0円)
ラコール:1袋200mLで200kcal(146.0円)
エネーボ:1缶250mLで300kcal(182.5円)
◆誕生した年
エンシュア:1988年
ラコール:1999年
エネーボ:2014年
◆三大栄養素のカロリー比率
エンシュア:炭水化物54.5%、タンパク質14.0%、脂肪31.5%
ラコール:炭水化物62.0%、タンパク質18.0%、脂肪20.0%
エネーボ:炭水化物53.0%、タンパク質18.0%、脂肪29.0%
◆動物性タンパク質:植物性タンパク質の比率
エンシュア: 87.3:12.7
ラコール: 66.6:33.3
エネーボ: 90.5:9.5
◆製剤の粘度
エンシュア:9.0mPa・s
ラコール:5.51~6.52mPa・s
エネーボ:16.0mPa・s
◆セレン・クロム・モリブデンの配合
エンシュア:なし
ラコール:セレンのみ5μg程度含有
エネーボ:セレン20μg、クロム31μg、モリブデン34μg
◆味付けの種類
エンシュア:バニラ・コーヒー・ストロベリーの3種(※エンシュアHは6種)
ラコール:ミルク・コーヒー・バナナ・コーン・抹茶の5種
エネーボ:バニラのみ1種
◆派生の剤型
エンシュア:通常の『エンシュア・リキッド』、カロリーが1.5倍の『エンシュアH』
ラコール:経腸用液、経腸用半固形剤
エネーボ:経腸用液のみ
◆メーカー
エンシュア:アボット
ラコール:大塚製薬
エネーボ:アボット
+αの情報①:「食品」扱いの栄養剤も選択肢に
『エンシュア』・『ラコール』・『エネーボ』は医薬品ですが、同じような成分の栄養剤には「食品」扱いのものが100種以上販売されています。どうしても味や風味が苦手な場合は、食品の中から摂取しやすい商品を選ぶこともできます。
※「食品」扱いの半消化態栄養剤の例
明治・・・・・・・・・・・メイバランス
森永乳業(クリニコ)・・・クリミール、E-3、E-7Ⅱ、MA-8、A1.5、CZ-Hi、PRONA
テルモ・・・・・・・・・・エフツーα
ニュートリー・・・・・・・サンエット、JuiciOミニ、リカバリー
+αの情報②:『ラコール』は東日本大震災の影響で配合が変わった
『ラコール』は、当初「ビタミンK(フィトナジオン)」を125μg/200mLで配合した製剤『ラコール配合経腸用液』で販売されていました。しかし、2011年3月11日に起こった東日本大震災の影響で薬の供給が不足し、栄養剤の切り替えをしなければならない患者が急増しました。その際、この配合量では『ワーファリン(一般名:ワルファリン)』の作用を大きく弱めてしまう恐れがありました。
このことから、2011年6月に「ビタミンK(フィトナジオン)」の含有量を12.5μg/200mLにまで減らした新しい製剤『ラコールNF配合経腸用液』に切り替えられています6)。
6) 大塚製薬 2011年6月 「ラコールNF配合経腸用液新発売・ラコール配合経腸用販売中止 ご案内」
その結果、「ビタミンK(フィトナジオン)」の含有量は『エンシュア』・『ラコール』・『エネーボ』で大差はなくなっています。
※ビタミンKの含有量 1,2,4)
エンシュア :17.5μg/250mL
エンシュアH:26.3μg/250mL
ラコール :12.5μg/200mL
エネーボ :26.3μg/250mL
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
【修正情報】
2024年10月4日
「+αの情報②」のビタミンK含有量を加筆修正しました