『マイスリー』は、女性の方が代謝されにくい?~性差・年齢による影響と翌朝への持ち越しリスク
記事の内容
回答:女性の方が、翌朝まで薬が残りやすい
『マイスリー(一般名:ゾルピデム)』の効果に、男女で大きな違いはありません。
しかし、女性は男性よりも代謝・分解速度が遅いため、翌朝まで薬が残りやすい傾向にあります。
そのため、特に高齢の女性では翌朝への「持ち越し」効果が起こりやすくなっていることに気を付け、投与量を減らすことや、薬を服用した翌朝の自動車運転は控えることなど、事故防止のための注意喚起が必要です。
回答の根拠:男女で異なる『マイスリー』の代謝速度~高齢女性に対する注意
女性は、男性よりも『マイスリー』を服用した翌朝の血中濃度が高かったことから、『マイスリー』の代謝速度には男女差があることが示唆されています1)。
そのため、アメリカ(※商品名『Ambien』)では初期投与量が男性で5~10mg、女性で5mgと、女性では少なめの用量が設定されています2)。
1) FDA Drug Safety Communication:ucm334033
2) マイスリー錠 インタビューフォーム
現在、日本の添付文書では、特に男女差に関した注意喚起や用量設定の区別は行われていません。しかし、睡眠薬が翌朝まで身体に残っていると集中力や注意力が散漫になり、自動車事故などの原因になるため、注意が必要です。
高齢者では、更に薬が残りやすい
『マイスリー』は、高齢者では代謝が遅くなり、身体に薬が残りやすくなっています2)。つまり、高齢女性に『マイスリー』をいきなり10mgで使うのは、非常にリスクが高いと考えられます。
※高齢者(67~80歳)の体内動態 2)
Cmax:健康成人の2.1倍
t1/2:健康成人の2.2倍
AUC:健康成人の5.1倍
実際、『マイスリー』を服用している患者が女性であることや80歳以上であることは、交通事故のリスクを高めるとする調査報告もあります3)。
3) Sleep Med.20:98-102,(2016) PMID:27318232
薬剤師としてのアドバイス:作用の短い睡眠薬であれば大丈夫、という油断に注意
『マイスリー』は、睡眠薬の中では作用時間が短く、翌朝までは薬が残りにくい薬です。しかし、作用の短い睡眠薬であれば翌朝に残ることはない、という油断は非常に危険です。
実際、『マイスリー』10mgを服用した8時間後でも、運転能力に影響する50ng/mL以上の血中濃度が維持されている症例が報告されています4)。
4) 医薬品安全性情報 Vol.11 No.03 (2013/01/31)
また、『マイスリー』は眠れない日にだけ使うこともできる、便利な睡眠薬です。そのため、薬無しでは眠れず、深夜になってから薬を飲むような使い方もされます。こうした使い方をした場合には、薬を飲んだ時間が遅い分、翌朝に残っている薬の量も多くなるため、男女を問わず「持ち越し」に注意が必要です。
ポイントのまとめ
1. 女性は『マイスリー』の代謝速度が遅く、翌朝に残りやすい傾向にある
2. アメリカでは、女性の初期投与量は5mgと、男性より少なめに設定されている
3. 65歳以上の高齢者では、薬が身体に残りやすくなっているため、より注意が必要
+αの情報①:臨床試験では、まだ性差は示されていない
『マイスリー』を服用した男女を比較し、実際にどのような性差が生じるのかという臨床試験はまだ行われていません。そのため、安易に女性への投与量を減らすことが、女性患者への投与量不足につながることを問題視する見解もあります5)。
5) J Clin Psychopharmacol.39(3):189-99,(2019) PMID:30939589
+αの情報②:生活習慣の改善が主軸、睡眠薬は補助
睡眠薬は、どうしても眠れない場合に補助として使う薬であって、ずっと使い続ける薬ではありません。睡眠障害の治療は、生活習慣の改善を主軸にして行う必要があります。
特に、以下のような生活は不眠の原因になっていると気付かないうちに習慣化していることも多いため、睡眠薬の前にまず改善・修正することをお勧めします。
※若い人で多い不眠の原因
1.カフェインの摂り過ぎ(※コーヒーやカフェインを含む清涼飲料水の過量摂取)
2.夜遅くまでパソコンやスマートホンなどの明るい液晶画面を見続けている
3.部屋を明るくしたまま寝ていること(※照明のつけっぱなし、雨戸や遮光カーテンを閉めない等)
4.深夜に食事を摂って睡眠が浅くなっていること
※高齢者に多い不眠の原因
1.日中の運動不足
2.昼寝のし過ぎ(※日没後にうたた寝をする等)
3.部屋に引き籠りがちで日光を浴びていない(※特に朝日を浴びていないこと)
4.あまりに早い時間から布団に入っていること
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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