『デパケン』・『インデラル』・『ミグシス』、同じ片頭痛予防薬の違いは?~推奨度と禁忌による使い分け
記事の内容
回答:推奨度の高い『デパケン』、妊娠中の選択肢となる『インデラル』、副作用や禁忌の少ない『ミグシス』
『デパケン(一般名:バルプロ酸)』、『インデラル(一般名:プロプラノロール)』、『ミグシス(一般名:ロメリジン)』は、片頭痛の予防薬として保険適用のある薬です。
『デパケン』は、ガイドラインでも推奨度が高く設定されていますが、眠気の副作用が多く、また催奇形性があるため若い女性には使えないなど、使える状況が限られています。
『インデラル』は、妊娠中でも比較的安全に使える予防薬ですが、片頭痛治療薬の『マクサルト(一般名:リザトリプタン)』と併用禁忌です。
『ミグシス』は、エビデンスの質・量がやや劣りますが、副作用や禁忌が少なく使いやすい薬です。
片頭痛予防薬の効果に大きな違いはないため、その人の持病や併用薬が禁忌に該当しないこと、副作用なく治療できることを基準に薬を選ぶのが一般的です。
また、これらの薬が使えない場合には、保険適用外の薬を使うこともあります。ただし、こうした予防薬は片頭痛発作が頻繁に起こって日常生活に支障がある場合に使うもので、片頭痛治療の基本は頓服で使う「トリプタン製剤」です。
回答の根拠①:推奨グレードは高いが、使える状況も限られる『デパケン』
『デパケン』は、各種てんかんの治療に使われる「抗てんかん薬」です。
片頭痛に対して多くの臨床試験が行われ、質・量ともに優れたエビデンスが得られているため、海外でも第一選択薬として使われています。このことから、日本のガイドラインでも最も推奨される「グレードA」、薬効群も最も高い「Group 1(有効)」に分類されています1)。
1) 日本神経学会・日本頭痛学会 「慢性頭痛の診療ガイドライン (2013)」
また、『デパケン』には徐放製剤(デパケンR)があるため、予防薬としての服用が1日1回で済ませられる場合もあり2)、服用の手間が少ない薬とも言えます。
※用法の違い
デパケン:1日2~3回
デパケンR:1日1~2回
インデラル:1日2~3回
ミグシス:1日2回
2) デパケンR錠 添付文書
ただし、『デパケン』は副作用として眠気を催しやすい薬です2)。
また、胎児への催奇形性のリスクがあり2)妊娠適齢期の女性には適さないこと、小児の場合はてんかんに関連した頭痛の場合に限定して使う必要がある1)など、使える状況は限られています。
更に、『オラペネム(一般名:テビペネム)』などのカルバペネム系の抗生物質と併用禁忌である2)など、副作用や注意事項も多く、どんな人でも気軽に使える薬というわけではありません。
回答の根拠②:妊娠中の選択肢になる『インデラル』~治療薬との併用に注意
『インデラル』は、高血圧や不整脈に使う「β遮断薬」です。『デパケン』と同じように、ガイドラインでも高く推奨されている薬です1)。
『デパケン』や『ミグシス』と比べると妊娠中でも比較的安全に使えるため、妊娠中に片頭痛の予防治療をしなければならない場合に使われます1)。
※妊娠中の使用に対する表記
デパケン:原則禁忌(ヒトでの催奇形性が報告されている)
インデラル:禁忌ではない(やむを得ない場合以外は投与しないことが望ましい)
ミグシス:禁忌(動物での催奇形性が報告されている)
『インデラル』は「β遮断薬」のため、不整脈などの持病を持つ片頭痛患者に適していますが、その反面、気管支喘息などの持病を持つ人には禁忌で使えません1,3)。
また、片頭痛治療薬の『マクサルト』は『インデラル』と一緒に使えない(禁忌)3)ため、治療薬との組み合わせにも注意する必要があります。
3) インデラル錠 添付文書
回答の根拠③:副作用や禁忌の少ない『ミグシス』~日本で最初の保険適用
『ミグシス』は、高血圧にもよく使う「Ca拮抗薬」の仲間です。
臨床試験の段階では自覚症状・検査値どちらでも異常が確認されなかった、非常に副作用の少ない薬です4)。また、併用禁忌とされる薬もない4)ことから、多くの人にとって使いやすい薬と言えます。
4) ミグシス錠 インタビューフォーム
『ミグシス』は1999年に登場してから2012年までの10年以上、日本では保険適用で使える唯一の片頭痛予防薬だったことから、国内の使用実績が豊富です。そのため、予防薬の選択肢の1つとして推奨されています1)。
ただし、臨床試験の数や質などの観点から『デパケン』や『インデラル』よりもやや劣るため、ガイドライン上での扱いは推奨度が「グレードB」、有効度も「Group2(ある程度有効)」と、それぞれ1ランク下の評価になっています1)。
※ガイドライン上の推奨度
デパケン:A(行うよう強く勧められる)
インデラル:A(行うよう強く勧められる)
ミグシス:B(行うよう勧められる)
※ガイドライン上の薬効群
デパケン:Group 1(有効)
インデラル:Group 1(有効)
ミグシス:Group 2(ある程度有効)
薬剤師としてのアドバイス:禁忌に該当せず、少ない副作用で効果が得られる薬を選ぶ
片頭痛治療薬の「トリプタン製剤」をあまり頻繁に使用していると、薬の使い過ぎによる「薬物乱用頭痛」を起こす恐れがあります。また、頻繁に頭痛を起こしていると神経が過敏になり、ちょっとした刺激で痛みを感じるようになる(アロディニア)こともあります。
そのため、片頭痛が月に2回以上起こる、もしくは6日以上続くといったような場合には、こうした予防薬を使って片頭痛発作そのものを減らす治療を考える必要があります。
片頭痛の予防薬には色々な種類のものがありますが、持病や体質・併用薬などの禁忌に該当しない薬を選び、少ない副作用で十分な効果が得られるかどうかを確認する、というのが基本的な選び方です。
予防薬について主治医に相談する際は、自分に合った薬を選んでもらえるよう、普段どんな薬を使っているのか、どんな持病があるのかをきちんと伝えるようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『デパケン』は推奨度も高いが、眠気・催奇形性・併用禁忌・副作用など注意事項も多い
2. 『インデラル』は、妊娠中でも比較的安全に使えるが、禁忌もあり、『マクサルト』とも併用できない
3. 『ミグシス』は、エビデンスでやや劣るものの、副作用や禁忌が少なく使いやすい
添付文書・インタビューフォーム記載事項の比較
◆本来の薬効分類
デパケン:抗てんかん薬
インデラル:β遮断薬
ミグシス:Ca拮抗薬
◆片頭痛予防の用法
デパケン:1日2~3回(※デパケンR錠は1日1~2回)
インデラル:1日2~3回
ミグシス:1日2回
◆ガイドライン上での推奨度と薬効群
デパケン:推奨度【A】、薬効群【1】
インデラル:推奨度【A】、薬効群【1】
ミグシス:推奨度【B】、薬効群【2】
◆妊娠中の安全性評価
デパケン:禁忌(ヒトでの催奇形性の報告あり / オーストラリア基準【D】)
インデラル:禁忌ではない(オーストラリア基準【C】)
ミグシス:禁忌(動物での催奇形性の報告あり)
◆禁忌とされる病気
デパケン:肝障害、尿素サイクル異常
インデラル:気管支喘息、心不全、房室ブロックなど11項目
ミグシス:頭蓋内出血、脳梗塞急性期
◆併用禁忌の薬
デパケン:カルバペネム系の抗生物質
インデラル:片頭痛治療薬の『マクサルト(一般名:リザトリプタン)』
ミグシス:なし
+αの情報①:保険適用のない薬と、適用外使用が認められた薬
片頭痛の予防に保険適用があるのは、現在のところ『デパケン』・『インデラル』・『ミグシス』の3種だけですが、様々な薬に予防効果が認められています。
※慢性頭痛の診療ガイドラインに記載されている予防薬の例(保険適用外のもの)
『トピナ(一般名:トピラマート)』 (抗てんかん薬)
『ロプレソール(一般名:メトプロロール)』 (β遮断薬)
『トリプタノール(一般名:アミトリプチリン)』 (抗うつ薬)
『ワソラン(一般名:ベラパミル)』 (Ca拮抗薬)
『ブロプレス(一般名:カンデサルタン)』 (ARB)
『ロンゲス(一般名:リシノプリル)』 (ACE阻害薬)
『ハイボン(一般名:リボフラビン)』 (ビタミンB2製剤)
このうち、『ミグシス』と同じ「Ca拮抗薬」である『ワソラン(一般名:ベラパミル)』と、抗うつ薬である『トリプタノール(一般名:アミトリプチリン)』について、「片頭痛」に使用した場合でも適用外使用を審査上認めるとする通知が出ています5,6)。
5) 厚生労働省保険局 「保医発0928 第1号」,(2011)
6) 厚生労働省保険局 「保医発0924第1号」,(2012)
保険適用のある3剤が使えない、効果が得られないといった場合には、これらの薬が選択肢になります。
+αの情報②:予防薬は併用できるのか
予防薬が効かなかった場合、通常は別の薬に切り替えます。そのため、予防薬を追加していくという方法は一般的ではありません。
しかし、『デパケン』や『インデラル』単独では効かなかった場合でも、この2つを併用することで効果が得られたとする報告もあります7)。
7) Cephalalgia.23(10):961-2,(2003) PMID:14984228
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します
【修正】
回答の根拠③の部分で、本来『インデラル』である部分が『イミグラン』となっていた部分がありましたので、修正しました。