『ポララミン』と『アレグラ』、新旧の抗ヒスタミン薬の違いは?~効果と副作用の世代差、併用の意図
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回答:『ポララミン』は即効性のある第一世代、『アレグラ』は副作用の少ない第二世代
『ポララミン(一般名:d-クロルフェニラミン)』と『アレグラ(一般名:フェキソフェナジン)』は、どちらもアレルギーに使う「抗ヒスタミン薬」です。
『ポララミン』は、即効性のある”第一世代”の薬です。
『アレグラ』は、眠気や口の渇きといった副作用の少ない”第二世代”の薬です。
現在のアレルギー治療は、副作用の少ない『アレグラ』などの”第二世代”の薬を使うのが基本です。しかし、急なアレルギー症状ですぐに治療が必要なときには、速く効く『ポララミン』などの”第一世代”の薬が使われる場合もあります。
それぞれの特徴を活かして、定期薬と頓服薬として併用することもあります。
回答の根拠①:速効性の比較~「第一世代」の長所
「クロルフェニラミン」などの”第一世代”の抗ヒスタミン薬は、全般的に”第二世代”の薬と比べて速効性にやや優れる、とされています1)。そのため、急なアレルギー症状に適しています。
1) 臨床医薬.8(suppl-1):73 -86,(1992)
「フェキソフェナジン」などの”第二世代”の抗ヒスタミン薬は、効き目が十分に発揮されるまでにしばらく時間がかかる場合があります。そのため、花粉症など予測できるアレルギーの場合には、症状が酷くなってから薬を飲むのではなく、花粉が飛び始めた日(もしくは、少しでも症状が現れた日)から前もって薬を飲んでおくことが推奨されています2,3)。
2) 日本アレルギー学会 「鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版」
3) アレグラ錠 添付文書
回答の根拠②:副作用の比較~「第二世代」の長所
「クロルフェニラミン」などの”第一世代”の抗ヒスタミン薬は、脂溶性が高いため血液脳関門を通過して脳に移行しやすく、副作用で眠くなりやすい4)、集中力や判断力が低下しやすい5,6)、という欠点があります。そのため、薬を使った後に自動車運転などを行うことは禁止されています7)。
一方で、「フェキソフェナジン」などの”第二世代”の抗ヒスタミン薬は脳に移行しにくいため、眠くなりにくいのが特徴です。特に「フェキソフェナジン」は集中力や判断力にほとんど影響しないことも確認されている8)ため、薬を使ったあとの自動車運転も制限されていません3)。
※脳への移行率の比較 9)
クロルフェニラミン:約50%(鎮静性)
フェキソフェナジン:3%未満(非鎮静性)
4) Ann Allergy Asthma Immunol.74(5):419-26,(1995) PMID:7749974
5) Hum Psychopharmacol.33(2):e2655,(2018) PMID:29532516
6) J Allergy Clin Immunol.105(6 Pt 2):S622-7,(2000) PMID:10856168
7) ポララミン錠 添付文書
8) Aviat Space Environ Med.74(2):145-52,(2003) PMID:12602446
9) Pharmacol Ther.113(1):1-15,(2007) PMID:16890992
労働生産性や学習効率にも影響しにくい
抗ヒスタミン薬を使った治療では、せっかく薬でアレルギーの症状が治まっても、副作用で集中力や判断力が落ちて、結局のところ労働生産性や学習効率は変わらない、むしろ低下してしまう、といった事態もしばしば起こります。
「フェキソフェナジン」のような眠くなりにくい抗ヒスタミン薬であれば、こういった本末転倒な事態を避けることも可能です10,11)。
10) Allergol Int.59(4):345-54,(2010) PMID:20864795
11) J Allergy Clin Immunol.120(2):381-7,(2007) PMID:17560637
第二世代の薬は「抗コリン作用」も少ない
「抗コリン作用」も併せ持っている「クロルフェニラミン」などの”第一世代”の抗ヒスタミン薬は、鼻水がだらだら止まらないような水様性鼻漏のほか、風邪に伴う咳や鼻症状にも多少の効果があります12,13)。
しかしその反面、口の渇きや便秘などの副作用が多く、また前立腺肥大や緑内障の症状を悪化させる恐れがあるため、こうした持病を持つ人は使うことができません3)。
「フェキソフェナジン」などの”第二世代”の抗ヒスタミン薬(※「メキタジン」を除く)には、こうした「抗コリン作用」はほとんどありません。そのため、抗コリン作用に関連した副作用も少ないですが、風邪の症状にもほとんど効果を期待できません。
風邪薬(総合感冒薬)に古い”第一世代”の抗ヒスタミン薬ばかりが配合されているのには、こうした事情があります。
12) Chest.129(1 Suppl):1S-23S,(2006) PMID:16428686
13) Cochrane Database Syst Rev. 2015 Nov 29;(11):CD009345. PMID:26615034
薬剤師としてのアドバイス:眠くなりやすい薬ほどよく効く…わけではない
「抗ヒスタミン薬」は、花粉症や蕁麻疹など様々なアレルギー治療において、副作用の少ない”第二世代”の薬を使うのが基本です。
ときどき、眠くなりやすい薬ほど効果も高い、と考えている人もおられますが、そういった相関関係は特にありません。「抗ヒスタミン薬」による眠気は、先述の通り薬の脂溶性=”薬が脳に移行しやすいかどうか”が大きく影響し、発揮される抗アレルギー作用とは直接の関係がないからです。
特別な事情なく、敢えて眠くなりやすい薬を我慢しながら使っているような人は、一度医師・薬剤師に相談して、負担の少ない薬への切り替えを検討してみてください。
ポイントのまとめ
1. 『ポララミン(クロルフェニラミン)』などの”第一世代”は、速効性に優れるが、眠気や抗コリン作用による副作用が多い
2. 『アレグラ(フェキソフェナジン)』などの”第二世代”は、眠気や抗コリン作用の副作用が少なく、いまのアレルギー治療の中心
3. 「抗ヒスタミン薬」は、”眠くなる薬ほどよく効く”というわけではない
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆有効成分
ポララミン:d-クロルフェニラミン
アレグラ:フェキソフェナジン
◆販売開始年と世代、分類
ポララミン:1965年(第一世代)、鎮静性
アレグラ:2000年(第二世代)、非鎮静性
◆適応症
ポララミン:蕁麻疹、血管運動性浮腫、枯草熱、皮膚疾患に伴うそう痒(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症、薬疹)、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎、感冒等上気道炎に伴うくしゃみ・鼻汁・咳嗽
アレグラ:アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症、アトピー性皮膚炎)に伴うそう痒
◆用法
ポララミン:1日1~4回
アレグラ:1日2回
◆眠気の副作用の頻度
ポララミン:5%以上
アレグラ:0.5%
◆自動車運転に対する記載
ポララミン:禁止
アレグラ:制限なし
◆妊娠中の安全性評価
ポララミン:オーストラリア基準【A】
アレグラ:オーストラリア基準【B2】
◆剤型の種類
ポララミン:錠剤(2mg)、散、シロップ、ドライシロップ、注射
アレグラ:錠剤(30mg、60mg)、OD錠(60mg)、ドライシロップ
◆製造販売元
ポララミン:高田製薬
アレグラ:サノフィ
◆同成分のOTC医薬品
ポララミン:(風邪薬などの成分として配合)
アレグラ:アレグラFX、アレグラFXジュニア
◆日本版抗コリン薬リスクスケールの評価
ポララミン:【3】
アレグラ:【1】
+αの情報①:第一世代と第二世代を併用するケース
”第二世代”の抗ヒスタミン薬でアレルギー症状をうまくコントロールできていても、体調や気候などの影響で突発的に症状が悪化してしまうこともあります。
こういった場合には、毎日続けて使っている「フェキソフェナジン」に、速効性に優れた「クロルフェニラミン」を頓服薬として追加する、といった使い方をすることがあります。
ただし、花粉症治療ではこうした「抗ヒスタミン薬」の併用を考えるよりも、より効果が高くて眠くなる心配もない「ステロイドの点鼻薬」14)に切り替える方が一般的です。
14) Am J Respir Med.2(1):55-65,(2003) PMID:14720022
+αの情報②:妊娠中も”第一世代”を選ぶことがある
最近は新しい”第二世代”の薬の安全性も多く報告されてきています15,16)が、古い”第一世代”の薬の方が使用実績は豊富なため、妊婦に対しては”第一世代”の薬が選ばれることもあります。
特に「クロルフェニラミン」は、妊娠中の薬の安全性評価基準の1つである「オーストラリア基準」で、最もリスクの低い【A】に分類され、他の”第二世代”の薬よりも高く評価されています。
※疫学調査で先天異常に影響しないと評価されている「抗ヒスタミン薬」と、オーストラリア基準の評価
世代 | 商品名 | 一般名 | オーストラリア基準 |
第一世代 | ポララミン | クロルフェニラミン | A |
第二世代 | クラリチン | ロラタジン | B1 |
デザレックス | デスロラタジン | B1 | |
ジルテック | セチリジン | B2 | |
アレグラ | フェキソフェナジン | B2 |
15) J Am Acad Dermatol.70(3):401.e1-14,(2014) PMID:24528911
16) JAMA Pediatr.174(8):e201316,(2020) PMID:32478810
+αの情報③:「クロルフェニラミン」とステロイドを配合した『セレスタミン配合錠』
「クロルフェニラミン」は、「ステロイド」と相乗効果を発揮することで、強力な抗アレルギー効果を発揮します17)。この相乗効果を利用した薬が『セレスタミン配合錠(一般名:d-クロルフェニラミン + ベタメタゾン)』です。
17) セレスタミン配合錠 インタビューフォーム
速効性に優れた「第一世代の抗ヒスタミン薬」と「ステロイド」を組み合わせた薬で、急なアレルギーの切り札として使われています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
【修正】
第二世代の抗ヒスタミン薬のうち、抗コリン作用が強く前立腺肥大による排尿障害や閉塞隅角緑内障に禁忌の指定があるのは「メキタジン」です。誤って第一世代の抗ヒスタミン薬である「クレマスチン」が記載されていましたので、修正しました。