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知っておくべきこと 時事問題

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海外製の「やせ薬」から検出された薬物について~ダイエットに適さない理由と危険性

 

 「MDクリニックダイエット」や「ホスピタルダイエット」と称した海外製の「やせ薬」では、死亡例を含む健康被害が多発していることから、8年前から厚生労働省は使用しないよう警告をしています。しかし、その後もこうした無許可・無承認の医薬品による健康被害が続いています。
 「多少の健康被害は覚悟の上、それでも痩せたい」といった声も見られますが、こうした「やせ薬」には日本で承認されていない薬物や、覚せい剤に似た成分、全く無関係の医薬品が多種含まれており、飲んでも痩せることなくただ健康を害するだけです。

 12月8日のフジテレビ「直撃LIVEグッディ!」内でも薬剤師として「危険で、やつれるだけだ」とコメントさせて頂きましたが、どんな薬物が入っていて具体的にどう危険なのかをもう少し詳しく紹介したいと思います。

「やせ薬」と称する薬には、どんな薬物が含まれていたか

 厚生労働省の医薬食品局監視指導・麻薬対策課の調査報告では、こうした海外製の「やせ薬」から様々な薬物が検出されたことが記録されています1)。
 痩せる作用はあっても効果は体重100kg以上の高度の肥満患者にしか期待できない薬、副作用のリスクが高く販売が中止された薬、痩せる作用のない全く別の薬など、いずれも含有量までは明らかにされていませんが、これらの成分を不適切に摂取したことが急性心不全や不整脈などによる死亡、意識障害や肝機能障害・甲状腺機能障害などの重篤な症状の要因となった恐れがあります。

 1) 厚生労働省「ホスピタルダイエット」などと称されるタイ製の向精神薬等を含有する無承認無許可医薬品による健康被害事例について

 こうした海外製の薬を個人輸入して自己判断で使用した場合、「医薬品副作用被害救済制度」の対象にもならないことに注意が必要です。

 ①「痩せる」作用はあっても、自己判断による使用は危険なもの

 「フェンテルミン」はアメリカ、「マジンドール」は日本でそれぞれ「肥満の治療薬」として承認されている医薬品です。ただし、いずれも使用には厳しい制限(例:体重100kgかつBMI36以上)があり、普通のダイエットに使うものではありません。
 また、こうした薬物療法は食事・運動療法で効果が得られない場合に、医師の指導のもとで初めて選択肢になるものです。持病や併用薬の状況によっては使ってはいけないケースも多く、自己判断で使えるものでもありません。なかには、致死的な副作用のリスクから販売が中止された薬も検出されています。このような薬物を、製剤に含まれる薬物の量もわからない状態で使用することは、非常に危険です。

 さらに、向精神薬は免許が無ければ原則として輸入することはできません。向精神薬を含む薬物の個人輸入は「麻薬及び向精神薬取締法」に違反することにも注意が必要です。

フェンテルミン:日本で未承認、「覚せい剤」に似た構造の成分

 「フェンテルミン」は脳のノルアドレナリン・ドパミンに作用し、食欲を抑える作用があります。アメリカでは、短期間(12週以内)で使う肥満治療薬『Lomaira』として承認されていますが、日本では未承認の薬物です。
 「フェンテルミン」と「トピラマート」の低用量合剤では安全な減量効果が示されていますが、この臨床試験は体重100kg以上、BMI36以上の肥満患者を対象にしたものです2)。普通のダイエット目的で使うものではありません。

 2) Am J Clin Nutr.95(2):297-308,(2012) PMID:22158731

 また「フェンテルミン」は、法律上は「第三種向精神薬」に分類される薬物ですが、化学構造は「覚せい剤」に分類される「アンフェタミン」と非常に近い構造をしています。そのため、「アンフェタミン」と似た依存・習慣性などの毒性を示す危険性があります。

マジンドール:肥満治療薬だが、高度の肥満にしか使わない

 「マジンドール」も脳のノルアドレナリンに作用し、食欲を抑える効果がある向精神薬です。肥満治療薬『サノレックス』として日本で承認されていますが、その使用には厳しい制限が設けられています3)。

※『サノレックス』の適応と用法 3)
①肥満度が+70%、またはBMI35以上の高度肥満症
②薬物療法は、食事・運動療法の補助として用いる
③1ヶ月程度で効果が見られない場合は中止、継続は3ヶ月まで

 3) サノレックス錠 添付文書

 また、緑内障や高血圧・糖尿病、心臓・腎臓・肝臓・膵臓に障害のある人、不安・抑うつや統合失調症患者などでは、症状を悪化させるリスクがあり、禁忌に指定されています3)。さらに、抗精神病薬やインスリン、甲状腺疾患治療薬など多数の薬と相互作用を起こす恐れもあり3)、自己判断による使用は非常に危険です。

シブトラミン:心臓への副作用で発売中止になった薬物

 「シブトラミン」は、抗うつ薬のSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)と同じ作用を持っています。この薬も10%程度の体重減少効果が報告されていますが、体重87kg以上かつBMI32以上の高度の肥満患者を対象にしたものです4)。

 4) BMJ.335(7631):1194-9,(2007) PMID:18006966

 一方で、致死性の不整脈や心臓発作などの心臓への副作用が多く、危険性が効果を上回るとして欧米では2010年に販売が中止、日本でも2009年に承認が却下されています。もともとの持病や体重・BMIに関わらずリスクが高い薬物のため、使用は避けるべきものと言えます。

フルオキセチン:日本で未承認の抗うつ薬

 「フルオキセチン」は抗うつ薬の「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」の1つです。アメリカの内分泌学会が2015年に発表した「肥満の管理、減量促進のための薬物治療に関する臨床診療ガイドライン」では、過体重・肥満に伴う抑うつ症に対して、「フルオキセチン」が選択肢の1つとして記載されています5)。

 5) J Clin Endocrinol Metab.100(2):342-62,(2015) PMID:25590212

 ただし、そもそもうつ病や摂食障害などの治療に対して「体重をむやみに増やさないよう」に使う薬であって、体重を減らす目的を主として使うものでもありません。また、日本では承認されていない薬物のため 「医薬品副作用被害救済制度」の対象にもなりません。

※人が変わったように元気になる薬?
 「フルオキセチン」は一部で「飲んだら人が変わったように元気になる」と紹介されていることがありますが、これは誤った薬の選択による症状の悪化と考えるのが妥当です。
 「双極性障害(躁うつ病)」のうつ状態の時に「大うつ病性障害(うつ病)」だと勘違いし、自己判断で抗うつ薬を服用した場合、「双極性障害」の躁状態が悪化することがあります。この時「人が変わったように元気になった」ように見えることがあります(例:寝なくても平気、高額の買い物をする、壮大なことを語る、など)。
 こうした自己判断による誤った薬の使用は、病気の症状を悪化させ、治療を長引かせてしまう原因になります。必ず主治医と相談して治療方針を決め、薬は薬剤師の指示通りに使うようにしてください。

②体重は減るかもしれないが、「痩せる」こととは無関係の薬

 便秘薬や利尿薬を飲むと、確かに体重は減るかもしれません。しかしそれは便秘が解消されたり、体の水分量が減ったりしただけで、「痩せる」こととは無関係です。

 短期的に「体重が減った!よく効いた!」と思わせるために配合されているのかもしれませんが、騙されてはいけません。

ビサコジル:便秘薬『コーラック』の成分

 「ビサコジル」は、便秘薬『コーラック』に使われている成分です。腸を刺激して蠕動運動を起こし、排便を促す作用があります。痩せる効果は全くありません。

 便秘の人は、便秘が解消されると体重は減りますが、それは「痩せた」ことを意味するものではありません。便秘でない人が飲んでもお腹がゴロゴロして痛むだけで何のメリットもありません。

ヒドロクロロチアジド・フロセミド:尿量を増やす利尿薬

 「ヒドロクロロチアジド」はサイアザイド系利尿薬、「フロセミド」はループ利尿薬です。
 「ヒドロクロロチアジド」は『エカード』や『コディオ』・『プレミネント』といったARBとの合剤に配合されています。「フロセミド」は『ラシックス』という名前で医療現場で使われています。いずれも、本来は浮腫や高血圧の治療に使う薬です6,7)。

 6) ラシックス錠 添付文書

 利尿薬を飲むと尿量が増えるため、体の水分量が減ります。そのため一時的に体重は減るかもしれませんが、それは「痩せた」わけではありません。特に、不適切な利尿薬の使用は脱水症状のリスク、身体の電解質バランスを崩す(例:低Na血症)原因にもなります6)。

③そもそも体重を減らす作用のない薬

 体重が減ったり痩せたりする効果は認められていない薬です。本来は病気の治療に使う薬を健康な人が飲んでも、副作用のリスクを負うだけで何のメリットもありません。

甲状腺末:甲状腺ホルモンを補充する薬

 「甲状腺末」は、本来は甲状腺機能低下症の治療薬として使う『チラーヂン』の成分です。『チラーヂン』は、甲状腺ホルモンを補充する作用があります7)。
チラーヂン~甲状腺ホルモンの補充
 7) チラーヂンS錠 添付文書

 甲状腺ホルモンを増やし過ぎると、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の状態になります。この状態では、新陳代謝やエネルギー生産能力が激しくなるため、動機・息切れがするようになるほか、人によっては体重が減ることもあります。ただし、これは「痩せた」のではなく、甲状腺機能が異常を来たした不健康な状態です。ほとんどの場合、体重が減るよりも前に他の不快な症状が強く出て生活に支障が出ます。

フェノバルビタール・ジアゼパム:不安や不眠に使う薬

 「フェノバルビタール」は『フェノバール』、「ジアゼパム」は『セルシン』として、本来は不眠や不安緊張の解消薬として使う抗不安・睡眠薬です8,9)。どちらも体重を減らす効能・効果はありません。

 8) フェノバール散 添付文書
 9) セルシン錠 添付文書 

 こうした薬を過量に摂取すると、呼吸抑制や意識障害などの重篤な副作用を起こす恐れがあります。少量であっても、不適切な使用は、習慣性・耐性・依存のリスクにもなり、また副作用で眠くなって足元がフラフラするなど、転倒や思わぬ事故の原因になります。特にこれら睡眠薬を服用した状態で自動車を運転すると大きな事故の原因になります。

アセトアミノフェン:市販薬にも使われている解熱鎮痛薬

 「アセトアミノフェン」は、本来は解熱鎮痛薬として使う『カロナール』の成分です。
 発熱時には、体表面からの放熱量を増やすことで解熱効果を発揮します10)が、平熱の体温を下げる効果はありません。熱をたくさん発すればダイエットになるかもしれませんが、この薬でそのような効果は期待できません。

 10) カロナール錠 添付文書

 基本的に副作用の少ない薬ですが、お酒(アルコール)との相性は悪く、また過量摂取では肝障害のリスクもあります10)。

アスコルビン酸:ただのビタミンC

 「アスコルビン酸」はビタミンCのことです。果物とか野菜に入っています。皮膚の新陳代謝などに関わっているビタミンですが、体重を減らす作用はありません。
 同じ「アスコルビン酸」の製剤である『シナール』は1gで6円という非常に安い薬なのですが、高額で購入した薬の正体がこんな成分だとか、効く効かない以前に腹が立つのではないでしょうか。

④むしろ体重が増える傾向にある薬

 「やせ薬」と称しているにも関わらず、薬理作用的にはむしろ体重が増える傾向にある薬も含まれています。法的な理由・副作用の問題など色々な諸事情に全て目を瞑ったとしても、もはや「やせ薬」ですらありません。

プロプラノロール:β遮断薬

 「プロプラノロール」は、本来は不整脈や片頭痛予防に使うβ遮断薬『インデラル』の成分です。
 必要がないのにこういった薬を使うと、徐脈や低血圧、めまい・ふらつきといった副作用を起こす恐れがあり、また急に薬を中止すると心臓に負担がかかることもあります11)。

 11) インデラル錠 添付文書

 また、先述の「肥満の管理、減量促進のための薬物治療に関する臨床診療ガイドライン」では、むしろ「体重を増やす可能性がある薬」に挙げられている薬です5)。片頭痛予防薬として使う場合にも、多少の体重増加が報告されています12)。なぜ「やせ薬」と称する薬に含まれているのか謎です。

 12) Clin Ther.30(6):1069-80,(2008) PMID:18640463

何が起きるかわからない薬を飲むことは、絶対に止めよう

 正規の医薬品と異なり、海外製の無許可無承認の薬物には「どんな薬物」が「どれだけの量」含まれているのかがわかりません。つまり、飲んだら「何が起きるかわからない」ということです。
 また、運よくこれらの薬物で副作用が起こらなかったとしても、普段使っている薬との飲み合わせが悪く、そちらで副作用が出る恐れもあります。
 さらに、このような未承認の薬物・個人輸入の薬を自己判断で使用して起きた健康被害は、「医薬品副作用被害救済制度」の対象にはならないため、一切の補償がされません

 これだけの莫大なリスクを冒してなお、痩せる効能はあっても多くの日本人に適さない薬や、そもそも痩せる作用のない薬、むしろ体重が増える傾向にある薬しか含まれていないため、痩せられることはありません。つまり、得られるメリットは限りなくゼロに近しく、ハイリスク・ノーリターンと言えます。

 特に、こうした薬物を飲んで体調に異変が起きた場合でも、患者は医療機関で言い出しづらいということも報告されています13)。

 13) 英国医薬品・医療製品規制庁 Medicines and Healthcare products Regulatory Agency Press release. 2017 Nov 30.

 このような危険な「やせ薬」は、名を変え品を変え、様々な形態でネット上に出回ります。しかし現在のところ、普通のダイエットを安全に行えるような薬はこの世に存在しません。もしインターネットやSNS上で「やせ薬」を見かけても絶対に手を出さないようにしてください。

~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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【執筆】
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