『エレンタール』と『エンシュア』、同じ栄養剤の違いは?~タンパク質・脂質の配合と風味・浸透圧
記事の内容
回答:消化が不要の『エレンタール』、三大栄養素のバランスが良い『エンシュア』
『エレンタール』と『エンシュア』は、どちらも経口・経腸で栄養やビタミン・微量元素を補給するための栄養製剤です。
『エレンタール』は、体内で消化する必要がない「成分栄養剤」です。
『エンシュア』は、三大栄養素がバランス良く配合された「半消化態栄養剤」です。
消化管に異常があり安静が必要な場合は『エレンタール』、消化能力に問題がない場合は『エンシュア』を使います。
回答の根拠①:タンパク質や脂質の消化が必要ない『エレンタール』~成分栄養剤の特徴
ヒトは、摂取した「タンパク質」を胃酸や消化酵素で「アミノ酸」にまで分解した後、小腸から吸収します。しかし『エレンタール』には、最初から「アミノ酸」の状態で配合されているため、体内で「タンパク質」を消化・分解をする必要がありません1)。
また、「脂質」も『エレンタール』1袋80g中に509mgしか含まれておらず、消化管への負担を極力少なく抑えられる1)ように設計されています。
1) エレンタール配合内用剤 インタビューフォーム
このことから『エレンタール』などの「成分栄養剤」は、消化・吸収能力に問題がある場合や、潰瘍性大腸炎・クローン病、あるいは手術後などで消化管を安静に保つ必要がある場合に使われます2)。
2) 日本静脈経腸栄養学会「静脈経腸栄養ガイドライン 第3版」
「アミノ酸」であることの欠点~独特の風味
牛乳が発酵したチーズ、大豆が発酵した納豆に特有の味や香りがあるように、「タンパク質」が分解されて「アミノ酸」になると、独特の強い風味を発するようになります。
『エレンタール』などの「成分栄養剤」には、三大栄養素の「タンパク質」が「アミノ酸」の状態で配合されているため、独特の強い風味があります。一般的にこの風味は非常に不味いため、専用のフレーバーを使って味を整える、ゼリーやムースにしてから服用する、といった工夫が必要です1)。
「脂肪」がほとんど含まれないことの欠点~必須脂肪酸の欠乏症
『エレンタール』などの「成分栄養剤」には「脂肪」がほとんど含まれていないため、使い続けていると「必須脂肪酸」が不足することがあります1)。この欠乏症を防ぐためには、脂肪乳剤の併用が必要です2)。
また、脂溶性のビタミンや「セレン」などの微量元素も不足することが報告されている3)ため、これらの欠乏症にも注意する必要があります。
3) J Clin Biochem Nutr.41(3):197-201,(2007) PMID:18299716
回答の根拠②:栄養素のバランスが良く飲みやすい『エンシュア』~半消化態栄養剤の特徴
『エンシュア』は、三大栄養素(タンパク質・脂肪・糖質)がバランスよく配合された「半消化態栄養剤」です。
「アミノ酸」ではなく、牛乳や大豆由来の「タンパク質」の状態で配合されている4)ため、『エレンタール』のような「アミノ酸」特有の味や匂いがなく、口からでも飲みやすい製剤です。
4) エンシュア・リキッド インタビューフォーム
また、元から液体状に調製されているため、水に溶かしたりする必要がなく、扱いやすい製剤です。消化・吸収機能に異常がない場合は、『エンシュア』のような「半消化態栄養剤」が第一選択になります2)。
浸透圧も低めで下痢を起こしにくい
『エンシュア』は「タンパク質」の状態で配合されているため、個々の「アミノ酸」で配合されている『エレンタール』よりも浸透圧が低くなります。そのため、下痢などの副作用も起こしにくい傾向にあります。
※浸透圧・浸透圧比の比較 1,4)
『エレンタール』・・・913mOsm/kg=浸透圧比 3.19(※1kcal/mLとなる通常の溶解方法)
『エンシュア』・・・・330mOsm/kg=浸透圧比 1.15
薬剤師としてのアドバイス:食品扱いの商品を使うという選択肢も
『エレンタール』や『エンシュア』は「経腸栄養剤」という医薬品扱いですが、消化機能に問題がない場合は、食品扱いの商品を使うこともできます。
食品には保険適用がないため基本的に全額自己負担となりますが、医師の処方が必要ありません。
また、既に100種以上の商品が発売されているため、食物繊維やビタミン・微量元素を強化したもの、脂質の組成が工夫されたもの、飲みやすい味にこだわったもの等、様々な特徴のものがあります。そのため、患者にとって飲みやすいものが見つかる可能性も高くなります。
どうしても味や匂いが苦手な際は、一度医師・薬剤師に相談することをお勧めします。
ポイントのまとめ
1. 『エレンタール』は消化する必要がない「成分栄養剤」、消化管を安静にする必要がある際に使う
2. 『エンシュア』は三大栄養素のバランスが良い「半消化態栄養剤」、消化管が機能している際に使う
3. 「アミノ酸」の状態であれば消化の必要はないが、独特の味や匂い・浸透圧が高くなる原因になる
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆栄養剤としての分類と類似の製剤
エレンタール:成分栄養剤(エレンタール・ヘパンED)
エンシュア:半消化態栄養剤(エンシュア・ラコール・エネーボ・アミノレバン)
◆用途
エレンタール:未消化態蛋白を含む経管栄養剤による栄養管理が困難な時
エンシュア:手術後患者の栄養保持、経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給
◆窒素源(タンパク質)の配合状態
エレンタール:各種アミノ酸の状態で配合
エンシュア:牛乳・大豆由来のタンパク質の状態で配合
◆脂肪の配合
エレンタール:0.509g(1袋80g中)
エンシュア:8.8g(1缶250mL中)
◆矯味・味付のバリエーション
エレンタール:矯味(ドリンクミックス10種、フルーツミックス、ムースベース、ゼリーミックス2種)
エンシュア:味付(バニラ・ストロベリー・コーヒーの3種)
◆製剤の性状
エレンタール:粉末
エンシュア:液体
◆粘度
エレンタール:3.7mPa・s(1kcal/mLの通常溶解時)
エンシュア:9.0mPa・s
◆浸透圧
エレンタール:913mOsm/kg=浸透圧比 3.19(※1kcal/mLとなる通常の溶解方法)
エンシュア:330mOsm/kg=浸透圧比 1.15
◆剤型の種類
エレンタール:配合内用剤、P乳幼児用配合内用剤
エンシュア:リキッド、H(高カロリー用)
◆製造販売元
エレンタール:EAファーマ
エンシュア:アボットジャパン
+αの情報①:乳幼児用の『エレンタールP』は組成が特別
新生児・乳幼児では、成人よりも脂質の需要が高くなっています。そのため、子ども用の『エレンタールP』では脂質の配合量が多くなっています。また、アミノ酸も母乳の組成を参考に作られている5)など、特別な構成になっています。
※80g中の脂質量 1,5)
『エレンタール(成人用)』・・・・ 509mg
『エレンタールP(小児用)』・・・2,800mg
5) エレンタールP乳幼児用配合内用剤 インタビューフォーム
+αの情報②:カロリーが1.5倍の『エンシュアH』
『エンシュア』には、通常の『エンシュア・リキッド』と、1mLあたりのカロリーが1.5倍に強化されている『エンシュアH』があります5)。
『エンシュアH』ではビタミンや微量元素だけでなく、三大栄養素(タンパク質・脂肪・炭水化物)が多めに配合されています。同じ量でもカロリーが高くなっているため、胃が小さい人でも必要な熱量を摂取しやすい製剤です。味のバリエーションも6種と豊富ですが、値段は1.5倍以上するため、通常は『エンシュア・リキッド』の方を使用します。
※『エンシュア』の熱量と薬価(2018年改訂時) 4,6)
『エンシュア・リキッド』・・・1mLあたり1.0kcal(1缶250mL:135.0円)
『エンシュアH』・・・・・・・1mLあたり1.5kcal(1缶250mL:237.5円)
また、三大栄養素の配合量が多い『エンシュアH』は、粘度や浸透圧も高めになっていることに注意が必要です。
※『エンシュア』の粘度と浸透圧 4,6)
『エンシュア・リキッド』・・・粘度 9.0mPa・s、浸透圧 330mOsm/kg=浸透圧比 1.15
『エンシュアH』・・・・・・・粘度17.0mPa・s、浸透圧 540mOsm/kg=浸透圧比 1.89
6) エンシュアH インタビューフォーム
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
この記事へのコメントはありません。