「統計学的な有意」は必ずしも「臨床現場の有意」には直結しない~喘息治療で見る理想と現実
エビデンスレベルの高い文献は、信頼性も非常に高いものと言えます。しかし、こうした研究によって出され
た「統計学的な有意」が、必ずしも現場での「臨床学的な有意」と直結するとは限りません。
記事の内容
理想状態の臨床試験と、「服薬アドヒアランス」が影響する実際の医療現場
臨床試験は、医師や薬剤師の指導のもと、薬の使い方や飲む量・飲む時間などを厳密に守って行われます。つまり、薬を理想通りに正しく使った場合の結果が得られます。
しかし実際に薬を使う段階になると、患者は自宅で、しかも一人で薬を使うこともあります。この場合、臨床試験のような厳密な管理は行き届かなくなり、薬をきちんと正しく使えなくなる恐れがあります。
そのため、臨床試験で得られたほどの効果が得られない、ということが起こり得ます。
このように、薬をきちんと正しく使えるかどうか、つまり薬に関する知識・情報や治療目的に対する理解、積極的な治療への参加姿勢といった「服薬アドヒアランス」が、薬の効果に大きく影響することがあります。特に、使い方の難しい、複雑な薬ではこうした影響をより慎重に考える必要があります。
喘息治療に見る、理想と現実のギャップ~β2刺激薬か抗ロイコトリエン薬か
喘息治療は「吸入ステロイド」が中心です。この「吸入ステロイド」に、「β2刺激薬(吸入薬)」と「抗ロイコトリエン薬(内服薬)」のどちらを併用した方が良いのか、を比較検討した研究があります。
臨床試験においては、「β2刺激薬(吸入薬)」の方が「抗ロイコトリエン薬(内服薬)」よりも、喘息の治療効果は高くなることが示されています1)。
1) Cochrane Database Syst Rev.(1):
しかし、飲めば良い内服薬と比べ、吸入薬は使い方が面倒で難しく、特に使い続けているうちに自己流の癖が身につき、次第に正しい方法での吸入ができなくなっていく傾向があります。
こうした影響によって、実際の臨床現場では「β刺激薬(吸入薬)」と「抗ロイコトリエン薬(内服薬)」とで効果は大して変わらなくなる、とする研究結果があります2)。
2) N Engl J Med.364(18):1695-707,(2011) PMID:21542741
このように、理論上は「統計学的に有意」がある薬でも、使い方が難しいなどの要因によって「臨床現場の有意」に直結しない場合があります。
使い方が難しい薬は、人を選ぶ
優れた効果が証明された薬は、きちんと正しく使えばそれだけ高い効果を期待できます。そのため、当然ながら良い薬が出れば多くの人に使われます。
しかし、人によっては効き目のデータ云々よりも、できるだけ少ない負担(1日1回)で、しかもわかりやすい使い方(飲み薬)の薬を、という選び方をすることがあります。
新薬が登場した場合、他の薬よりも高い効果が得られた、とする「統計学的な有意」に目が行きがちですが、薬の使い方を間違ってしまう、途中で薬を止めてしまうようなリスクも確認し、実際の「臨床現場の有意」にもつながるかどうかを確認する必要があります。
※薬の使い方を間違ってしまうリスクの例
吸入薬や注射薬など、デバイスの使い方が難しい
飲み薬でも、飲むタイミングが難しい(食後10分以内や空腹時の用法、骨粗鬆症の薬など)
薬の種類が多い
※途中で薬を止めてしまうリスクの例
吸入薬や注射薬など、使い方が難しくて面倒
錠剤やカプセルが大き過ぎる
カプセルが嫌い、粉が嫌いなどの好み
薬が不味い
薬の値段が高い
薬を飲む・使う回数が多くて面倒
薬を飲んでも効果を実感できない
薬の必要性を理解していない
薬の使い方は、薬局でいつでも確認できる
吸入薬や注射薬など使い方が複雑な薬は、たとえ使い方を「わかっているつもり」でも、時々は手順や手技を確認することをお勧めします。
薬局には、薬の入っていない空の吸入や注射デバイスが備えてあり、正しい手順・手技を確認できるようになっています。いつでも遠慮なく、薬剤師を頼って頂ければと思います。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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