『ビラノア』と『デザレックス』、同じ抗ヒスタミン薬の違いは?~効果の速さと食事・飲み物の影響
記事の内容
回答:速く効く『ビラノア』、食事や飲み物の影響を受けにくい『デザレックス』
『ビラノア(一般名:ビラスチン)』と『デザレックス(一般名:デスロラタジン)』は、どちらも眠くなりにくい”非鎮静性”の抗ヒスタミン薬です。
『ビラノア』は、効果が速く現れる薬です。
『デザレックス』は、食事や飲み物などによる影響を受けにくい薬です。

”非鎮静性”の抗ヒスタミン薬はたくさんの種類があるため、自分の症状や生活状況などに合わせて、適した薬を選ぶことができるようになっています。
回答の根拠①:「ビラスチン」の速い効果~眠くなりにくい&速効性の両立
基本的に、花粉症などのアレルギー性鼻炎に対して「ビラスチン」と「デスロラタジン」の効果に大きな違いは無いとされています1)。
しかし、「ビラスチン」は「デスロタラジン」2)をはじめ、「フェキソフェナジン」3)や「セチリジン」4)などに比べても効果が速く現れることが確認されています。
”非鎮静性”の抗ヒスタミン薬は、眠くなりにくいため非常に使いやすい薬ですが、速効性が乏しく、効き始めるまでに時間がかかるのが欠点でした。「ビラスチン」はある程度この欠点を克服し、眠くなりにくい&速く効くを実現した薬と言えます。

1) Allergy.64(1):158-65,(2009) PMID:19132976
2) Curr Med Res Opin.33(1):129-136,(2017) PMID:27659218
3) Allergol Int.66(1):97-105,(2017) PMID:27421817
4) Inflamm Res.60(12):1107-12,(2011) PMID:21874559
花粉症の症状が重い人では、より大きな効果を期待できる可能性
「ビラスチン」は、花粉症の症状が重い人に対して「デスロラタジン」よりもやや効果が優れる、とする報告もあります5)。そのため、速さだけでなく”強さ”も期待して選ばれることがあります。
5) Медицинский совет.0(20):58-67,(2019) ※PubMed外
回答の根拠②:効果が安定している「デスロラタジン」~食事の時間や内容による影響
「デスロラタジン」は、食後でも空腹時でも、服用のタイミングによって吸収はあまり影響を受けません6)。そのため、食事の時間や内容に縛られることなく、いつ飲んでも安定した効果が得られます。
一方で「ビラスチン」は、食後に飲むと最高血中濃度(Cmax)は約60%、血中濃度-時間曲線下面積(AUC)は約40%低下してしまうことから、「空腹時」に服用する必要があります7)。

6) デザレックス錠 インタビューフォーム
7) ビラノア錠 インタビューフォーム
なお「空腹時」とは、胃に食べ物が残っていない状態のことを指しますが、「ビラスチン」の臨床試験では食事の1時間前または食後2時間以内を避けて服用している7)ことから、通常はこれと同じタイミングで服用します。

カタログスペック上は「ビラスチン」の方がやや優れる面がありますが、その恩恵を受けるにはこうした複雑な用法を守って薬を使い続ける必要があります。特に生活が不規則な人の場合は、服用のタイミングを問わない「デスロラタジン」の方が安定した治療ができることもあります。
「グレープフルーツジュース」の影響も受けにくい
「ビラスチン」は、「グレープフルーツジュース」の飲用によって消化管からの吸収が阻害され、Cmaxは約40%、AUCは30%低下することが報告されています7)。
その点「デスロラタジン」は、「グレープフルーツジュース」による影響もほとんどありません6,8)。
8) Clin Pharmacokinet.41(4):311-8,(2002) PMID:11978146
回答の根拠③:眠気の副作用~自動車運転に対する制限
「ビラスチン」と「デスロラタジン」は、どちらもほとんど脳に移行しない9,10)ため、眠くなる副作用が起こりにくい”非鎮静性”の抗ヒスタミン薬に分類されます。
中でも、「ビラスチン」「デスロラタジン」と「フェキソフェナジン」「ロラタジン」の4つは、服用後の自動車運転が禁止されていない6,7)ほか、服用後の航空業務にも制限がなく11)、眠気や集中力・判断力低下のリスクが特に低い薬と言えます。
9) Br J Clin Pharmacol.78(5):970-80,(2014) PMID:24833043
10) Pharmacol Res Perspect.7(4):e00499,(2019) PMID:31338198
11) 令和元年6月17日一部改正 国空航第327号 「航空機乗組員の使用する医薬品の取扱いに関する指針」
薬剤師としてのアドバイス:”古くて安い薬”の方が、コスパに優れることもある
「ビラスチン」と「デスロラタジン」は、どちらも比較的新しい薬で、値段も高めです。確かに効果の速さや安定感という点で優れた面もありますが、”花粉症で早めに薬の服用を始める”場合や、”毎日決まった時間にしっかりと薬を服用できる”場合などには、これらの長所は特に重要ではありません。
そのような場合、以前からある”古くて安い薬”を使った方がコストパフォーマンスに優れることもよくあります。”新しくて高価な薬”の方が必ず常に優れる…というわけではないため、医師や薬剤師としっかり相談して、自分の治療目的や生活状況に合わせた薬を選ぶことをお勧めします。
ポイントのまとめ
1. 『ビラノア(ビラスチン)』は、適切に使うことができれば、速く&強めに効く
2. 『デザレックス(デスロラタジン)』は、食事や飲料の影響を受けにくく、生活が不規則な人でも安定した効果を期待できる
3. 新しい薬は高価なため、”古くて安い薬”の方がコストパフォーマンスに優れることもある
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
ビラスチン | デスロラタジン | |
先発医薬品名 | ビラノア | デザレックス |
適応症 | アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴うそう痒 | アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴うそう痒 |
用法 | 1日1回、空腹時 | 1日1回 |
食後(高脂肪食)に服用した場合の影響 | Cmax 60%低下 AUC 40%低下 | ほとんど影響しない |
グレープフルーツジュースの影響 | Cmax 40%低下 AUC 30%低下 | ほとんど影響しない |
服用後の自動車運転 | 制限なし | 制限なし |
交叉性のある薬 | なし | ロラタジン |
妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準 【B3】 | オーストラリア基準 【B1】 |
錠剤の規格 | 錠(20mg)、OD錠(20mg) | 錠(5mg) |
先発医薬品の製造販売元 | 大鵬薬品工業 | オルガノン |
同成分のOTC医薬品 | (販売なし) | (販売なし) |
+αの情報①:「ビラスチン」は、朝の”会社に着いたとき”に飲む方法もある
「ビラスチン」は、シリアルのような低脂肪食であっても、その吸収が低下します12)。大したものを食べていないから…と思って”食後”で服用していると、薬本来の効果を期待できなくなってしまう恐れがあります。
なお、忙しいサラリーマンなどは「朝、会社に着いた時」が良いタイミングである場合があります。
12) 大鵬薬品工業「ビラノア錠 第2部:CTDの概要 生物薬剤学及び関連する分析法の概要」
+αの情報②:「デスロラタジン」は、妊娠中の安全性評価が高め
「デスロラタジン」は、妊娠中に使用しても特に出生異常や早産・死産などのリスクとは関連しなさそう、ということが確認されています13)。そのため、比較的新しい薬ではあるものの、オーストラリア基準でも【B1】と、「ビラスチン」の【B3】に比べて高い評価が得られています。
13) J Allergy Clin Immunol Pract.8(5):1598-1605,(2020) PMID:32142963
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
こんにちは。質問なのですが
花粉症でビラノアを出してもらい服用は「起床時」で食事は1時間以上後にとりますが
起きたらすぐインスタントコーヒー(砂糖入りたまにクリープ入り)を毎朝飲んでいます
これもやはり飲まない方が良いのでしょうか?よろしくお願い致します。
結論から申し上げますと、インスタントコーヒー1杯くらいであれば、そこまで厳密に制限しなくても良いかなと思います。
「カフェイン」との相互作用も今のところ報告はないようです。
ただ、『ビラノア』は低脂肪食であっても、何かを食べた後には吸収が悪化することが確認されています。
(※ビラノア錠 第2部(モジュール2):CTDの概要 生物薬剤学及び関連する分析法の概要)
「コーヒーを飲んだ方が良い」ということはありませんので、もし薬の効きが悪いと感じることがあれば、起床時以外(寝る前や夕刻など)で薬を飲むタイミングを探してみるのが良いのではと思います。
ありがとうございました!
接客に活かしていきたいと思います。
こちらのサイトでいつも勉強させていただいてます。ありがとうございます。
わかりやすい説明で、何回も繰り返し見ています。
アレグラとグレープフルーツジュースの件ですが、販売するにあたりとても気になったので(私は登販です‥)職場の薬剤師に話したら、その人も初耳だ!ということでメーカーに問い合わせてました。1.5ℓくらい飲んだら影響を受けるとの回答でした。そこまで飲む人も少ないでしょうが、可能性として頭には入れておきたいです。
コメントありがとうございます。
リンク先の個別記事の方で「1.2ℓの飲用で」と記載していたのですが、こちらには記載していなかったのでお手間をとらせてしまったようです。申し訳ありません。
確かに毎日1.2ℓ飲用するような人は居ないと思いますが、吸収への影響が非常に大きいことや、OATPの働きに個人差があることも踏まえると、アレグラ服用中に敢えてジュースを飲む必要はないかなと考えています。
また、FDA(米国食品医薬品局)はグレープフルーツに限らず、リンゴジュースなども含めて「do not take with fruit juices」としていることも留意すべきかなと思います。
https://www.fizz-di.jp/archives/1054627156.html
個別記事の方も参考にして頂ければ幸いです。
【加筆修正】回答の根拠②
『ビラノア』の速く強力な効果が示されたのは皮膚のアレルギー疾患のため、ほとんど同じ効果であることが示された季節性アレルギー性鼻炎とは区別して記載しました。