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似た薬の違い 甲状腺疾患

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『メルカゾール』と『チウラジール』、同じ甲状腺の薬の違いは?~第一選択と妊娠中の影響、換算量

回答:第一選択は『メルカゾール』、妊娠期には『チウラジール』が選択肢に

 『メルカゾール(一般名:チアマゾール)』と『チウラジール(一般名:プロピルチオウラシル)』は、どちらも過剰になった甲状腺機能を抑える薬です。

 『メルカゾール』は、効果が早く副作用も少ないため、第一選択薬に選ばれています。
 『チウラジール』は、妊娠などで『メルカゾール』を使えない場合の選択肢になります。

 甲状腺疾患の治療は通常でも2~4年、場合によっては5~10年の継続が必要なこともあります。自覚症状が少ないからと服薬が疎かにならないよう注意が必要です。

回答の根拠①:『メルカゾール』が第一選択薬の理由~効果と安全性の評価

 甲状腺機能の亢進症に使う薬には『メルカゾール』と『チウラジール』の2種類があり、どちらも甲状腺ホルモンの産生を抑える効果があります。
 長期的な治療効果に明確な違いはありませんが、早くから効果が得られて副作用も少ない『メルカゾール』が現在は第一選択薬に選ばれています1)。

 1) 日本内科学会雑誌.99(4):733-40,(2010)

『メルカゾール』の利点1~初期治療の効果

 『メルカゾール』は、『チウラジール』と比べると飲み始めてから効果が出るまでの時間が早く、治療初期(12週)ではより高い効果が得られることが報告されています2)。

※治療開始12週後の甲状腺ホルモン値の正常化率 2)
◆FT3:トリヨードサイロニン
メルカゾール(1日 30mg) ・・・90.0%
メルカゾール(1日 15mg) ・・・72.6%
チウラジール(1日300mg)・・・62.9%

◆FT4:サイロキシン
メルカゾール(1日 30mg) ・・・96.5%
メルカゾール(1日 15mg) ・・・86.2%
チウラジール(1日300mg)・・・78.3%

 2) J Clin Endocrinol Metab.92(6):2157-62,(2007) PMID:17389704

 甲状腺機能亢進症は、頻脈や多汗・イライラといった不快な症状が多いため、早い効果が期待できることは治療上も重要な要素です。

『メルカゾール』の利点2~副作用の少なさ

 『メルカゾール』や『チウラジール』では、稀に血液系の副作用が起こることがあります。これについて、『メルカゾール』の添付文書には赤文字で「無顆粒球症」の警告文が掲載されている一方、『チウラジール』の添付文書には警告はありません3,4)。
 しかし、こうした血液系の副作用は『チウラジール』よりも『メルカゾール』の方が少ないことが報告されています2)。さらに、『メルカゾール』は1日の投与量を少なくすることで副作用リスクを減らせることも確認されています5)。

 3) メルカゾール錠 添付文書
 4) チウラジール錠 添付文書
 5) Thyroid.19(6):559-63,(2009) PMID:19445623

 その他、肝臓への負担や薬疹といった副作用も少ない傾向にある2)ため、特別な事情がない限りは『メルカゾール』が選ばれています。

回答の根拠②:『チウラジール』を使う状況~妊娠中の安全性

 『メルカゾール』を妊娠初期に服用すると、胎児の食道や鼻腔・臍(へそ)・頭皮といった部位に異常が起こるリスクが高まることが報告されています6)。
 そのため、妊娠を予定している場合、あるいは16週目までの妊娠初期にはできるだけ『メルカゾール』は避け、薬を使う場合には『チウラジール』を選ぶことが推奨されています7)。

 6) Nihon Rinsho.70(11):1976-82,(2012) PMID:23214071
 7) 日本甲状腺学会 「妊娠初期のチアマゾール投与に関する注意喚起について」

薬の切り替え~MMI:PTU換算量

 既に『メルカゾール』で治療が安定している場合、妊娠初期であっても『チウラジール』へ薬を変更すべきかどうかは、議論が分かれます。これは、薬の切り替えには病状悪化や副作用のリスクがあること、また『メルカゾール』が胎児へ与える影響は重篤なものではなく、多くは外科的処置によって治療できることが理由です。
 そのため、妊娠に気付かず薬を服用していた場合などは、そのまま『メルカゾール』を続けることもあります。

 なお薬を切り替える際は、『メルカゾール』10mgを『チウラジール』200mgの1:20で換算することが推奨されています8)が、報告によっては1:15としているもの9)もあり、幅があります。

 8) 2017 Guidelines of the American Thyroid Association for the Diagnosis and Management of Thyroid Disease During Pregnancy and the Postpartum
 9) 日本内科学会雑誌.103(4):924-31,(2014)

薬剤師としてのアドバイス:妊娠中の薬は自己判断せず、早めの相談を

 インターネット上には「妊娠中は使えません」と書かれている薬の情報が多いため、妊娠がわかった時に自己判断で薬を止めてしまい、病状が悪化して、かえって胎児に悪影響を及ぼす、ということは少なくありません。
 また、薬の中には妊娠中でも安全に使えるものもたくさんあります。「妊娠中の薬は怖い」と全てを拒否する必要はありません。

 油断して危険な薬を飲んでしまうことも避けなければなりませんが、薬のリスクばかりを気にして体調を悪化させる、病気を再燃させるといったことも同じように注意する必要があります。

 妊娠を考える段階から主治医と相談しておくことで、より安全な薬に予め変えておく、という対応ができることもあります。また、妊娠が判明した時点で変更する、といった対応で十分なこともあります。
 妊娠中の治療をどうするか、判明した時点で慌てなくても良いように、早めに主治医に相談しておくようにしてください。

ポイントのまとめ

1. 『メルカゾール』は、効果が早く副作用も少ないため、第一選択薬に選ばれている
2. 『チウラジール』は、妊娠初期(16週目まで)の治療に使われる
3. 『メルカゾール』から『チウラジール』へ変更する場合は、1:15~1:20が換算の目安になる

添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較

◆一般名
メルカゾール:チアマゾール
チウラジール:プロピルチオウラシル

◆適応症
メルカゾール:甲状腺機能亢進症
チウラジール:甲状腺機能亢進症

◆通常の用量設定
メルカゾール:1日30mgから開始、1~4週ごとに漸減、維持量は5~10mg
チウラジール:1日300mgから開始、1~4週ごとに漸減、維持量は50~100mg

◆警告の項目
メルカゾール:あり(無顆粒球症について)
チウラジール:なし

◆妊娠中の安全性評価
メルカゾール:オーストラリア基準【データなし】(※FDA基準【D】)
チウラジール:オーストラリア基準【C】

◆剤型の種類
メルカゾール:錠(5mg)、注
チウラジール:錠(50mg)

◆製造販売元
メルカゾール:あすか製薬
チウラジール:ニプロESファーマ

+αの情報:『チラーヂン』を併用する理由

 甲状腺機能亢進症である「バセドウ病」の治療初期には、病気として甲状腺ホルモンが多いのに、『メルカゾール』や『チウラジール』の作用によって甲状腺機能低下症と同じ症状が現れることがあります。
 薬の量を調節するだけでこの症状が改善しない場合には、一時的に『チラーヂン(一般名:レボチロキシン)』を併用することがあります10)。

 10) 厚生労働省 「重篤副作用疾患別対応マニュアル-甲状腺機能低下症」

 甲状腺の機能を抑える『メルカゾール』や『チウラジール』と、甲状腺の機能を強める『チラーヂン』と、逆に作用する薬を併用することがあるのは、このためです。

 ただし、この併用では寛解率を高めることはできないため、あくまで一時的な症状改善を目的にしたものです11)。

 11) Cochrane Datebase of Syst Rev.18;(2):CD003420,(2005) PMID:15846664
 

~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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コメント

  • コメント (3)

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    • 匿名
    • 2018年 3月 11日

    ポイントのまとめの2、3の記載間違い

      • Fizz-DI
      • 2018年 3月 11日

      ご指摘ありがとうございます、『チウラジール』とすべきところが『チアマゾール』になっていました。
      修正致しました。

    • Fizz-DI
    • 2018年 2月 05日

    【追記】
    『メルカゾール』から『チウラジール』へ変更する必要性と、その換算量について、回答の根拠②に追記しました。

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薬の比較と使い分け100(2017年)
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■日経メディカル開発
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【執筆】
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