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似た薬の違い 統合失調症

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『セレネース』と『リスパダール』、新旧の統合失調症の薬の違いは?~定型・非定型の効果と副作用、錐体外路障害と併用

回答:代謝系の副作用が少ない『セレネース』、錐体外路障害が少ない『リスパダール』

 『セレネース(一般名:ハロペリドール)』と『リスパダール(一般名:リスペリドン)』は、どちらも統合失調症の治療薬です。

 『セレネース』は、体重や血糖への影響が少ない「第一世代(定型)抗精神病薬」です。
 『リスパダール』は、錐体外路障害が少ない「第二世代(非定型)抗精神病薬」です。

 現在は『リスパダール』などの新しい「第二世代」の薬が第一選択ですが、体重が増えたり血糖・脂質の値が上がるなど代謝系の副作用が起きた場合は『セレネース』などの古い「第一世代」の薬を使うこともあります。
 ただし、統合失調症の治療は1つの薬で行うのが基本で、安易な併用はしません。

回答の根拠①:統合失調症の第一選択薬と錐体外路障害

 『セレネース』は、1964年から使われている古い「第一世代(定型)抗精神病薬」です。
 『リスパダール』は、「錐体外路障害」の副作用を減らした「第二世代(非定型)抗精神病薬」です。

 統合失調症の初発・再発・維持期のいずれにおいても、「第二世代」は「第一世代」より少ない副作用で治療できることがわかっています1,2,3)。 そのため、統合失調症の治療では「第二世代」が第一選択薬として推奨されています4)。

 1) Int J Neuropsychopharmacol.16(6):1205-18,(2013) PMID:23199972
 2) J Clin Psychopharmacol.16(1):38-44,(1996) PMID:8834417
 3) Mol Psychiatry.18(1):53-66,(2013) PMID:22124274
 4) 日本神経精神薬理学会 「統合失調症の薬物治療ガイドライン(2017改訂版)」

 「第二世代」の薬には色々な種類がありますが、薬剤間で治療効果はほとんど変わりません。そのため、ガイドラインでも特定の薬が推奨されているわけではなく4)、出やすい副作用の違いによって使い分けるのが一般的です。

※第一選択薬である「第二世代(非定型)抗精神病薬」の種類
「セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)」・・・ 『リスパダール』など
「多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)」・・・『ジプレキサ(一般名:オランザピン)』など
「ドパミン部分作動薬(DPA)」・・・・・・・ 『エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)』

『リスパダール』の錐体外路障害が少ない理由

 『セレネース』は、主に「ドパミンD2受容体」に拮抗することで妄想・幻覚などの陽性症状を改善しますが、震えや歩行困難などの運動機能障害の副作用「錐体外路障害」を頻繁に起こすという弱点があります5)。
 『リスパダール』は、「ドパミンD2受容体」だけでなく「セロトニン5-HT2受容体」にも拮抗する「セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)」で、意欲低下などの陰性症状も改善するとともに、「錐体外路障害」も減らします6)。

 5) セレネース錠 インタビューフォーム
 6) リスパダール錠 インタビューフォーム

 『リスパダール』で錐体外路障害が少ないのは、この「セロトニン5-HT2受容体」への拮抗作用が要因と考えられています。

回答の根拠②:体重や血糖値への影響が少ない『セレネース』の使いどころ

 『セレネース』は、『リスパダール』などの「第二世代」と比べて体重増加や血糖・脂質など代謝系への影響が少ないとされています7)。

 7) Lancet.373(9657):31-41,(2009) PMID:19058842

 体重増加による外見の変化は服薬状況や対人関係にも悪影響を及ぼし、血糖・脂質の上昇は心血管系疾患などの原因になります。そのため、『リスパダール』などの「第二世代」でこうしたトラブルが問題になった場合は、『セレネース』も選択肢になります。

体重増加の少ない「第二世代(非定型)抗精神病薬」もある

 『リスパダール』と同じ「セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)」でも、『ロナセン(一般名:ブロナンセリン)』は『リスパダール』より食欲増進・体重増加といった副作用が少ないことが報告されています8)。

 8) 臨床精神薬理.11:297-314,(2008)

回答の根拠③:抗精神病薬は単剤で使うのが基本

 特定の状況下では、『セレネース』などの「第一世代」と『リスパダール』などの「第二世代」を併用することで、単剤での治療よりも高い効果が得られる場合があります9)。

 9) Schizophr Bull.35(2):443-57,(2009) PMID:18417466

  しかし、どういった状況でどの組み合わせが効果的かといったデータは少なく、特に併用した場合は副作用も増えてしまうため、基本的に1つの薬で治療することが推奨されています6)。
 特に、「クロルプロマジン換算」で1日1,000~1,200mgを超える処方が長期間続く場合は、薬が過量傾向であることに注意が必要です。

薬剤師としてのアドバイス:好ましくない副作用を避ける、という選び方

 色々と種類のある抗精神病薬ですが、治療効果は概ね同じで、大きく異なるのは副作用です。

 眠くなっても困らないが体重が増えたら困る人、体重には無頓着でも性機能障害には敏感な人、性機能障害は気にしないが眠気が気になる人・・・人によって好ましくないと感じる副作用や、その程度は大きく異なります。そのため、どの副作用なら問題ないか、どの程度の副作用なら我慢できるか、という視点が治療を続けるためには重要です。

 好ましくない副作用は、薬の変更や減量、症状を抑える薬の追加などで解決できる場合がありますので、抱え込まずに医師・薬剤師に相談することをお勧めします。

ポイントのまとめ

1. 統合失調症の第一選択薬は、副作用が少ない『リスパダール』などの「第二世代(非定型)抗精神病薬」
2. 「第一世代(定型)抗精神病薬」の『セレネース』は、体重増加を起こしにくい
3. 抗精神病薬は、併用せずに1つの薬を続けるのが基本

添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較

◆分類
セレネース:定型抗精神病薬(第一世代)
リスパダール:非定型抗精神病薬(第二世代)の「セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)」

◆日本で使われ始めた年
セレネース:1964年
リスパダール:1996年

◆適応症
セレネース:統合失調症、躁病
リスパダール:統合失調症、小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性(※3mg錠を除く)

◆用法
セレネース:(指定なし)
リスパダール:統合失調症の治療では1日2回

◆妊娠中の安全性評価(オーストラリア基準)
セレネース:オーストラリア基準【C】
リスパダール:オーストラリア基準【C】

◆剤型の種類
セレネース:錠(0.75mg、1mg、1.5mg、3mg)、細粒、注、内服液
リスパダール:錠(1mg、2mg、3mg)、OD錠(0.5mg、1mg、2mg)、細粒、内用液、筋注

◆製造販売元
セレネース:大日本住友製薬
リスパダール:ヤンセンファーマ

+αの情報①:退院後は、薬を飲まなくなる人が多い

 統合失調症の治療では、服薬実行率75%以上を維持できる人の割合が、退院後1ヶ月で80%、3ヶ月で70%、6ヶ月で60%を切ってしまうという調査があります10)。
 症状が安定していても、服薬を止めると8週間以内に4人に1人で精神症状が再発するという報告もあるため11)、効き目が実感できなかったり副作用に困ったりした場合でも、自己判断で薬を中断せずに必ず医師・薬剤師に相談するようにしてください。

 10) 臨床精神薬理.14:1551-60,(2011)
 11) Cochrane Database Syst Rev.(1):CD006329,(2007) PMID:17253586 

+αの情報②:高プロラクチン血症の頻度

 統合失調症の治療で「錐体外路障害」と並んで問題になる「高プロラクチン血症」の副作用も、「第一世代(定型)」の薬の方が「第二世代(非定型)」の薬よりも起こりやすいことがわかっています12)。

 12) Am J Psychiatry.166(2):152-63,(2009) PMID:19015230

 しかし、『リスパダール』は他の抗精神病薬よりも血液脳関門を通過しにくいため、血液脳関門の外にある下垂体に影響しやすい傾向があります13)。これが、「第二世代(非定型)」の中で例外的に『リスパダール』が「高プロラクチン血症」を起こしやすい原因の一つと考えられています。

※脳内外の薬物濃度比(脳内/脳外の値) 13)
『ジプレキサ』・・・・2.70
『セレネース』・・・・2.40
『リスパダール』・・・1.61

 13) J Clin Psychiatry.71(9):1131-7,(2010) PMID:20361897

~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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