『リスパダール』が「高プロラクチン血症」を起こしやすいのは何故?~血液脳関門と下垂体
記事の内容
回答:血液脳関門を通りにくいから
『リスパダール(一般名:リスペリドン)』は副作用の少ない「第二世代(非定型)」の抗精神病薬ですが、「高プロラクチン血症」は例外的に起こしやすい傾向があります。これは、『リスパダール』が「血液脳関門」を通りにくく、「下垂体」へ影響しやすいことが要因と考えられています。
『リスパダール』で月経不順や女性化乳房といった「高プロラクチン血症」が問題になった場合、別の抗精神病薬に切り替えるのが一般的です。
回答の根拠:「高プロラクチン血症」と血液脳関門
抗精神病薬は、基本的に「血液脳関門」を通過して脳の「ドパミン受容体」に作用することで、効果を発揮します。
しかし『リスパダール』は、他の抗精神病薬と比べると「血液脳関門」をやや通りにくい性質があります。そのため、「血液脳関門」の外側でも薬の濃度が高くなることがわかっています1)。
※脳内外の薬物濃度比(脳内/脳外の値) 1)
『ジプレキサ(一般名:オランザピン)』・・・・2.70
『セレネース(一般名:ハロペリドール)』・・・2.40
『リスパダール』・・・・・・・・・・・・・・・1.61
1) J Clin Psychiatry.71(9):1131-7,(2010) PMID:20361897
このとき脳内へ移行しなかった『リスパダール』は、「血液脳関門」の外側にある「下垂体」へ作用し、「プロラクチン」の分泌を増やすようになります。
これが、『リスパダール』で「高プロラクチン血症」が多い要因の一つと考えられています。
『リスパダール』は「第二世代(非定型)」の中で例外的に多い
基本的に統合失調症の治療では、より少ない副作用で使える『リスパダール』など「第二世代(非定型)」の薬が第一選択薬として選ばれています2)。これは、 『セレネース』など「第一世代(定型)」の薬と比べて「錐体外路障害」や「高プロラクチン血症」といった副作用が少ない3)からです。
2) Am J Psychiatry.166(2):152-63,(2009) PMID:19015230
3) 日本神経精神薬理学会 「統合失調症の薬物治療ガイドライン(2017改訂版)」
しかし、『リスパダール』は例外的に「高プロラクチン血症」を起こしやすい傾向にあり、実際「第一世代(定型)」の薬よりもリスクが高いとする報告もある4)ため、注意が必要です。
4) 臨床精神薬理.11:461-76,(2008)
薬剤師としてのアドバイス:併用した薬がきっかけで副作用が現れることもある
『リスパダール』だけでは何ともなくても、別の薬を追加した際に「高プロラクチン血症」が問題になることもよくあります。特に、同じようにドパミンに作用する吐き気止めの薬『プリンペラン(一般名:メトクロプラミド)』や、胃薬・抗精神病薬として使う『ドグマチール(一般名:スルピリド)』などと併用した場合は、より起こりやすくなります。
統合失調症の治療では、薬を続けるためにも副作用を少なく抑えることは非常に重要です。「お薬手帳」などで服用中の薬は漏れなく医師・薬剤師に伝えるとともに、家に残っている薬なども自己判断で不用意に使わないようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『リスパダール』は、「第二世代(非定型)」の中で例外的に「高プロラクチン血症」が多い
2. 下垂体は「血液脳関門」の外側にあるため、『リスパダール』の影響を受けやすい
3. ドパミンに作用する薬との併用は、副作用が現れるきっかけにもなるため注意が必要
+αの情報:プロラクチンを下げる薬を追加する、という選択肢
『リスパダール』で「高プロラクチン血症」が問題になった場合、『エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)』など別の「第二世代(非定型)」の抗精神病薬に変更するのが一般的です。
しかし、抗精神病薬は同じ力価で変更しても、確実に同じ効果が得られるわけではありません。そのため、『リスパダール』で症状が安定している場合は、血中プロラクチン値を下げる薬を追加する、という方法をとる場合があります。
特に、副作用が軽度の場合は『芍薬甘草湯』などの漢方薬でもある程度の改善が期待できます5)。薬を変えたくないから副作用は我慢しなければならない、と無理をする必要はありません。
5) 和漢医薬学会大会要旨集.6:167,1989 NAID:110001868103
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
この記事へのコメントはありません。