『ラシックス』・『ダイアート』・『ルプラック』、同じループ利尿薬の違いは?~作用の長さと低K血症の副作用
記事の内容
回答:高血圧にも使える『ラシックス』、作用が長続きする『ダイアート』、低K血症の少ない『ルプラック』
『ラシックス(一般名:フロセミド)』、『ダイアート(一般名:アゾセミド)』、『ルプラック(一般名:トラセミド)』は、いずれもループ利尿薬に分類される薬です。
『ラシックス』は、高血圧にも保険適用があります。
『ダイアート』は、作用が長続きします。
『ルプラック』は、K(カリウム)を保持する作用もあるため、「低K血症」の副作用を起こしにくい薬です。

そのため、血圧コントロールには『ラシックス』、心不全の長期管理には『ダイアート』、低K血症のリスクを避けたい場合には『ルプラック』を選ぶのが一般的です。
回答の根拠①:高血圧にも保険適用のある「フロセミド」~腎障害があるときの選択肢
ループ利尿薬は利尿作用が強力なため、体内の水分やNaを大量に排泄する目的で、主に心不全や浮腫の治療に使われます。しかし「フロセミド」は、心不全や浮腫だけでなく、高血圧にも保険適用があります1)。

高血圧治療の中心となる「主要降圧薬」に選ばれているのは、降圧効果に優れた「サイアザイド系利尿薬」ですが、「サイアザイド系利尿薬」は重度の腎機能障害がある場合には使うことができません。
その点、「フロセミド」には腎血流量を改善する作用があり1)、eGFRが20mL/min/1.73m2以下の慢性腎不全患者であっても利尿効果が発揮されます2)。そのため、「フロセミド」は重度の腎機能障害がある人にとって”高血圧治療”の貴重な選択肢になります3)。
1) ラシックス錠 インタビューフォーム
2) Ann Intern Med.69(2):249-61,(1968) PMID:4385956
3) 日本高血圧学会 「高血圧治療ガイドライン(2019)」
「フロセミド」は速効性にも優れる
「フロセミド」は注射剤もあるほか、経口投与でも1時間で効果が現れる1)など、速効性に優れた薬です。そのため、すぐに利尿効果が必要な場合などにも適しています。
回答の根拠②:作用が長く、急な体液・血圧変動を起こしにくい「アゾセミド」
「アゾセミド」の利尿作用は緩やかで長続きする4)ため、急な体液・血液変動を起こさず、交感神経やレニン・アンジオテンシン系にも影響しにくい傾向にあります。

こうした特徴から、「アゾセミド」は「フロセミド」よりも心不全の予後改善効果が高く5,6,7)、心不全治療の長期的な管理に適しているとされています。
4) ダイアート錠 インタビューフォーム
5) Circ J.76(4):833-42,(2012) PMID:22451450
6) Int J Cardiol.244:242-4,(2017)PMID:28645802
7) ESC Heart Fail.9(5):2967-2977,(2022) PMID:35730147
回答の根拠③:低カリウム血症を起こしにくい「トラセミド」
「トラセミド」は、抗アルドステロン作用も併せ持つことから、他のループ利尿薬に比べてK(カリウム)の排泄が少ない8)という特徴があります。ループ利尿薬は、水やNaと一緒にK(カリウム)も排泄するため「低K血症」がよく問題になりますが、こうした副作用のリスクを低く抑えられる薬と言えます。

最近では、「トラセミド」でも「フロセミド」等と低K血症の発生率は変わらない、という報告もあります9,10)が、”低K血症の起こりそうな患者”には「トラセミド」が使われる傾向にある、という背景は考慮した方が良いかもしれません。
8) Eur J Clin Pharmacol.31 Suppl:29-34,(1986) PMID:3536530
9) Heart Fail Rev.24(4):461-472,(2019) PMID:30874955
10) Pharmacoepidemiol Drug Saf.34(4):e70130,(2025) PMID:40130803
「トラセミド」も長期管理に優れる
抗アルドステロン作用を持つ「トラセミド」も、「フロセミド」に比べて心不全に対する予後改善効果は高め11,12)、とされています。
11) Eur J Heart Fail.4(4):507-513,(2002) PMID:12167392
12) Heart Fail Rev.24(4):461-472,(2019) PMID:30874955
薬剤師としてのアドバイス:トイレに困らないような服用方法を
「フロセミド」や「アゾセミド」、「トラセミド」といったループ利尿薬を夕方~夜に服用すると、就寝後のトイレが増えてしまうことがあります。夜間のトイレは不眠の原因にもなるため、特別な事情がない限り、利尿薬は午前中~昼に服用するのが一般的です。

特に、飲み始めの時期は服用後すぐに尿意を催すこともあります。電車通勤をしている人は朝食後ではなく、朝会社に着いてから服用するなど、生活習慣に合わせたタイミングでの服用をお勧めします。
ポイントのまとめ
1. 『フロセミド(ラシックス)』は高血圧にも使えて、速効性もある
2. 『アゾセミド(ダイアート)』は作用が穏やかに長続きするため、体液・血圧変動が少なく、心不全の長期管理に適している
3. 『トラセミド(ルプラック)』は抗アルドステロン作用もあり「低K血症」のリスクを低く抑えられる可能性がある
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
フロセミド | アゾセミド | トラセミド | |
先発医薬品名 | ラシックス | ダイアート | ルプラック |
薬効分類 | ループ利尿薬 | ループ利尿薬 | ループ利尿薬 |
適応症 | 高血圧症(本態性、腎性等)、悪性高血圧、心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫、月経前緊張症、末梢血管障害による浮腫、尿路結石排出促進 | 心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫 | 心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫 |
用法 | 1日1回 | 1日1回 | 1日1回 |
通常の用量 | 1日40~80mg | 1日60mg | 1日4~8mg |
作用持続時間 | 6時間 | 9時間 (連続投与では12時間) | 6~8時間 |
治験時の低K血症発生率 | 1.7% | 1.26% | 0.28% |
世界での販売状況 | 世界110ヵ国以上 | 日本、韓国 | 世界27ヵ国 |
剤型の規格 | 錠(10mg、20mg、40mg)、注 | 錠(30mg、60mg) | 錠(4mg、8mg) |
先発医薬品の製造販売元 | サノフィ | 三和化学研究所 | 田辺三菱製薬 |
同成分のOTC医薬品 | (販売なし) | (販売なし) | (販売なし) |
+αの情報①:利尿作用の薬力学的の比較
「フロセミド」40mgと、「アゾセミド」60mgで利尿作用はほぼ同等とされています4)。また、「トラセミド」の利尿作用は「フロセミド」よりも約8~10倍高い13,14)とされているため、「フロセミド」40mgと「トラセミド」4~5mg程度でほぼ同等という計算になります。

13) ルプラック錠 インタビューフォーム
14) Arzneimittelforschung.38(1A):180-3,(1988) PMID:3285831
+αの情報②:ループ利尿薬では「低K血症」に注意
ループ利尿薬は、MRA(☞新4)とは逆に血液中の「カリウム(K)」を減らす作用があります。血液中のカリウムが減り過ぎても、手足の倦怠感や脱力感が起こり、ひどい場合には不整脈やアルカローシス等の重篤な症状に繋がることがあります。
他にもカリウムを排泄する作用のあるサイアザイド系利尿薬15)や「甘草(カンゾウ)」を含む漢方薬16)などと併用している場合には、特に注意が必要です。
15) J Am Coll Cardiol.56(19):1527-34,(2010) PMID:21029871
16) 日本東洋医学雑誌.61(3):299-307,(2010)
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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