「服薬コンプライアンス」と「服薬アドヒアランス」の違いは?~医療の意識変化と潜在リスクの評価
記事の内容
回答:受け身の「コンプライアンス」から、積極的に治療へ参加する「アドヒアランス」へ
「compliance(コンプライアンス)」と「adherence(アドヒアランス)」は、どちらも規則や指示に従うことを意味します。
「コンプライアンス」は、言われたことを守るという、受け身の意味あいが強い言葉です。
「アドヒアランス」は、執着心という意味があり、興味を持って積極的に参加しようとする意味あいが強い言葉です。
最近は、医師・薬剤師に言われたことを守るだけではなく、患者自身が積極的に治療へ参加することが重要視されるようになっています。
このことから、「服薬コンプライアンス」という言葉が「服薬アドヒアランス」という言葉に変わってきています。
良い医療を提供するために重要な要素が、変わってきた
数年前まで、きちんと薬を飲むかどうかは「服薬コンプライアンス」と呼ばれてきました。つまり、患者が医療従事者の言うことをどれだけ守るのか、が重要視されていました。
しかしこの考え方では、「患者は医療従事者に対して従順でなければならない」という患者像が作られてしまいます。その結果、「薬をきちんと飲まないのは、患者が言うことを聞かないからだ」ということになり、悪いのは全て患者側だという認識になってしまいます。
実際には、患者には薬を飲めない、あるいは飲みたくないと思う様々な事情があります。そうした事情を知らないまま、ただ従順であることを求めるのでは、良い医療は提供できません。
そこで、患者が薬を飲めない・飲みたくないと思うのは何故か、その原因は何か、どうすれば解決できるのか、医療の実行を妨げる要因を医療従事者が患者と一緒になって考え、相談しながら最善の方法を探っていく、という治療のあり方が示されました。
このとき、患者にとっては「医療従事者の言うことを聞くかどうか(コンプライアンス)」ではなく、「自分自身の治療に興味・関心を持ち、積極的に参加するかどうか(アドヒアランス)」が重要になります。
そのため近年は、「服薬コンプライアンス」よりも「服薬アドヒアランス」という言葉が使われるようになっています。
「服薬コンプライアンス=良好」でも、「服薬アドヒアランス=不良」は起こる
「服薬コンプライアンス」では、主に「今きちんと薬を飲んでいるかどうか」が評価されていました。
「服薬アドヒアランス」では、「今きちんと薬を飲んでいるかどうか」に加えて、治療の目標、薬に対する知識や理解など、患者の姿勢も評価の対象になります。
※「服薬アドヒアランス」の評価項目の例 1)
①服薬遵守度:薬を用法・用量通りに正しく使用しているか?(コンプライアンス)
②医療従事者との協働性:医療従事者と、自分の思いや目標を共有できているか?
③知識・情報に対する積極性:自分の薬に必要な情報を探したり、利用したりしているか?
④服薬の納得度:薬の必要性について納得しているか?
1) 日本健康教育学会誌.22:13-29,(2014)
基本的に、医師・薬剤師の言う通りに薬を使っていれば、「服薬コンプライアンス=良好」と評価されます。
しかし、中には「先生の言う通りにしていれば大丈夫、全てお任せです」と、自分の治療に関心を持たず医療従事者に丸投げしてしまう人も居ます。
こうした人は、現時点では「服薬コンプライアンス=良好」であっても、「服薬アドヒアランス=不良」と評価されます。
なぜならば、自分の治療に興味・関心を持たない人は、たとえ今はきちんと薬を飲んでいても、時間の経過とともに飲み忘れが増えたり、勝手に止めてしまったり、あるいは変わった飲み方をする薬の飲み方を間違えたり、吸入・注射などの薬の扱いが雑になってしまったりと、潜在的なリスクが高い傾向にあるからです。
このように「服薬アドヒアランス」では、「服薬コンプライアンス」だけでは評価できなかった潜在的なリスクまで考慮し、効果的な治療を維持できるような評価を行います。
「服薬アドヒアランス」の向上は、薬剤師の重要な仕事
実際に、喘息治療に使う吸入薬は「服薬アドヒアランス」が悪いことによって、臨床試験で証明されたような高い効果が現場では得られない、といった事態も報告されています2)。
2) N Engl J Med.364:1695-707,(2011) PMID:21542741
医師は、医学の専門家として、正確な診断によって適切な治療方針を決めます。
その後、その治療方針に従って使う薬で、最大の効果を得られるように「服薬アドヒアランス」を高めることは、薬学の専門家である薬剤師の重要な仕事です。
自分の症状や生活環境は具体的に伝え、より適した薬を選ぶ
たとえ理論上は効果の高い薬であっても、自分にとっては最適ではないかもしれない。
たとえ多くの人にとっては使いやすい薬であっても、自分にとっては使いづらいかもしれない。
世の中にはたくさん似た薬がありますが、医師・薬剤師が適当に選ぶことはありません。他の似た薬ではなく、その薬が選ばれたことには理由があります。
そのため、自分により適した薬を選んでもらうためには、自分の病状や生活環境などを、できるだけ具体的に医師・薬剤師に伝える必要があります。
このように、患者が自分自身の治療方法や薬に対して興味・関心を持ち、積極的に医師・薬剤師と相談しながら決めていく、という姿勢が求められています。
また、薬剤師の中でも「服薬アドヒアランス」という考え方が広がり、大部分の人が「患者が積極的に治療へ参加することは望ましいことだ」と考えるようになっています。そのため、「出しゃばったことを言ったら怒られるかもしれない」などと考えずに、薬を使っていて感じたこと・思ったことは、遠慮せずに伝えて欲しいと思います。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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