『パルモディア』と『リピディル』、同じフィブラート系薬の違いは?~副作用とCYPの相互作用、スタチンとの併用
記事の内容
回答:副作用が少ない『パルモディア』、CYPの相互作用が少ない『リピディル』
『パルモディア(一般名:ペマフィブラート)』と『リピディル(一般名:フェノフィブラート)』は、どちらも脂質異常症の治療に使われる「フィブラート系薬」です。
『パルモディア』は、『リピディル』よりも副作用が少ない薬です。
『リピディル』は、代謝酵素が関係する相互作用が少ない薬です。
「フィブラート系薬」と「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)」は併用しないのが基本ですが、『パルモディア』と『リピディル』はどちらも比較的安全に使える組み合わせがあります。
『パルモディア』は2017年7月に登場したばかりの新薬のため、これからの使用実績によって賢い使い分けの基準ができていくことが期待されています。
回答の根拠①:『パルモディア』の少ない副作用~PPARαの選択性と肝障害
『パルモディア』は『リピディル』との比較試験で、同じ効果で副作用は少なかったことが示されています1)。
※副作用の発現率 1)
『パルモディア』・・・2.7~6.8%
『リピディル』・・・・10.8~23.7%
1) パルモディア錠 インタビューフォーム
『パルモディア』や『リピディル』などの「フィブラート系薬」は、肝臓で核内受容体PPARα(peroxisome proliferator-activated receptor α)を活性化することで脂質代謝を改善し、主に中性脂肪(トリグリセライド:TG)を減らし、HDLコレステロールを増やす効果を発揮します。『パルモディア』はこのPPARαに対する選択性が高い1)ため、副作用が少ないと考えらえています。
実際、「フィブラート系薬」では肝機能に関する副作用がよく問題になります。そのため『リピディル』は肝障害がある場合は禁忌で使うことはできません2)。一方、『パルモディア』は軽度の肝障害であれば用量を調節しながら使うことができます1)。
2) リピディル錠 添付文書
回答の根拠②:『リピディル』の少ない相互作用~代謝酵素CYPやOATPの影響
『パルモディア』は、CYP2C8やCYP2C9、CYP3Aによって代謝・分解され、有機アニオントランスポーターであるOATP1B1やOATP1B3の基質にもなります1)。そのため、これらに影響する薬と併用すると『パルモディア』の血中濃度が高まり、副作用を起こす恐れがあります。
※『パルモディア』と相互作用を起こす薬の例 1)
『ネオーラル(一般名:シクロスポリン)』・・・・Cmax8.96倍、AUC13.99倍(併用禁忌)
『リファジン(一般名:リファンピシン)』・・・・Cmax9.43倍、AUC10.90倍(併用禁忌)※単回投与
『プラビックス(一般名:クロピドグレル)』・・・Cmax1.48倍、AUC2.37倍(併用注意)
『クラリス(一般名:クラリスロマイシン)』・・・Cmax2.42倍、AUC2.09倍(併用注意)
一方、『リピディル』はこれら代謝酵素などの影響を受けないため、「スタチン」以外に併用禁忌とされている薬はありません2)。
このことから、脂質異常症以外でも色々な薬を併用している人にとっては、相互作用を起こしにくい『リピディル』の方が使いやすい薬と言えます。
回答の根拠③:「フィブラート系薬」と「スタチン」の併用
通常、LDLコレステロールが高い脂質異常症では、『クレストール(一般名:ロスバスタチン)』や『メバロチン(一般名:プラバスタチン)』などの「スタチン」による治療が推奨されています3)。このとき、「スタチン」だけではTG値やHDL-C値は十分に改善しないことがあり、その場合には「フィブラート系薬」を併用することがあります。
しかし、この併用では「横紋筋融解症」のリスクも高くなるため4)、気軽に試せる治療方法ではありません。
3) 日本動脈硬化学会 「動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2017年版)」
4) JAMA.292(21):2585-90,(2004) PMID:15572716
『パルモディア』・『リピディル』の安全性
その中で『パルモディア』は、『リバロ(一般名:ピタバスタチン)』との併用でも副作用は増えなかったことや、各種「スタチン」との併用でも血中薬物動態には大きく影響しないことが確認されています1)。
※『パルモディア』と『リバロ』併用時の副作用発現率 1)
『リバロ』単独時・・・・・・・・・・8.7%
『パルモディア』0.1mg併用時・・・ 6.7%
『パルモディア』0.2mg併用時・・・10.2%
『パルモディア』0.4mg併用時・・・ 4.2%
また、『リピディル』も『リポバス(一般名:シンバスタチン)』や『リピトール(一般名:アトルバスタチン)』との併用で有効性・安全性が報告されています5,6)。
5) Am J Cardiol.106(11):1594,(2010) PMID:21094360
6) J Am Coll Cardiol.45(10):1649-53,(2005) PMID:15893182
このことから、「フィブラート系薬」と「スタチン」をやむを得ず併用する際には、『パルモディア』や『リピディル』のように比較的安全に使えることが確認された薬を選ぶ必要があります。
薬剤師としてのアドバイス:「ずっと使い続けている薬」の副作用に要注意
脂質異常症の治療は動脈硬化の進行による脳卒中や心筋梗塞といったトラブルを防ぐことが目的のため、薬の服用も長期間に渡る場合がほとんどです。
『パルモディア』・『リピディル』のような「フィブラート系薬」や「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)」など脂質異常症の薬を使う場合、「横紋筋融解症」の副作用に注意する必要があります。
薬の飲み初めには副作用に注意していても、同じ薬をずっと使い続けていると警戒心も薄れてきます。特に、脂質異常症の薬には抗生物質や抗真菌薬など様々な薬と相互作用を起こすものが多いため、別の薬を使ったことがきっかけで副作用が現れる場合も少なくありません。
「何年もずっと使い続けている薬だから大丈夫」と油断することなく、同じ薬でもお薬手帳には必ず記録を続け、追加で何か別の薬を服用することになった場合には、忘れず飲み合わせの確認をしてもらうようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『パルモディア』は副作用、『リピディル』は相互作用が少ない
2. 「フィブラート系薬」と「スタチン」は基本的に併用しないが、有効性・安全性が報告されている組み合わせもある
3. 「ずっと使い続けている薬だから大丈夫」と油断せず、飲み合わせや副作用には注意する
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆適応症
パルモディア:高脂血症(家族性を含む)
リピディル:高脂血症(家族性を含む)
◆用法
パルモディア:1日2回 朝夕
リピディル:1日1回 食後
◆肝障害時の投与
パルモディア:重篤な肝障害がある場合は禁忌
リピディル:肝障害がある場合は禁忌
◆併用禁忌の薬(HMG-CoA還元酵素阻害薬を除く)
パルモディア:シクロスポリン、リファンピシン(CYPやOATPの影響)
リピディル:なし
◆剤型の種類
パルモディア:錠(0.1mg)
リピディル:錠(53.3mg、80mg)
◆製造販売元
パルモディア:興和
リピディル:あすか製薬
+αの情報:『リピディル』は糖尿病領域でも注目
『リピディル』は、糖尿病性網膜症の進展を防ぐ効果が確認され7)、オーストラリアでは『リピディル』の適応症に追加されています。
また、2型糖尿病患者の冠動脈狭窄を抑える効果8)や、下肢切断リスクの軽減効果9)なども示唆され、糖尿病領域でも注目されている薬です。
7) N Engl J Med.363(3):233-44,(2010) PMID:20587587
8) Lancet.366(9500):1849-61,(2005) PMID:16310551
9) Lancet.373(9677):1780-8,(2009) PMID:19465233
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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