薬の副作用で、味がわからなくなる?~薬剤性味覚障害の原因と対策
記事の内容
回答:薬の副作用で、味覚障害になる可能性がある
味がわからなくなる「味覚障害」には、薬が原因で起こるもの(薬剤性味覚障害)があります。
こうした味覚障害を起こす恐れのある薬は100種類以上あり、どの薬で起きても不思議はありません。
ただし、味覚障害は唾液の減少、舌のトラブル、ストレスなど、様々な病気の症状として現れることも多く、必ずしも薬の副作用で起こるものとは限りません。
そのため、味がわからなくなった(味覚消失)、いつもと食事の味が変わった(錯味)、という場合には一度、原因の特定も含めて耳鼻咽喉科などの病院を受診することをお勧めします。
薬を飲み始めたら味が変わったからと言って、自己判断で薬の服用を中断することは非常に危険ですので、絶対にやめてください。
回答の根拠①:薬剤性味覚障害の2つの原因
薬剤性味覚障害の原因は、そのほとんどが以下のどちらかに該当するとされています1)。
※薬剤性味覚障害の原因 1)
1.唾液の分泌が減って、味物質の運搬・拡散ができなくなった
2.亜鉛不足や鉄・ビタミンB12不足による舌のトラブルによって、味を感知する「味蕾」の機能が低下した
1) 厚生労働省 「重篤副作用疾患別マニュアル(感覚器:口)」(2006)
1.唾液の分泌と、味物質の運搬・拡散
味を感知するためには、味を感知する舌の「味蕾」と呼ばれる部分に、味物質が到達しなければなりません。
このとき、味物質が「味蕾」にスムーズに到達するには、口の中で十分な量の唾液が分泌されている必要があります。
そのため、薬によって唾液の分泌が低下すると、味がわかりづらくなることがあります。
※唾液の分泌に影響する可能性のある薬の例
①『ラシックス(一般名:フロセミド)』などの利尿薬 → 尿量が増え、身体の水分量が減る
②『ザイザル(一般名:レボセチリジン)』などの抗ヒスタミン薬 → 口渇の副作用がある
③『アーテン(一般名:トリヘキシフェニジル)』などの抗コリン薬 → 唾液の分泌を減らす
2.「味蕾」の機能低下
微量元素である「亜鉛」が不足すると、味を感知する「味蕾」の機能が低下し、味覚障害を起こすことが知られています。また、鉄欠乏性貧血による平滑舌、ビタミンB12不足による舌炎など、舌に関するトラブルによっても「味蕾」の機能が低下する場合があります1)。
薬の中には、亜鉛や鉄などの微量元素とキレートを形成して吸収を妨げ、味覚障害の原因となる恐れのあるものがあります。
※亜鉛とキレート形成する薬の例
『ジェニナック(一般名:ガレノキサシン)』
※鉄とキレート形成する薬の例
『セフゾン(一般名:セフジニル)』
『ビブラマイシン(一般名:ドキシサイクリン)』
『ベネット(一般名:リセドロン)』などのビスホスホネート製剤
回答の根拠②:味覚障害の対策
味覚障害は、発症から6ヶ月以上放置すると治癒率が13%近く低下、さらに治療までにかかる期間も7週近く長引くことがわかっています2)。
2) 日耳鼻.109:440-446,(2006)
そのため、できるだけ早く対策・治療を開始する必要があります。
基本的に、大部分(60~70%)の味覚障害は、亜鉛の補給によって改善するとされています1)。しかし、薬が原因として疑われる場合には、薬の中止や変更も併せて行う場合があります。
ただし、鉄欠乏性貧血による平滑舌、ビタミンB12不足による舌炎など、舌のトラブルによっても味覚障害は起こり得るため、薬の副作用だと決めつけることなく、病院を受診して原因を明確にする必要があります。
薬剤師としてのアドバイス①:「歳だから仕方ない」で済ませない
唾液の減少や「味蕾」の機能低下による味覚障害は、高齢者に多いトラブルです。薬による副作用で、こうした味覚障害が更に悪化するケースも珍しくはありません。
しかし、「歳だから仕方ない」と、医師・薬剤師にも伝えることなく、放置してしまうことが多々あります。
味覚障害によって食事が美味しくなくなると、栄養が偏ったり、ストレスが溜まったり、様々な弊害が起こります。こうした栄養の偏り・ストレスによって、更に味覚障害が悪化し、最悪の場合、食事の楽しみを失ってしまうことにもなりかねません。
味を感じなくなったり、いつもと味が変わったり、あるいは家族の作る食事の味に急な変化が起きた場合には、味覚障害を疑って一度、病院を受診するようにしてください。
薬剤師としてのアドバイス②:薬を勝手に中断しない
味覚障害を起こす恐れのある薬はたくさんありますが、必ずしも薬だけが原因とは限りません。
また、薬が原因と疑われる場合でも、その薬が治療に必要であれば、薬を続けたまま味覚障害の治療を行う場合もあります。
そのため、薬を飲み始めたタイミングで味が変わったからといって、薬の副作用だと早合点し、自己判断で薬を中断したりしないようにしてください。
必ず、薬の変更や中止は医師・薬剤師と相談の上で行うようにしてください。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
この記事へのコメントはありません。