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抗生物質 似た薬の違い

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『ジスロマック』と『クラリス』、同じマクロライド系抗菌薬の違いは?~相互作用と服用の手間・妊娠中の安全性

回答:相互作用の少ない『ジスロマック』、値段の安い『クラリス』

 『ジスロマック(一般名:アジスロマイシン)』と『クラリス(一般名:クラリスロマイシン)』は、どちらもマクロライド系の抗菌薬です。

 『ジスロマック』は、相互作用が少なく、服用の手間も少ないです。
 『クラリス』は、値段が安く、経済的負担が少ない薬です。

 また、妊娠中の安全性評価でも『ジスロマック』の方がやや優れているため、患者の併用薬や妊娠などの状況によって使い分けることがあります。一方で、ピロリ除菌には『クラリス』しか保険適用がありません。

回答の根拠①:『ジスロマック』の相互作用~CYPと併用禁忌

 『クラリス』には、多くの薬の代謝・分解に関わる酵素「CYP3A4」の働きを阻害する作用があります1)。そのため一緒に使ってはいけない「併用禁忌」の薬が非常にたくさんあります1)。
 『ジスロマック』はこの代謝酵素「CYP3A4」にほとんど影響しないため、他の薬と相互作用を起こすリスクは低く「併用禁忌」の薬もありません2)。

 1) クラリス錠 添付文書
 2) ジスロマック錠 インタビューフォーム

 実際、『クラリス』では相互作用による血中濃度の上昇が報告されている『ハルシオン(一般名:トリアゾラム)』3)や『テグレトール(一般名:カルバマゼピン)』4)、『テオドール(一般名:テオフィリン)』4)といった薬について、『ジスロマック』であればほとんど影響しないことが報告されています2,5)。
 また、DOACを使っている患者においても、『ジスロマック』で治療を受けた人は『クラリス』で治療を受けた人より出血リスクが低かったという報告もあります6)。

 3) Clin Pharmacol Ther.64(3):278-85,(1998) PMID:9757151
 4) Ann Pharmacother.29(9):906-17,(1995) PMID:8547740
 5) Br J Clin Pharmacol.50(4): 285–95,(2000) PMID:11012550
 6) JAMA Intern Med.180(8):1052-1060,(2020) PMID:32511684

 そのため、『ジスロマック』の方が他に色々な薬を服用している人でも使いやすい抗菌薬と言えます。

相互作用が全く無いわけではない

 CYPに関連した相互作用が少ない『ジスロマック』ですが、『ワーファリン(一般名:ワルファリン)』や『ネオーラル(一般名:シクロスポリン)』との併用では血中濃度の上昇が報告されています2,5)。いずれも『クラリス』より影響は小さいですが、厳密なコントロールが必要な薬のため注意が必要です。

回答の根拠②:『ジスロマック』の少ない服用回数

 『ジスロマック』は白血球などの食細胞に取り込まれた後、感染部位に集まって長時間留まる性質があります。そのため錠剤であれば3日間、ドライシロップであれば1回服用するだけで、効果が7日間続きます2,7)。
 治療期間中は1日2回で服用を続けなければならない『クラリス』よりも、服薬の手間は少なくて済みます。

※7日間の効果を得るための服用回数・期間
ジスロマックの錠剤・・・・・・・・1日1回を3日間
ジスロマックのドライシロップ・・・1回のみ
クラリス・・・・・・・・・・・・・1日2回を7日間

 7) ジスロマックSR成人用ドライシロップ 添付文書

回答の根拠③:『クラリス』の安価な値段

 『クラリス』は、錠剤・粉薬どちらも『ジスロマック』より安価です。後発(ジェネリック)医薬品でも「クラリスロマイシン」の方が安く、経済的負担は少なく抑えることができます。
 マクロライド系の抗菌薬は、その抗炎症作用を期待して長期で使うこともあります。こういった際には薬の値段も考慮が必要です。

※薬価の比較 (2020年改訂時)
ジスロマック・・・600mg(621.90)、250mg錠(216.60)、成人用ドライシロップ(1981.00)、小児用細粒(233.10)
クラリス・・・・・200mg錠(60.70)、50mg(41.10)、小児用ドライシロップ(68.50)

回答の根拠④:妊娠中の安全性評価

 マクロライド系の抗菌薬はいずれも、胎児の重い先天性奇形のリスクには影響しないとされています8)。その中でも、妊娠中の安全性評価の1つである「オーストラリア基準」では、『ジスロマック』の方が『クラリス』よりも安全性は高く評価されています。

※マクロライド系抗菌薬の「オーストラリア基準」
ジスロマック・・・【B1
クラリス・・・・・【B3】
エリスロシン・・・【A

 8) Pharmacoepidemiol Drug Saf.24(12):1241-8,(2015) PMID:26513406

 最も高く評価されているのは『エリスロシン(一般名:エリスロマイシン)』ですが、『クラリス』と同様に相互作用を起こしやすい弱点があるため、併用薬の状況によっては『ジスロマック』が良い選択肢になります。

薬剤師としてのアドバイス:耐性化を防ぐために適正な使用を

 マクロライド系抗菌薬は、日本で非常によく使われている抗菌薬です。特に『クラリス』は小児科・耳鼻科での使用頻度も高いため、薬が効きかなくなる耐性化も進んでおり、大人になってからのピロリ除菌が失敗する主な要因にも挙げられています。

 耐性菌が生まれないようにするには、抗菌薬を使わないことが一番ですが、それでは感染症の治療ができません。そのため、必要な時には正しく使い、耐性化のリスクをできるだけ低く抑えることが重要です。

※抗菌薬の適正使用に向けて、個人レベルでできること
用法・用量を正しく守って使うこと
症状が良くなっても途中で服薬を止めず、最後まで飲み切ること
③家族や兄弟間で抗菌薬の譲り渡しをしないこと
④飲み残しの抗菌薬を自己判断で使わないこと
⑤風邪で抗菌薬を欲しがらないこと

 インターネット上では、『ジスロマック』を「耐性化の進んでいない抗菌薬」として販売しているWebサイトもたくさん見受けられます。しかし、抗菌薬は感染症の原因菌によって明確に使い分ける必要があり、自己判断で選べるものではありません。特に、海外製の模造品では品質が保証されておらず、別の薬物が混ざっていることもあり、非常に危険です。
 また、こうした売買で手に入れた薬では、副作用が起こっても一切補償されません。不適切な使用をすれば耐性化が進み、いざという時に薬が効かなくなってしまいます。抗菌薬のネット通販は絶対に利用しないようにしてください。

ポイントのまとめ

1. 『ジスロマック』は、相互作用のリスクが低く、服用が楽で、妊娠中の安全性評価も高い
2. 『クラリス』は、どの製剤も値段が安く、少量療法時にも経済的負担を抑えられる
3. マクロライド系抗菌薬は耐性化が進んでいるため、正しい使用を心掛ける必要がある

添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較

◆一般名
ジスロマック:アジスロマイシン
クラリス:クラリスロマイシン

◆分類
ジスロマック:15員環マクロライド系抗菌薬
クラリス:14員環マクロライド系抗菌薬

◆1日の服用回数
ジスロマック:1日1回
クラリス:1日2回

◆併用禁忌に指定されている薬の種類
ジスロマック:なし
クラリス:9種

◆妊娠中の安全性評価
ジスロマック:B1
クラリス:C

◆ピロリ除菌に対する保険適用
ジスロマック:なし
クラリス:あり

◆剤形の種類
ジスロマック:錠(250mg、600mg)、成人用ドライシロップ、小児用カプセル(100mg)、小児用細粒、点滴静注
クラリス:錠(200mg、50mg)、小児用ドライシロップ

◆製造販売元
ジスロマック:ファイザー
クラリス:大正製薬

+αの情報①:マクロライド系抗菌薬の少量・長期投与

 マクロライド系の抗菌薬には炎症を抑える作用があり、実際に「びまん性汎細気管支炎」に対して少量を長期で使うことが効果的であることが知られています9)。また、『ジスロマック』では慢性閉塞性肺疾患(COPD)の予後改善効果も報告されている10)ことから、抗菌作用に留まらない薬の可能性が期待されています。

 9) Am J Respir Med.1(2):119-31,(2002) PMID:14720066
 10) N Engl J Med.365(8):689-98,(2011) PMID:21864166

 しかし、こうした使用法は耐性菌を増やす原因にもなっている11)ことが課題になっています。

 11) Chest.153(5):1125-1133,(2018) PMID:29427576

+αの情報②:マクロライド系抗菌薬と心血管系のリスク

 マクロライド系抗菌薬が心筋梗塞や不整脈など心血管系トラブルのリスクを高めるとする見解は数多く報告され、これまで比較的安全とされてきた『ジスロマック』についても、2013年3月にFDA(米国食品医薬品局)が注意喚起を出しています12)。こうしたリスクの上昇は非常に小さなものですが、元々心臓に持病のある人は慎重に使う必要があります。

 12) FDA Drug Safety Communication[2013-3-12] ucm:341822

+αの情報③:妊娠中の安全性は「ペニシリン系」の方が優れる

 『クラリス』や『ジスロマック』といった「マクロライド系抗菌薬」は、妊娠中の安全性が比較的高く評価されていますが、「ペニシリン系抗菌薬」と比べると奇形リスクが少し高い可能性があるという報告があります13)。そのため、必要があって薬を使う場合もその優先順位や必要性は慎重に考える必要があります。

 13) BMJ.368:m331,(2020) PMID:32075790

 

~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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コメント

  • コメント (3)

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    • Fizz-DI
    • 2020年 6月 02日

    【加筆修正】回答の根拠④、+αの情報③
     「クラリスロマシイン」の妊娠中の安全性について、オーストラリア基準が【C】になっていましたが、正しくは【B3】であったため修正しました(【C】はFDA基準)。
     また、マクロライド系抗菌薬はペニシリン系抗菌薬と比べて奇形リスク増加と関連しているとの報告があったため、+αの情報③にその旨を加筆しています。

    • 匿名
    • 2018年 1月 10日

    回答の根拠②にあるジスロマック錠の用法が1日2回になってますが、1日1回では?

      • Fizz-DI
      • 2018年 1月 11日

      ご指摘ありがとうございます、1日1回の間違いですねすみません。
      該当部分、修正致しましたm(__)m

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■日経メディカル開発
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【執筆】
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学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

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