『ブロプレス』と『ニューロタン』、同じARBの違いは?~適応症と降圧効果
記事の内容
回答:『ブロプレス』は慢性心不全、『ニューロタン』は糖尿病性腎症にも適応
『ブロプレス(一般名:カンデサルタン)』と『ニューロタン(一般名:ロサルタン)』は、どちらも高血圧に使う「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)」です。
『ブロプレス』は慢性心不全、『ニューロタン』は糖尿病性腎症と、それぞれ高血圧以外にも適応症があります。
ARBは全て高血圧治療の第一選択薬で、血圧を下げる効果に大きな違いはありませんが、こうした適応症の違いによって使い分けることがあります。
回答の根拠①:『ブロプレス』の適応症~「ACE阻害薬」が使えない慢性心不全
『ブロプレス』は高血圧症の他に、軽症~中等度の慢性心不全にも適応があります1)。
1) ブロプレス錠 添付文書
これは、『ブロプレス』には心不全の進行を抑える作用2)があり、特に「ACE阻害薬」を使えない患者の死亡や入院といったトラブルを減らす効果3)があるからです。
2) Eur J Heart Fail.5(5):669-77,(2003) PMID:14607207
3) Lancet.362(9386):772-6,(2003) PMID:13678870
通常、慢性心不全には「ACE阻害薬」を積極的に使います4)。しかし、空咳の副作用が酷いなどの理由で「ACE阻害薬」を使えない場合には、『ブロプレス』が選択肢になります。
4) 日本循環器学会 「慢性心不全治療ガイドライン(JCS2010)」
回答の根拠②:『ニューロタン』の適応症~「糖尿病性腎症」
『ニューロタン』は高血圧症の他に、2型糖尿病における糖尿病性腎症に適応があります5)。
5) ニューロタン錠 添付文書
「糖尿病性腎症」とは、高血糖状態で腎臓のろ過機能が衰える病態のことで、透析の大きな原因とされています。こうした「糖尿病性腎症」に対して、『ニューロタン』は腎不全の進行を抑える効果が報告されています6)。
6) N Engl J Med.345(12):861-9,(2001) PMID:11565518
そのため、『ニューロタン』は糖尿病性腎症を合併した高血圧の治療に効果的な薬として使われています。
回答の根拠③:降圧効果に大きな違いはない
「ARB」には色々な種類(全7種)がありますが、高血圧に対する治療効果にはそれほど明確な違いはないとされています7)。
『ニューロタン』は他の「ARB」と比べると降圧効果はやや弱めとする報告もあります8)が、ガイドライン等でもまとめて「ARB」として扱われているため、厳密な使い分けが必要というわけではありません。
7) Lancet.355(9215):1582-7,(2000) PMID:10821361 ※ELITEⅡ試験
8) J Hypertens.25(7):1327-36,(2007) PMID:17563549
そのため、患者の持病や併用薬などの事情から、適した薬を医師が選ぶのが一般的です。
薬剤師としてのアドバイス:降圧薬の目的は、血圧を下げることではない
血圧が非常に高かったり、何らかの合併症を併発したりしない限り、高血圧には自覚症状はほとんどありません。そのため、「少しくらい血圧が高くても平気」と、薬の服用が疎かになる人は少なくありません。
しかし、高血圧を治療する最大の目的は、血圧をコントロールして心筋梗塞や脳卒中などのトラブルを防ぐことです。
1日ごとの血圧の変動に一喜一憂することなく、きちんと薬を飲み続けるようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『ブロプレス』は慢性心不全、『ニューロタン』は糖尿病性腎症にも保険適用がある
2. ARBの効果に大きな差はないため、持病などの患者背景から選ぶのが一般的
3. 高血圧治療の目的は、心筋梗塞や脳卒中の予防
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆適応症
ブロプレス:高血圧症、腎実質性高血圧症、軽症~中等度の慢性心不全(ACE阻害薬が使えない場合)
ニューロタン:高血圧症、高血圧および蛋白尿を伴う2型糖尿病における糖尿病性腎症
◆用法
ブロプレス:1日1回
ニューロタン:1日1回
◆規格の種類
ブロプレス:2mg、4mg、8mg、12mg(※12mgは心不全の適応なし)
ニューロタン:25mg、50mg、100mg
◆妊婦への安全性
ブロプレス:禁忌(オーストラリア基準【D】)
ニューロタン:禁忌(オーストラリア基準【D】)
◆配合剤
ブロプレス:『エカード(+ヒドロクロロチアジド)』、『ユニシア(+アムロジピン)』
ニューロタン:『プレミネント(+ヒドロクロロチアジド)』
◆製造販売元
ブロプレス:武田薬品工業
ニューロタン:MSD
+αの情報①:「ARB」は、1日2回で使うこともある
『ブロプレス』や『ニューロタン』などの「ARB」は、通常は1日1回の服用で24時間の安定した効果が得られます。
しかし最近は、早朝に血圧が急上昇する「早朝高血圧(Morning surge)」や、夜間に血圧が下がらない「non-dipper型」など、高血圧にも様々なタイプがあることが明らかになってきています。
特に、こうした血圧の変動が大きい場合、心筋梗塞などを起こしやすいとする報告もあり9)、血圧は単に下げるだけでなく安定させる必要もある、とする考え方に変わってきています。
9) Hypertension.52(6):1045-50,(2008) PMID:18981332
こうした背景から、原則1日1回の「ARB」であっても、24時間の安定した降圧のために1日2回に分けて使うことも、選択肢の一つである、とガイドラインにも記載されました10)。
10) 日本高血圧学会 「高血圧治療ガイドライン(2014)」
保険適用上の用法を守ることも重要ですが、それにこだわるばかりでなく臨機応変に対応することも必要です。
+αの情報②:「ARB」の優劣には様々な報告がある
高血圧の治療に対する「ARB」の有効性・安全性に疑う余地はありませんが、「ARB」同士の優劣には様々な報告があります。
現在は『ブロプレス』にしか「慢性心不全」の適応症はありませんが、『ニューロタン』でも「ACE阻害薬」と同等の効果が報告されています7)。
日本では『ニューロタン』にしか「糖尿病性腎症」の適応症はありませんが、欧米では『アバプロ(一般名:イルベサルタン)』の適応症に「糖尿病性腎症」が含まれています。
日本で薬を使う以上、日本の保険適用には従うのが基本ですが、こうした様々な研究報告や海外の事情が薬を選ぶ基準になることもあります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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