『メインテート』と『アーチスト』、同じβ遮断薬の違いは?~β1選択性とα遮断作用による使い分け
記事の内容
回答:心臓以外への作用が少ない『メインテート』、降圧効果が強めな『アーチスト』
『メインテート(一般名:ビソプロロール)』と『アーチスト(一般名:カルベジロール)』は、どちらも高血圧や心不全の治療に用いるβ遮断薬です。
『メインテート』は、「β1選択性」が高く、心臓以外への作用が少ないβ遮断薬です。そのため、喘息やCOPDへ悪影響を与えにくいという特徴があります。
『アーチスト』は、「α遮断作用」も持ち、血管を収縮させにくい(末梢血管抵抗が少ない)β遮断薬です。そのため、降圧効果や臓器保護効果がやや優れている傾向にあります。

そのため気管支喘息・COPDといった持病の有無、高血圧や心不全の病状などによって使い分けるのが一般的です。
回答の根拠①:β遮断薬の3つの進化系統
β遮断薬は、1967年に最初の『インデラル(一般名:プロプラノロール)』が登場して以降、付加価値を高め改良されていく中で、主に「β1選択性」・「α遮断作用」・「内因性交感神経刺激作用(ISA)」という3つの観点で進化しています。

※β1選択性(心臓への作用に特化)
1981年 『アセタノール(一般名:アセブトロール)』
1983年 『セロケン(一般名:メトプロロール)』(β1:β2=20:1)
1984年 『テノーミン(一般名:アテノロール)』(β1:β2=35:1)
1990年 『メインテート(一般名:ビソプロロール)』(β1:β2=75:1)
※α遮断作用(末梢血管抵抗の軽減)
1983年 『トランデート(一般名:ラベタロール)』
1985年 『アルマール(一般名:アロチノロール)』
1993年 『アーチスト(一般名:カルベジロール)』
※ISA(徐脈を軽減)
1973年 『カルビスケン(一般名:ピンドロール)』
1980年 『ミケラン(一般名:カルテオロール)』
1992年 『セレクトール(一般名:セリプロロール)』
このうち、「ビソプロロール」は「β1選択性」、「カルベジロール」は「α遮断作用」の系統でそれぞれ最も新しい改良型で、現在の心不全治療で重要な役割を果たしている薬です。
基本的な効果に目立った違いはありません1,2)が、それぞれの特徴がうまくマッチするよう、患者背景ごとに使い分けられています。
1) Clin Res Cardiol.106(9):711-721,(2017) PMID:28434020
2) Circ J.83(6):1269-1277,(2019) PMID:30956267
回答の根拠②:β1選択性が最い「ビソプロロール」~心臓以外への影響が少ない
β遮断薬は、交感神経のβ受容体を遮断する薬ですが、このβ受容体はさらに「β1受容体」と「β2受容体」に分けることができます。「β1受容体」は主に心臓の機能に関係していますが、「β2受容体」は呼吸や代謝機能に関係しています。
そのため、薬が「β1受容体」だけでなく「β2受容体」にまで作用してしまうと、気管支や肺、代謝機能にも影響してしまうことになります。そこで、薬として必要な「β1受容体」にだけ作用するように、「β1選択性」を高めることで余計な副作用を減らし、心臓への作用に特化することができます。
こうしたコンセプトで開発されたのが、「ビソプロロール」のような「β1選択性」が高いβ遮断薬です。

中でも「ビソプロロール」は、β1とβ2に対する作用強度が75:1と、現在使われているβ遮断薬の中で最も高い「β1選択性」を持っています3)。そのため、気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の人でも比較的安全に使うことができます4,5)。
3) J Cardiovasc Pharmacol.8(Suppl 11):S36-40,(1986) PMID:2439796
4) BMJ.342:d2549,(2011) PMID:21558357
5) Respir Med.105 Suppl 1:S44-9,(2011) PMID:22015086
心拍数を減らす効果も高め
「ビソプロロール」は、「カルベジロール」に比べると心拍数をより大きく減らします2)。そのため、頻脈の場合には「ビソプロロール」が、逆に脈拍数を減らしたくない場合には「カルベジロール」が適していると言えます。

回答の根拠③:α遮断作用も持つ「カルベジロール」~末梢血管抵抗が少ない
交感神経系には、β受容体のほかにもα受容体があります。そのため、β遮断薬を使っていると、相対的にα受容体への刺激が強まり、これによって血管が収縮して血圧が上がる(末梢血管抵抗が上昇する)、といった現象が起こることがあります6)。
そのため、β遮断薬に「α遮断作用」も併せ持たせることで、この末梢血管抵抗の上昇という弊害を減らすことができます。こうしたコンセプトで開発されたのが「α遮断作用」も持つβ遮断薬で、実際に 「カルベジロール」はα受容体とβ受容体に対して1:8の強度で作用します6)。

このことから「カルベジロール」は末梢血管抵抗による影響が少なく、降圧効果や臓器保護効果に優れる傾向にあります。
実際に「ビソプロロール」と比べても、血圧を下げる効果がやや大きめ7,8)とする報告もあるため、より強く血圧を下げたい場合には「カルベジロール」が、逆に心不全治療において低血圧やめまいが問題になる場合には「ビソプロロール」が適しています9)。

6) アーチスト錠 インタビューフォーム
7) Georgian Med News . 2024 Oct:(355):217-224,(2024) PMID:39724907
8) China Phamacy.18(11):848-850,(2007) ※PubMed外
9) J Cardiol.61(6):417-22,(2013) PMID:23548374
心不全に対する治療効果も”高め”な可能性がある
心不全治療において、「カルベジロール」と「ビソプロロール」の臨床的な効果に特に顕著な違いは確認されていませんが、治療24週目の時点で「カルベジロール」の方がBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)の値を大きく改善することがわかっています2)。
BNPは、心臓の機能や心不全の重症度と大きく関係する指標です。24週よりももっと長期間にわたって使い続けた場合、「カルベジロール」の方が治療効果は高くなる、という可能性があります。
薬剤師としてのアドバイス:「服薬の手間」と「用量調節の幅」も重要な要素
「服薬の手間」という観点から見ると、1日1回の服用で良い「ビソプロロール」は、1日2回の服用が必要な「カルベジロール」よりも優れた薬と言えます。
一方で、心不全治療に対して1日5mgが上限に設定されている「ビソプロロール」に対して、「カルベジロール」の維持量は患者の状況に合わせて適宜増減することができ、用量調節の幅が非常に広いという利点があります。
「ビソプロロール」と「カルベジロール」は、基本的な性能に大きな違いはないことため、こうした細かな違いに着目して薬を選ぶこともあります。
※心不全に対する1日の維持量
ビソプロロール:1回1.25~5mgを、1日1回(※5mg/日を超えないこと)
カルベジロール:1回2.5~10mgを、1日2回(※維持量は適宜増減可)
ポイントのまとめ
1. β遮断薬は、「β1選択性」・「α遮断作用」・「ISA」という3点で進化している
2. 頻脈や低血圧・気管支喘息の人は、「β1選択性」の高い『メインテート(ビソプロロール)』が使いやすい
3. 徐脈や高血圧の人は、「α遮断作用」も持つ『アーチスト(カルベジロール)』が使いやすい
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
ビソプロロール | カルベジロール | |
先発医薬品名 | メインテート | アーチスト |
分類 | 選択的β1遮断薬 | αβ遮断薬 |
適応症 | 本態性高血圧症、狭心症、心室性期外収縮、頻脈性心房細動、慢性心不全 | 本態性高血圧症、腎実質性高血圧症、狭心症、頻脈性心房細動、慢性心不全 |
心不全に対する用法 | 1日1回 | 1日2回 |
心不全に対する用量 | 1回1.25~5mg (※5mgが上限) | 1回2.5~10mg (※適宜増減可) |
気管支喘息に対する禁忌 | 指定なし | 禁忌 |
妊娠中の投与禁忌 | 2024年4月に解除 | 2024年4月に解除 |
妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【C】 | オーストラリア基準【C】 |
販売されている国 | 世界100ヵ国以上 | 世界60ヵ国 |
剤型の規格 | 錠(0.625mg、2.5mg、5mg) | 錠(1.25mg、2.5mg、10mg、20mg) |
先発医薬品の製造販売元 | 田辺三菱製薬 | 第一三共 |
同成分のOTC医薬品 | (販売なし) | (販売なし) |
+αの情報①:代謝への影響は…?
「β1選択性の高い「ビソプロロール」の方が糖代謝への影響は少なそう…というイメージはありますが、実際には「カルベジロール」の方がインスリン抵抗性を改善しそう10)、という報告もあります。
10) Clin Res Cardiol.97(1):24-31,(2008) PMID:17694376
+αの情報②:妊娠中の投与”禁忌”が解除された背景
「ビソプロロール」と「カルベジロール」は、ともに2024年4月に妊娠中の”禁忌”制限が解除されました。これは、動物実験の段階で確認されていた催奇形性については、実臨床でもほぼ否定され、安全性が確認された、というのが主な理由です11,12)。
ただし、妊娠中にβ遮断薬を使うと、低出生体重のリスクはやや高まる、とする報告もある13)ため、注意が必要であることに変わりはありません。
11) Pharmacoepidemiol Drug Saf.20(2):138-45,(2011) PMID:21254284
12) Hypertens.36(10):2109-2117,(2018) PMID:29985206
13) Int J Cardiol.410:132234,(2024) PMID:38844094
+αの情報③:「ビソプロロール」の経皮吸収製剤『ビソノテープ』
『ビソノテープ』は、「ビソプロロール」の経皮吸収製剤です。錠剤5mgとテープ剤8mgで、ほぼ同等の効果を発揮する、とされています14)。ただし、『ビソノテープ』には高血圧と頻脈性心房細動にしか保険適用がない15)、という点には注意が必要です。
なお、『ビソノテープ』という名前は「ビソプロロールのテープ剤」に由来しています15)。
14) Circ J.82(1):141-147,(2017) PMID:28768917
15) ビソノテープ インタビューフォーム
+αの情報④:もう一つの進化系統「ISA」
「ISA(Intrinsic Sympathomimetic Activity)」は、内因性交感神経刺激作用のことで、この作用を持つβ遮断薬は心拍数を減らし過ぎないという利点があります。
しかし、「ISA」を持つβ遮断薬では、「β1選択性」や「α遮断作用」のように心不全に対して明確に生命予後を改善するような効果が確認されなかったことから、心不全治療には用いられていません16)。
16) セレクトール錠 添付文書
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
この記事へのコメントはありません。