『レクサプロ』と『ジェイゾロフト』、同じSSRIの違いは?~初期投与量と10代への効果
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回答:初日から効果が期待できる『レクサプロ』、副作用の少ない『ジェイゾロフト』
『レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)』と『ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)』は、どちらも抗うつ薬の「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」です。
『レクサプロ』は、初日から治療用量で飲み始められるため、速い効果が期待できます。
『ジェイゾロフト』は、副作用が少なく飲み続けやすい薬です。
また、抗うつ薬は18歳未満の子どもには有効かどうかわからないとする意見もある中、『レクサプロ』は12~17歳の子どもに対する効果が実証されていることも特徴です。
回答の根拠①:『レクサプロ』の飲み方~初日から治療用量で使える
SSRIやSNRIなどの抗うつ薬は、飲み始めの副作用を避けるために少な目の量で飲み始め、そこから何週間かかけて少しずつ薬の量を増やしていく必要があります。
実際、『ジェイゾロフト』の通常の1日量は100mgですが、最初は25mgから飲み始めて、少しずつ増やしていく必要があります1)。
1) ジェイゾロフト錠 添付文書
これはつまり、副作用を避けるために少ない量で飲んでいる間は十分な薬の効果が期待できない、ということを意味しています。薬を飲んでも副作用ばかりでなかなか効き始めない、というのは、薬への不信感や苛立ちにつながる抗うつ薬の大きな弱点でした。
この点、『レクサプロ』は初日から治療用量である10mgで飲むことができます2)。そのため、他のSSRIやSNRIよりも速い効果が期待できます。
2) レクサプロ錠 添付文書
回答の根拠②:『ジェイゾロフト』の用量設定と副作用
『ジェイゾロフト』は、『レクサプロ』よりも副作用が少ない傾向にあります。
※副作用の頻度(臨床試験時) 1,2)
レクサプロ:傾眠22.6%、悪心20.7%、浮動性めまい8.5%、頭痛8.2%、口渇6.3%、倦怠感5.7%
ジェイゾロフト:傾眠15.2%、悪心18.9%、浮動性めまい5.0%、頭痛7.8%、口渇9.3%、下痢6.4%
またSSRIやSNRIの効果や副作用を比較した解析では、『レクサプロ』と『ジェイゾロフト』は副作用の少なさで1位と2位にランク付けされています3)。
3) Lancet.373(9665):746-58,(2009) PMID:19185342
そのため、どちらも副作用が少なく飲み続けやすい薬と言えます。
しかし、日本では『ジェイゾロフト』を100mgで使うのに対し、海外では主に200mgで使います4)。基本的に半分の量で使っている日本では、この解析結果よりも効き目が穏やかになる分、副作用もより少なくなると考えられます。
4) ジェイゾロフト錠 インタビューフォーム
このことから、『ジェイゾロフト』はたくさんある抗うつ薬の中でも、副作用を少なく抑えながら使える薬と言えます。
『ジェイゾロフト』には、病態による禁忌事項もない
『レクサプロ』は、心臓に「QT延長」がある人には禁忌で使えません2)。
しかし『ジェイゾロフト』にはこうした持病・体質による禁忌はなく、使う人を選ばない薬です。
回答の根拠③:18歳未満へのSSRIの効果
SSRIやSNRIは若年層、特に18歳未満の患者に対する使用は慎重に行うよう注意書きがされています。これは、SSRIである『パキシル(一般名:パロキセチン)』では、18歳未満のうつ病に対する有効性が認められなかったとする報告があるからです5)。
5) J Am Acad Child Adolesc Psychiatry.45(6):709-19,(2006) PMID:16721321
しかしその中で『レクサプロ』は唯一、12~17歳の大うつ病性障害に対する効果が確認されています6)。
6) J Am Acad Child Adolesc Psychiatry.48(7):721-9,(2009) PMID:19465881
※小児に対する注意喚起 2,3)
レクサプロ・・・・12歳未満の大うつ病性障害患者に投与する際には適応を慎重に検討すること
ジェイゾロフト・・・18歳未満の大うつ病性障害患者に投与する際には適応を慎重に検討すること
このことから、10代の若い世代に薬物治療が必要となった場合、『レクサプロ』は貴重な選択肢になります。
薬剤師としてのアドバイス①:「うつ病」と「躁うつ病」の混同に注意
『レクサプロ』や『ジェイゾロフト』などSSRIや『サインバルタ』などのSNRIといった抗うつ薬は、「うつ病(大うつ病性障害)」の薬ですが、「躁うつ病(双極性障害)」の薬ではありません。
ところが、「躁うつ病(双極性障害)」でも、時期によっては「うつ病(大うつ病性障害)」と似たような症状になることがあります。そのため、SSRIなどの抗うつ薬を間違って使ってしまうことは少なくありません。
「躁うつ病(双極性障害)」に抗うつ薬を使うと、躁状態を悪化させる恐れがあるため、基本的に別の薬を使います。抗うつ薬を使う場合も、慎重に使う必要があります。
医師はこうした病態を見極めるために様々な聞き取りや検査を行いますが、うつ状態の「しんどい時」しか受診しなかったり、「しんどい時」のことしか話さなかったりすると、こうした誤診の原因になってしまいます。必ず、症状が落ち着いている時や「元気な時」にも定期的に受診し、近況を報告するようにしてください。
薬剤師としてのアドバイス②:急に元気に、活動的になったら要注意
『レクサプロ』や『ジェイゾロフト』で得られる効果は、どちらかと言うと「落ち着く」イメージのもので、急に元気になったり活発になったりするものではありません。
以下の元気な状態は、「薬が良く効いた」のではなく、「躁うつ病(双極性障害)」の病状(躁状態)である可能性もあります。
※薬が効き始めたときのイメージ(落ち着く方向)
気分が落ち着くようになった
会話するようになった
眠れるようになった
食事を摂れるようになった
テレビや本などを読むようになった
※躁状態のイメージ(衝動的・攻撃的)
怒りっぽくなった
饒舌になった
寝なくても平気になった
服装が派手になった
衝動買いが増えた
異様に仕事を頑張り始めた
こういった傾向が見られた場合は一度、主治医にその症状を伝え、薬の選択も含めて相談するようにしてください。
また、こういった行動は、本人はほとんど自覚していないケースもあります。家族や周囲の人間が「気づく」ことも重要です。
ポイントのまとめ
1. 『レクサプロ』は、初日から治療用量で始められ、また10代の子どもに対する効果も実証されている
2. 『ジェイゾロフト』は、副作用を少なく抑えながら使うのに向いている
3. 軽い「躁状態」に気付いたら、早めに主治医に相談する
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆適応症
レクサプロ:うつ病・うつ状態、社会不安障害
ジェイゾロフト:うつ病・うつ状態、パニック障害、外傷後ストレス障害
◆用法・用量
レクサプロ:1日1回夕食後、10~20mg
ジェイゾロフト:1日1回、25mgからはじめて100mgまで漸増、100mgで治療する
◆小児に対する注意喚起
レクサプロ:12歳未満の大うつ病性障害患者に投与する際には適応を慎重に検討すること
ジェイゾロフト:18歳未満の大うつ病性障害患者に投与する際には適応を慎重に検討すること
◆副作用の頻度(臨床試験時)
レクサプロ:傾眠22.6%、悪心20.7%、浮動性めまい8.5%、頭痛8.2%、口渇6.3%、倦怠感5.7%
ジェイゾロフト:傾眠15.2%、悪心18.9%、浮動性めまい5.0%、頭痛7.8%、口渇9.3%、下痢6.4%
◆病態による禁忌
レクサプロ:QT延長
ジェイゾロフト:なし
◆剤型の種類
レクサプロ:錠(10mg)
ジェイゾロフト:錠(25mg、50mg、100mg)、OD錠(25mg、50mg、100mg)
◆製造販売元
レクサプロ:持田製薬
ジェイゾロフト:ファイザー
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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