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似た薬の違い 統合失調症

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『リスパダール』・『ルーラン』・『ロナセン』、同じ統合失調症の薬の違いは?~使用実績・食事の影響と副作用によるSDAの使い分け

回答:使用実績が豊富な『リスパダール』、錐体外路障害が少ない『ルーラン』、体重増加が少ない『ロナセン』

 『リスパダール(一般名:リスペリドン)』・『ルーラン(一般名:ペロスピロン)』・『ロナセン(一般名:ブロナンセリン)』は、統合失調症に使う「セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA:Serotonin-Dopamine Antagonist)」です。

 『リスパダール』は、海外でも使用実績が豊富な薬です。また食事の影響も受けず、OD錠や内用液など色々な剤型があります。
 『ルーラン』は、錐体外路障害が少なく不安症状にも効果的とされています。
 『ロナセン』は、起立性低血圧や体重増加の副作用が少ない薬です。

 治療効果に大きな違いはないため、薬の飲みやすさ・食事状況・問題となる副作用によって薬を選ぶのが一般的です。

回答の根拠①:世界100ヶ国以上で使われているSDA『リスパダール』

 『リスパダール』・『ルーラン』・『ロナセン』は、「ドパミンD2受容体」と「セロトニン5-HT2受容体」に作用することで抗精神病効果を発揮する「セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)」です。これら3つの間で、治療効果に大きな違いはありません。

 「セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)」は錐体外路障害の少ない非定型(第二世代)抗精神病薬の1つで、現在の統合失調症治療の中心です。初発・再発・維持期のいずれにおいても特定の薬は推奨されていないため、服薬状況や副作用など個々の患者の状況に応じて薬を選ぶ必要があります1)。

 1) 日本神経精神薬理学会 「統合失調症の薬物治療ガイドライン(2017改訂版)」

 しかし、主に日本でしか使われていない『ルーラン』・『ロナセン』と違い、『リスパダール』は世界100ヶ国以上で使われているため、様々な状況での使用実績が豊富にあります。

※薬が使用されている国
『リスパダール』・・・日本を含め世界100ヶ国以上
『ルーラン』・・・・・日本のみ
『ロナセン』・・・・・日本・韓国

 実際、『リスパダール』は他の非定型(第二世代)抗精神病薬である『ジプレキサ(一般名:オランザピン)』や『エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)』などとの有効性・安全性の比較解析データ2)があるほか、妊娠中の疫学研究や安全性評価(オーストラリア基準【C】)などもされています。

 2) Lancet.373(9657):31-41,(2009) PMID:19058842

 状況に応じて薬の変更・増減をすることが多い統合失調症の治療において、使用実績が豊富な『リスパダール』は使いやすい薬と言えます。

『リスパダール』は食事の影響を受けない

 『リスパダール』は錠剤・内用液を問わず、食事の影響を受けません1)。
 一方、『ルーラン』や『ロナセン』は空腹時に服用すると吸収が大きく低下します3,4)。

※空腹時に服用した際の影響
『リスパダール』・・・影響なし
『ルーラン』・・・・・Cmax:0.9→0.5ng/mL、AUC1.7→0.7ng・hr/mL
『ロナセン』・・・・・Cmax:0.14→0.06ng/mL、AUC0.83→0.36ng・hr/mL

 3) ルーラン錠 インタビューフォーム
 4) ロナセン錠 インタビューフォーム

 つまり、『リスパダール』は体調不良で食事が摂れない日や服薬時間がズレてしまった日でも、病状のコントロールをしやすい薬とも言えます。

『リスパダール』は剤型も豊富

 『リスパダール』には錠剤の他にOD錠・細粒・内用液、さらに『リスパダールコンスタ』という筋肉注射剤もあり、使いやすい剤型を選ぶことができます。
 また、『リスパダール』の代謝活性体「パリペリドン」の薬には1日1回の服用で良い『インヴェガ』や月1回の注射で良い『ゼプリオン』などもあります。

 ただし、『リスパダール』の内用液は茶葉を含む飲料(紅茶・日本茶・ウーロン茶など)やコーラと混ぜると含量低下を起こすため5)、内用液を希釈する場合は注意が必要です。

 5) リスパダール内用液 インタビューフォーム

回答の根拠②:『ルーラン』の作用と錐体外路障害・抗不安効果

 『ルーラン』は「セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)」の中で唯一、「セロトニン5-HT1A受容体」にも作用します6)。「5-HT1A受容体」への作用は、抗精神病薬による錐体外路障害を軽減するとともに、抗不安効果・抗うつ効果を発揮することが知られています7)。

※5-HT1A受容体への親和性(Ki値:nM) 6)
『リスパダール』・・・114.0
『ルーラン』・・・・・0.132
『ロナセン』・・・・・1610.0

 6) 臨床精神薬理.11:845-54,(2008)
 7) Int J Neuropsychopharmacol.8(3):341-56,(2005) PMID:15707540

 このことから、『ルーラン』は「セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)」の中でも錐体外路障害を比較的少なく抑え、抗不安効果・抗うつ効果が期待できる薬と言えます。

半減期が短い『ルーラン』は、せん妄の治療にも使いやすい

 『リスパダール』と『ルーラン』は、「器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性」に対する処方が保険審査上認められています8)。特に『ルーラン』は半減期が5~8時間と短いため3)、持ち越し効果のリスクが少ないのが特徴です。

 8) 厚生労働省 保医発0928第1号「医薬品の適応外処方に係る保険診療上の取扱いについて」,(2011)

回答の根拠③:『ロナセン』の作用と起立性低血圧・体重増加

 『ロナセン』は「アドレナリンα1受容体」や「ヒスタミンH1受容体」などへの親和性が低く、余計な作用を起こしにくいのが特徴です6)。

※各種受容体への親和性(Ki値:nM) 6)
『リスパダール』・・・α1(1.76)、 H1(148.0)
『ルーラン』・・・・・α1(2.21)、 H1(64.0)
『ロナセン』・・・・・α1(9.44)、H1(3660.0

 実際、『ロナセン』は『リスパダール』と比べて、起立性低血圧や食欲増進・体重増加といった副作用が少ないことが報告されています9)。

 9) 臨床精神薬理.11:297-314,(2008)

 起立性低血圧は転倒による骨折のリスク、食欲増進・体重増加は嫌悪感により薬を中断してしまうリスクになります。『ロナセン』はこうしたリスクが大きい人にとって使いやすい薬と言えます。

『ロナセン』は併用禁忌が多い

 『ロナセン』は、CYP3A4阻害作用を持つ『イトリゾール(一般名:イトラコナゾール)』など多くの薬と併用禁忌に指定されています4)。
 また、200mLのグレープフルーツジュースの飲用によってAUCやCmaxが1.8倍にまで高まることも報告されている4)ため、注意が必要です。

薬剤師としてのアドバイス:服薬を続けるために、医師・薬剤師と相談して薬を決める

 統合失調症では、血圧や血糖値のように目に見える指標がありません。そのため、薬を使っていてもその効果を実感できず、自己判断で止めてしまうことが少なくありません。しかし、症状の悪化や再入院などのトラブルを防ぐためには、薬を継続して服用する必要があります。

 効果にはほとんど差がないとされている統合失調症の薬では、自分にとって効果を実感できる薬、飲みやすい薬、気になる副作用がない薬を選ぶことが、治療継続の鍵です。
 薬に何を期待するのか、副作用をどのように感じているのか、いまの治療のどこが気になっているのか、医師・薬剤師にこまめに伝えることで、より自分に合った治療を行うことができます。

 効いているのかわからない、不快な副作用がある、いつまで薬を飲み続けなければならないのかわからない、といった疑問や不安は抱え込んだり放置したりせず、医師・薬剤師と相談しながら薬を選ぶことをお勧めします。

ポイントのまとめ

1. 『リスパダール』は使用実績や剤型が豊富で、食事の影響も受けない
2. 『ルーラン』は錐体外路障害が少なく、抗不安効果も期待できる
3. 『ロナセン』は起立性低血圧や体重増加が少ないが、併用禁忌が多い

添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較

◆適応症
リスパダール:統合失調症、小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性(※3mg錠を除く)
ルーラン:統合失調症
ロナセン:統合失調症

◆現在使われている国と地域
リスパダール:世界100ヵ国以上
ルーラン:日本
ロナセン:日本・韓国

◆妊娠中の安全性評価
リスパダール:有益性が危険性を上回る場合のみ投与(オーストラリア基準【C】
ルーラン:有益性が危険性を上回る場合のみ投与(オーストラリア基準の評価なし)
ロナセン:有益性が危険性を上回る場合のみ投与(オーストラリア基準の評価なし)

◆半減期(単回投与時)
リスパダール:4時間(未変化体) / 21時間(主代謝物)
ルーラン:5~8時間
ロナセン:10.7時間

◆用法
リスパダール:1日2回
ルーラン:1日3回
ロナセン:1日2回

◆食事による影響
リスパダール:影響なし
ルーラン:空腹時ではCmax55%、AUC41%低下 →食後に服用
ロナセン:空腹時ではCmax43% AUC43%低下 →食後に服用

◆併用禁忌の薬
リスパダール:アドレナリン
ルーラン:アドレナリン
ロナセン:アドレナリン、CYP3A4を強く阻害する薬

◆剤型の種類
リスパダール:(1mg、2mg、3mg)、OD錠(0.5mg、1mg、2mg)、細粒内用液筋注
ルーラン:錠(4mg、8mg、16mg)
ロナセン:錠(2mg、4mg、8mg)、散

◆製造販売元
リスパダール:ヤンセンファーマ
ルーラン:大日本住友製薬
ロナセン:大日本住友製薬

+αの情報①:体重増加の副作用はバカにできない

 統合失調症の薬では、ヒスタミンH1受容体への作用によって食欲亢進・体重増加の副作用が起こります。特に小児では、12週間の使用で体重は約10%、ウエストは5~8cm近く増加することが報告されています10)。

 10) JAMA.302(16):1765-73,(2009) PMID:19861668

 体重増加は糖尿病や心血管疾患のリスクになるだけでなく、自分の容姿に嫌悪感を覚えると服薬状況や対人関係など様々なトラブルの元になります。生命に直結するような重篤な副作用ではないため軽視されがちですが、侮ることはできません。

+αの情報②:『ロナセン』はドパミンへの作用の方が強い、特殊なSDA

 『ロナセン』は、「セロトニン5-HT2受容体」よりも「ドパミンD2受容体」への親和性の方が高い、特殊な「セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)」です6)。そのため、陽性症状への高い効果を期待して使う場合があります。

※各種受容体への親和性(Ki値:nM) 6)
『リスパダール』・・・D2(4.19)< 5-HT2 (0.23)
『ルーラン』・・・・・D2(0.87)< 5-HT2 (0.25)
『ロナセン』・・・・・D2(0.28)>5-HT2(0.64)

~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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