■サイト内検索


スポンサードリンク

似た薬の違い 利尿薬

/

『ラシックス』・『ダイアート』・『ルプラック』、同じループ利尿薬の違いは?~作用の長さと低K血症の副作用

回答:高血圧にも使える『ラシックス』、作用が長続きする『ダイアート』、低K血症の少ない『ルプラック』

 『ラシックス(一般名:フロセミド)』、『ダイアート(一般名:アゾセミド)』、『ルプラック(一般名:トラセミド)』は、いずれもループ利尿薬に分類される薬です。

 『ラシックス』は、高血圧にも保険適用があります。
 『ダイアート』は、作用が長続きします。
 『ルプラック』は、K(カリウム)を保持する作用もあるため、「低K血症」の副作用を起こしにくい薬です。

 そのため、血圧コントロールには『ラシックス』、心不全の長期管理には『ダイアート』、低K血症のリスクを避けたい場合には『ルプラック』を選ぶのが一般的です。

回答の根拠①:高血圧にも保険適用のある「フロセミド」~腎障害があるときの選択肢

 ループ利尿薬は利尿作用が強力なため、体内の水分やNaを大量に排泄する目的で、主に心不全や浮腫の治療に使われます。しかし「フロセミド」は、心不全や浮腫だけでなく、高血圧にも保険適用があります1)。

 高血圧治療の中心となる「主要降圧薬」に選ばれているのは、降圧効果に優れた「サイアザイド系利尿薬」ですが、「サイアザイド系利尿薬」は重度の腎機能障害がある場合には使うことができません。
 その点、「フロセミド」には腎血流量を改善する作用があり1)、eGFRが20mL/min/1.73m2以下の慢性腎不全患者であっても利尿効果が発揮されます2)。そのため、「フロセミド」は重度の腎機能障害がある人にとって”高血圧治療”の貴重な選択肢になります3)。

 
 1) ラシックス錠 インタビューフォーム
 2) Ann Intern Med.69(2):249-61,(1968) PMID:4385956
 3) 日本高血圧学会 「高血圧治療ガイドライン(2019)」

 

「フロセミド」は速効性にも優れる

 「フロセミド」は注射剤もあるほか、経口投与でも1時間で効果が現れる1)など、速効性に優れた薬です。そのため、すぐに利尿効果が必要な場合などにも適しています。

 

回答の根拠②:作用が長く、急な体液・血圧変動を起こしにくい「アゾセミド」

 「アゾセミド」の利尿作用は緩やかで長続きする4)ため、急な体液・血液変動を起こさず、交感神経やレニン・アンジオテンシン系にも影響しにくい傾向にあります。

 こうした特徴から、「アゾセミド」は「フロセミド」よりも心不全の予後改善効果が高く5,6,7)、心不全治療の長期的な管理に適しているとされています。

 4) ダイアート錠 インタビューフォーム
 5) Circ J.76(4):833-42,(2012) PMID:22451450
 6) Int J Cardiol.244:242-4,(2017)PMID:28645802
 7) ESC Heart Fail.9(5):2967-2977,(2022) PMID:35730147

 

回答の根拠③:低カリウム血症を起こしにくい「トラセミド」

 「トラセミド」は、抗アルドステロン作用も併せ持つことから、他のループ利尿薬に比べてK(カリウム)の排泄が少ない8)という特徴があります。ループ利尿薬は、水やNaと一緒にK(カリウム)も排泄するため「低K血症」がよく問題になりますが、こうした副作用のリスクを低く抑えられる薬と言えます。

 最近では、「トラセミド」でも「フロセミド」等と低K血症の発生率は変わらない、という報告もあります9,10)が、”低K血症の起こりそうな患者”には「トラセミド」が使われる傾向にある、という背景は考慮した方が良いかもしれません。

 8) Eur J Clin Pharmacol.31 Suppl:29-34,(1986) PMID:3536530
 9) Heart Fail Rev.24(4):461-472,(2019) PMID:30874955
 10) Pharmacoepidemiol Drug Saf.34(4):e70130,(2025) PMID:40130803

 

「トラセミド」も長期管理に優れる

 抗アルドステロン作用を持つ「トラセミド」も、「フロセミド」に比べて心不全に対する予後改善効果は高め11,12)、とされています。

 11) Eur J Heart Fail.4(4):507-513,(2002) PMID:12167392
 12) Heart Fail Rev.24(4):461-472,(2019) PMID:30874955

 

薬剤師としてのアドバイス:トイレに困らないような服用方法を

 「フロセミド」や「アゾセミド」、「トラセミド」といったループ利尿薬を夕方~夜に服用すると、就寝後のトイレが増えてしまうことがあります。夜間のトイレは不眠の原因にもなるため、特別な事情がない限り、利尿薬は午前中~昼に服用するのが一般的です。

 特に、飲み始めの時期は服用後すぐに尿意を催すこともあります。電車通勤をしている人は朝食後ではなく、朝会社に着いてから服用するなど、生活習慣に合わせたタイミングでの服用をお勧めします。

 

ポイントのまとめ

1. 『フロセミド(ラシックス)』は高血圧にも使えて、速効性もある
2. 『アゾセミド(ダイアート)』は作用が穏やかに長続きするため、体液・血圧変動が少なく、心不全の長期管理に適している
3. 『トラセミド(ルプラック)』は抗アルドステロン作用もあり「低K血症」のリスクを低く抑えられる可能性がある

 

薬のカタログスペックの比較

 添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較

フロセミドアゾセミドトラセミド
先発医薬品名ラシックスダイアートルプラック
薬効分類ループ利尿薬ループ利尿薬ループ利尿薬
適応症高血圧症(本態性、腎性等)、悪性高血圧、心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫、月経前緊張症、末梢血管障害による浮腫、尿路結石排出促進心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫
用法1日1回1日1回1日1回
通常の用量1日40~80mg1日60mg1日4~8mg
作用持続時間6時間9時間
(連続投与では12時間)
6~8時間
治験時の低K血症発生率1.7%1.26%0.28%
世界での販売状況世界110ヵ国以上日本、韓国世界27ヵ国
剤型の規格錠(10mg、20mg、40mg)、注錠(30mg、60mg)錠(4mg、8mg)
先発医薬品の製造販売元サノフィ三和化学研究所田辺三菱製薬
同成分のOTC医薬品(販売なし)(販売なし)(販売なし)

 

+αの情報①:利尿作用の薬力学的の比較

 「フロセミド」40mgと、「アゾセミド」60mgで利尿作用はほぼ同等とされています4)。また、「トラセミド」の利尿作用は「フロセミド」よりも約8~10倍高い13,14)とされているため、「フロセミド」40mgと「トラセミド」4~5mg程度でほぼ同等という計算になります。

 13) ルプラック錠 インタビューフォーム
 14) Arzneimittelforschung.38(1A):180-3,(1988) PMID:3285831

 

+αの情報②:ループ利尿薬では「低K血症」に注意

 ループ利尿薬は、MRA(☞新4)とは逆に血液中の「カリウム(K)」を減らす作用があります。血液中のカリウムが減り過ぎても、手足の倦怠感や脱力感が起こり、ひどい場合には不整脈やアルカローシス等の重篤な症状に繋がることがあります。
 他にもカリウムを排泄する作用のあるサイアザイド系利尿薬15)や「甘草(カンゾウ)」を含む漢方薬16)などと併用している場合には、特に注意が必要です。

 15) J Am Coll Cardiol.56(19):1527-34,(2010) PMID:21029871
 16) 日本東洋医学雑誌.61(3):299-307,(2010)

 

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

■主な活動

【書籍】
■羊土社
薬の比較と使い分け100(2017年)
OTC医薬品の比較と使い分け(2019年)
ドラッグストアで買えるあなたに合った薬の選び方を頼れる薬剤師が教えます(2022年)
■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)
服薬指導がちょっとだけ上手になる本(2024年)

 

【執筆】
じほう「調剤と情報」「月刊薬事」
南山堂「薬局」、Medical Tribune
薬ゼミ、診断と治療社
ダイヤモンド・ドラッグストア
m3.com

 

【講義・講演等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学/和歌山県立医科大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

 

【監修・出演等】
異世界薬局(MFコミックス)
Yahoo!ニュース動画
フジテレビ / TBSラジオ
yomiDr./朝日新聞AERA/BuzzFeed/日経新聞/日経トレンディ/大元気/女性自身/女子SPA!ほか

 

 

利益相反(COI)
特定の製薬企業との利害関係、開示すべき利益相反関係にある製薬企業は一切ありません。

■ご意見・ご要望・仕事依頼などはこちらへ

■カテゴリ選択・サイト内検索

スポンサードリンク

■おすすめ記事

  1. 『デパケン』・『インデラル』・『ミグシス』、同じ片頭痛予防薬…
  2. 『ノルバデックス』と『アリミデックス』、同じ乳がん治療薬の違…
  3. 2歳未満の乳幼児に「抗ヒスタミン薬」は使える?~熱性けいれん…
  4. 因果関係・相関関係・前後関係の違いは?~意図的なミスリードに…
  5. 『マクサルト』・『アマージ』・『イミグラン』、同じ片頭痛の薬…
  6. 今さら聞けないインフルエンザの予防接種の話~ワクチンの効果と…
  7. 『ヒアレイン』と『ジクアス』、同じドライアイ治療薬の違いは?…

■お勧め書籍・ブログ

recommended
recommended

■提携・協力先リンク

オンライン病気事典メドレー

banner2-r

250×63

スポンサードリンク
PAGE TOP