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似た薬の違い 循環器(心臓・血管)

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『アムロジン』・『ワソラン』・『ヘルベッサー』、同じCa拮抗薬の違いは?~血管と心臓に対する作用の差

回答:『アムロジン』は高血圧、『ワソラン』は不整脈、『ヘルベッサー』はその両方の薬

 『アムロジン(一般名:アムロジピン)』・『ワソラン(一般名:ベラパミル)』・『ヘルベッサー(一般名:ジルチアゼム)』は、いずれもCa拮抗薬です。

 『アムロジン』は血管への作用が強いため、高血圧の薬として使います。
 『ワソラン』は心臓への作用が強いため、不整脈(頻脈)の薬として使います。
 『ヘルベッサー』は、血管にも心臓にもバランスよく作用するため、高血圧にも不整脈にも使います。

 同じCa拮抗薬には分類されますが、主に作用する場所が異なるため、それぞれ全く別の薬として扱います。

 

回答の根拠①:Ca拮抗薬の3つの系統

 血管や心臓が収縮するためには、筋肉の細胞にCaイオンが流入する必要があります。このCaイオンの流入に関わるCaチャネルを阻害する薬が「Ca拮抗薬」です。

 「Ca拮抗薬」には、主に血管のCaチャネルに作用する「ジヒドロピリジン系」、主に心臓のCaチャネルに作用する「フェニルアルキルアミン系」、その両方に作用する「ベンゾチアゼピン系」という3つの系統があります。

 血管に作用する「ジヒドロピリジン系」のCa拮抗薬は、血圧を下げる効果が強力なため、高血圧の薬として使います。
 心臓に作用する「フェニルアルキルアミン系」のCa拮抗薬は、心臓の異常な興奮を抑える作用があり、頻脈性の不整脈の薬として使われます。
 血管にも心臓にも、両方ほどほどに作用する「ベンゾチアゼピン系」のCa拮抗薬は、高血圧にも不整脈にも使います。

 

回答の根拠②:「アムロジピン」~血管に作用するジヒドロピリジン系

 「アムロジピン」などのジヒドロピリジン系のCa拮抗薬は、冠動脈・末梢血管の平滑筋を弛緩させて血管を広げ、血圧を下げる作用があります1)。そのため、 ARBやACE阻害薬などと共に高血圧治療の中心「主要降圧薬」に選ばれています2)。

 ジヒドロピリジン系のCa拮抗薬は、血管に直接作用して降圧効果を発揮するため、内分泌系や交感神経などを介したフィードバックの影響を受けにくく、用量を増やすと降圧効果も素直に大きくなる傾向にあります3)。そのため、主要降圧薬の中でも特に”血圧を下げやすい薬”として、高血圧治療に広く用いられています。

※ジヒドロピリジン系のCa拮抗薬の例
『アムロジン(一般名:アムロジピン)』
『ノルバスク(一般名:アムロジピン)』
『アダラート(一般名:ニフェジピン)』
『コニール(一般名:ベニジピン)』
『アテレック(一般名:シルニジピン)』
『カルブロック(一般名:アゼルニジピン)』

 

 1) アムロジン錠 インタビューフォーム
 2) 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」
 3) BMJ.326(7404):1427,(2003) PMID:12829555

 

回答の根拠③:「ベラパミル」~心筋に作用するフェニルアルキルアミン系

 「ベラパミル」もCa拮抗薬ですが、「アムロジピン」と違って主に心臓、特に心臓の心室と心房をつなぐ房室結節にあるCaチャネルに作用することで、房室伝導を抑え、心拍数を減らす効果を発揮します4)。

 「ベラパミル」には降圧作用がほとんどないため、降圧薬ではなく、Vaughan Williams分類のクラスⅣに分類される「抗不整脈薬」として、主に頻脈性不整脈の治療に使われます。

 4) ワソラン錠 インタビューフォーム

 

回答の根拠④:「ジルチアゼム」~血管と心臓の両方に作用するベンゾチアゼピン系

 「ジルチアゼム」には、「アムロジピン」のような血管に作用して血圧を下げる作用と、「ベラパミル」のような心臓に作用して心拍数を減らす作用の両方があります5)。
 そのため高血圧と頻脈性不整脈の両方に保険適用がある(※不整脈に保険適用があるのは注射薬)など、ちょうど「アムロジピン」と「ベラパミル」の中間的な特徴を持っています。

 特に、頻脈を伴う高血圧患者に対しては、「ジルチアゼム」のような非ジヒドロピリジン系のCa拮抗薬が積極的適応としてガイドラインでも推奨されています2)。

 5) ヘルベッサーRカプセル インタビューフォーム

 

薬剤師としてのアドバイス:「グレープフルーツジュース」の影響に注意

 「グレープフルーツジュース」を飲むと、Ca拮抗薬の作用が強く現れることがあります6)。これは、「グレープフルーツジュース」に豊富に含まれる「フラノクマリン」が、小腸にある代謝酵素(CYP3A4)を阻害することで、小腸からの薬の吸収量が大きく増加することで起こる、と考えられています(※小腸の代謝酵素は、口から摂取した薬物がそのまま大量に吸収されないように働く、生体の防御機構です)。

 ただ、数あるCa拮抗薬の中でも「アムロジピン」は、”もともと小腸であまり代謝されず、普段から服用した薬の大部分が吸収されている”ことから、「グレープフルーツジュース」の影響をあまり受けません6,7)。
 また、この相互作用の原因となる「フラノクマリン」の含有量も、同じ柑橘系の果物であっても品種によって大きく異なります。

※主な柑橘系のフラノクマリン含有量 8)

豊富に含むグレープフルーツ、スウィーティ、メロゴールド、晩白柚
少し含むダイダイ、ブンタン、ハッサク
ほとんど含まないレモン、温州ミカン、伊予柑、ポンカン、スダチ、ユズ

 Ca拮抗薬と柑橘系ジュースの相互作用リスクは、薬の種類や果物の品種、飲む量などによっても大きく変わるため、ひとりひとりの事情に合わせて個別に評価・対応する必要があります。自己判断で何かを決めてしまわず、医師・薬剤師と相談することをお勧めします。

 6) Curr Pharm Biotechnol.13(9):1705-17,(2012) PMID:22039822
 7) Br J Clin Pharmacol.50(5):455-63,(2000) PMID:11069440
 8) 医療薬学.32(7): 693-699,(2006)

   

 

ポイントのまとめ

1. 『アムロジン(アムロジピン)』はジヒドロピリジン系、血管に作用して血圧を下げる主要降圧薬
2. 『ワソラン(ベラパミル)』はフェニルアルキルアミン系、心臓に作用して心拍数を減らす抗不整脈薬
3. 『ヘルベッサー(ジルチアゼム)』はベンゾチアゼピン系、血管と心臓の両方に作用する中間型

4. Ca拮抗薬とグレープフルーツジュースの相互作用リスクは、薬や果物の種類によって大きく異なる

 

 

薬のカタログスペックの比較

 添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較

アムロジピンベラパミルジルチアゼム
先発医薬品名アムロジン、ノルバスクワソランヘルベッサー
系統ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬フェニルアルキルアミン系Ca拮抗薬ベンゾチアゼピン系Ca拮抗薬
適応症高血圧症、狭心症頻脈性不整脈、狭心症、心筋梗塞(急性期を除く)、その他虚血性心疾患本態性高血圧症、狭心症・異型狭心症、頻脈性不整脈(※注射のみ)
心機能が低下した人に対する禁忌ない
(注意喚起のみ)
あるある
妊娠中の投与2022年12月に禁忌解除禁忌禁忌
妊娠中の安全性評価オーストラリア基準【C】オーストラリア基準【C】オーストラリア基準【C】
剤型の規格錠(2.5mg、5mg、10mg)
OD錠(2.5mg、5mg、10mg)
錠(40mg)、静注錠(30mg、60mg)、Rカプセル(100mg、200mg)、注射
先発医薬品の製造販売元アムロジピン:
住友ファーマ
ノルバスク:ヴィアトリス製薬
エーザイ田辺三菱製薬
同成分のOTC医薬品(販売なし)(販売なし)(販売なし)

 

 

+αの情報①:「ジヒドロピリジン系」のCa拮抗薬は、さらに細かく分類される

 高血圧治療に用いる「ジヒドロピリジン系」のCa拮抗薬は、主に血管のCaチャネルに作用する薬ですが、血管のCaチャネルはさらにL型・T型・N型と細かく分けることができます。そして、このL型・T型・N型のどれに強く作用するかによって、「ジヒドロピリジン系」のCa拮抗薬はさらに細かく分類することができ、それぞれ微妙に異なる使いどころがあります。

 Ca拮抗薬の3系統「ジヒドロピリジン系」「フェニルアルキルアミン系」「ベンゾチアゼピン系」のうち、「ジヒドロピリジン系」のCa拮抗薬だけ薬の種類が多いのは、このためです。

 

+αの情報②:「アムロジピン」は、2022年12月に妊婦への投与が可能になった

 Ca拮抗薬は、動物実験でリスクが指摘されていることから、基本的に妊娠中の女性に対する投与は”禁忌”に指定されています。しかし、特に「アムロジピン」や「ニフェジピン」に関しては胎児に悪影響を及ぼす心配がなさそう、ということが明らかになってきた9,10,11)ため、2022年12月に添付文書も改訂され、”禁忌”の制限は解除されています。
 もともと、ガイドライン等では「適切なインフォームドコンセントを得た上での使用」は検討できる2)とされてきましたが、この改訂でより扱いやすくなっています。

 9) J Am Heart Assoc.8(15):e012093,(2019) PMID:31345083
 10) Pregnancy Hypertens.31:73-83,(2023) PMID:36646019
 11) Healthcare (Basel).10(2):325,(2022) PMID:35206939

 

+αの情報③:「ベラパミル」は頓服で使うこともある

 不整脈治療では、基本的な治療は安定しているものの自覚症状が強い場合に、抗不整脈薬を頓服で使う“Pill in the pocket”と呼ばれる使い方があります。
 「ベラパミル」も血中濃度の上昇が速い(Tmax=2.2時間)4)ため、例外的に”頓服”で用いることがあります12)。ただし、こういった使い方をする際には、事前に医師の監視下で有効性や安全性を確認しておく必要があります12)。

 12) 日本循環器学会「不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版)」

 

+αの情報④:片頭痛の予防薬『ミグシス(ロメリジン)』もCa拮抗薬

 片頭痛の予防薬として使う『ミグシス(一般名:ロメリジン)』もCa拮抗薬です。冠動脈や末梢血管・心臓には作用せず、脳血管のCaチャネルに選択的に作用することで脳血管の収縮を抑え、片頭痛の発作を防ぐ効果があります13)。
 なお、「ベラパミル」も片頭痛予防に対する適応外処方が認められている薬です14)。

 13) ミグシス錠 インタビューフォーム
 14) 厚生労働省保険局 「保医発0928 第1号」,(2011)

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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コメント

    • DIO
    • 2017年 10月 11日

    初めまして。
    一つ質問させてください。
    Ca拮抗薬の併用はよく目にする処方です。
    チェンネルの違いで重複すする処方は薬理作用的には理解できます。
    しかし実際問題チェンネルが異なっていても同じCa拮抗薬であれば査定の対象となってしまいます。
    現場と支払基金との考えの相違にやきもきさせられる毎日です。
    ただ「アムロジン」と「ヘルベッサー」と「ワソラン」の併用はどうなのでしょうか?
    チェンネルというよりも系が異なるため併用は問題ないのでしょうか?
    指導・査定の対象となるのかどうか判断が難しく思っております。
    もしご存じであればご教授頂ければ幸いです。

      • Fizz-DI
      • 2017年 10月 22日

       高血圧治療で薬を併用する場合、主要降圧薬である「ACE阻害薬・ARB」・「Ca拮抗薬」・「利尿薬」・「β遮断薬」から異なるものを組み合わせるのが基本とされています。そのため、高血圧治療に「Ca拮抗薬」を併用すると査定の対象になることが、個別指導でもよく問題になっています。
       強力な降圧を期待して「アムロジン」 + 腎保護も期待して「アテレック」という併用はされることもありますが、その場合は適応症を別に記載し併用理由を記述しておくなどの対応が必要と思われます(※2014年の高血圧学会では、この併用に効果があるとする報告がありました)。

       正確な基準はわかりませんが、「アムロジン」と「ワソラン」を併用する場合も、それぞれ高血圧と不整脈に使用するのであれば、査定上の問題はないように思います。

        • DIO
        • 2017年 10月 23日

        御教授ありがとうございます。
        もう一点確認させて頂きます。
        これは実務上の問題になるますが、「アムロジン」と「ヘルベッサー」の併用が処方された場合に関しては、やはり薬剤師としては疑義照会は必要だと思いますか?

          • Fizz-DI
          • 2017年 10月 25日

           『アムロジン』と『ヘルベッサー』の併用も画一的な判断で査定対象になるかもしれないので、念のため「異なる適応症、例えば高血圧と不整脈に対しての処方という解釈でよろしいでしょうか」みたいな確認は必要かなと思います。

            • DIO
            • 2017年 10月 25日

            お忙しい中時間を割いて御回答頂き誠にありがとうございました。
            日常業務に直でつながる内容でしたので非常に参考になりました。
            是非機会がありましたらまた御質問等させて頂きたいと思います。
            蛇足ですが先生の出版されました「お薬Q&A」私も僭越ながらご購入させていただきました。
            非常に勉強になります。職場の薬剤師にも紹介しみんなで共感し合っております。
            今後も是非薬剤師業界を盛りたてていってほしいなあと感じております。
            非力ではありますが私も一助になれればと思う今日この頃です。

            • Fizz-DI
            • 2017年 11月 08日

            こちらこそ改めて考える機会を頂き感謝です。
            あと書籍も買って頂いたとのこと、ありがとうございます。安い本ではなかったと思いますので、是非大いいに活用して頂ければと思います。励みになるコメントをありがとうございますm(__)m

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薬の比較と使い分け100(2017年)
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■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
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【執筆】
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