『サイトテック』ってどんな薬?~NSAIDsの潰瘍予防と、PPIやH2ブロッカーにない効果と副作用
記事の内容
回答:NSAIDsによる潰瘍予防に使う薬
『サイトテック(一般名:ミソプロストール)』は、NSAIDsで起こる潰瘍の副作用を防ぐために使う薬です。
NSAIDsで胃が荒れる場合には、PPIやH2ブロッカーなど胃酸を抑える薬で防ぐことができます。しかし、小腸での病変には胃酸が関係していないため、これらの薬では防ぐことができません。
『サイトテック』には胃だけでなく、こうした小腸病変を防ぐ効果もあり、特にNSAIDsをしばらく続けて使うような場合に処方されます。
ただし、『サイトテック』には下痢の副作用も多いため、NSAIDsを使う期間が短い、もしくは頓服でしか使わないような場合には、使いやすいPPIなどを使うこともあります。
回答の根拠①:『サイトテック』の作用~「プロスタグランジン」とNSAIDsの副作用
『ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)』や『ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)』などのNSAIDsは、副作用として胃を荒らしやすい傾向があります。
これは、NSAIDsが痛みや炎症の原因となる「プロスタグランジン」を減らすことで効果を発揮する反面、胃粘膜を守っている「プロスタグランジン」も減らしてしまうからです。
『サイトテック』は、この胃粘膜を守る「プロスタグランジン」の作用を補うことで、NSAIDsによる副作用を予防・軽減する効果があります1)。
1) サイトテック錠 インタビューフォーム
回答の根拠②:PPIやH2ブロッカーには無い、「小腸病変」への効果
PPIやH2ブロッカーなどの胃酸を抑える薬でも、胃の粘膜は守ることができます。実際に、『ネキシウム(一般名:エソメプラゾール)』にも、NSAIDsによる潰瘍予防の保険適用があります2)。
2) ネキシウムカプセル 添付文書
しかし、NSAIDsは胃だけでなく、小腸の粘膜にも悪影響を与えることが近年明らかになってきています3)。
この「小腸病変」には胃酸が関係していないため、PPIやH2ブロッカーでは防ぐことはできず、むしろ病変リスクになる可能性が指摘されています4)。
3) J Gastroenterol.44(9):879-88,(2009) PMID:19568687
4) Dig Liver Dis.45(5):390-5,(2013) PMID:23333664
この点『サイトテック』は、「プロスタグランジン」を介して作用するため、胃だけでなく小腸に対しても効果が得られます。実際に、『サイトテック』を併用することで『ボルタレン』による小腸病変を予防できるとする報告もあります5)。
5) Gastrointest Endosc.69(7):1339-46,(2009) PMID:19243767
これらのことから、NSAIDsをしばらく続けて使う必要がある場合には、胃だけでなく小腸への副作用リスクを考慮して『サイトテック』を使うことがあります。
回答の根拠③:よく起こる下痢の副作用と、PPIとの使い分け
『サイトテック』には、小腸の蠕動運動を促し、水分の吸収を阻害する作用があります1)。この作用によって、消化管内の水分量が増えるため、下痢や軟便といった副作用を起こしやすい傾向があります1)。
こうした下痢や軟便はあくまで一過性のものですが、NSAIDsの処方が短期間、もしくは頓服でしか使わないという場合には、副作用の少ないPPIなど別の胃薬を使うこともあります。
便秘薬との併用に注意
こうした『サイトテック』による軟便・下痢といった副作用は、『マグミット(一般名:酸化マグネシウム)』など消化管で水分を集める便秘薬を一緒に使っていると、さらに起こりやすくなります1)。
市販薬も含め、便秘薬との併用には注意が必要です。
薬剤師としてのアドバイス:痛み止めを持ち歩く時は、胃薬も一緒に
出張や旅行などで薬を持って行く際、少しでも荷物を減らそうとして、「痛み止め」だけを持って行く人は少なくありません。
確かに、一度や二度くらいで物凄く大きな副作用が起こることは滅多にありませんが、胃が荒れてお腹が痛むくらいの副作用は、一度飲んだだけでも起こります。
「痛み止め」を持ち歩く際には、必ず一緒に処方された胃薬も併せて準備するようにしてください。
また、外出先で急遽「痛み止め」を購入して飲む時など、胃薬の持ち合わせが無い場合には、クッキー1枚やチョコレート1個でも良いので何か一口食べてから、さらに薬は180mL程度の多めの水で飲むことをお勧めします。
ポイントのまとめ
1. 『サイトテック』は、NSAIDsで起こる胃や小腸への副作用を予防する薬
2. 胃はPPIやH2ブロッカーでも守れるが、小腸を守るためには『サイトテック』が必要
3. 『サイトテック』は下痢をよく起こすので、NSAIDsが短期間・頓服の場合はPPIを使うこともある
+αの情報①:妊娠中には禁忌の薬
『サイトテック』は妊娠中には使うことができません。妊娠中の安全性評価であるオーストラリア基準でも、絶対禁忌に該当する【X】に分類される薬です1)。
しかし、そもそも妊娠中の痛み止めには『ロキソニン』や『ボルタレン』などのNSAIDsではなく、『カロナール(一般名:アセトアミノフェン)』を使うのが一般的です。
+αの情報②:『ムコスタ』の効果と保険適用
胃粘膜保護薬の『ムコスタ(一般名:レバミピド)』にも、NSAIDsによる小腸病変を防ぐ効果があります6)。
6) J Clin Biochem Nutr.40(2):148-55,(2007) PMID:18188417
ただし、『ムコスタ』の胃粘膜を守る効果はPPIやH2ブロッカーよりやや劣る6)ほか、NSAIDsとの併用には保険適用がないことにも注意が必要です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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