『デザレックス』と『ビラノア』、新しい抗ヒスタミン薬の違いは?~食事や飲み物の影響と、効果と眠気の差
記事の内容
回答:食事・飲み物の影響を受けない『デザレックス』、速く強力な『ビラノア』
『デザレックス(一般名:デスロラタジン)』と『ビラノア(一般名:ビラスチン)』は、どちらもアレルギー治療に使う新しい抗ヒスタミン薬です。
『デザレックス』は、食事や飲み物などによる影響を受けにくく、いつ飲んでも良い薬です。
『ビラノア』は、特に皮膚のアレルギーに対して速く強力に効く薬です。
花粉症に対する効果にはほとんど差はありません。また、どちらも眠気や集中力・判断力の低下といった副作用はほとんどなく、自動車運転の制限はされていません。
抗ヒスタミン薬には既に多くの薬があり、服用回数や効果・副作用の特徴から選べるようになっています。そこに新たに『デザレックス』と『ビラノア』が追加されることで、自分にあった薬をより選びやすくなります。
回答の根拠①:安定した効果の『デザレックス』~食事時間・内容による影響
『デザレックス』は、食後でも空腹時でも吸収に大きな差がありません1)。そのため、食事の時間に縛られることなく、いつ飲んでも安定した効果が得られます。
一方『ビラノア』は、「食後」に飲むと最高血中濃度(Cmax)は約60%、血中濃度-時間曲線下面積(AUC)は約40%低下することから、「空腹時」に飲む必要があります2)。
「空腹時」は胃に食べ物が残っていない状態のことを指しますが、『ビラノア』は臨床試験で食事の1時間前または食後2時間以内を避けて服用している2)ことから、通常はこれと同じタイミングで服用します。
1) デザレックス錠 インタビューフォーム
2) ビラノア錠 インタビューフォーム
たとえ毎日きちんと決められた量の薬を飲んでいても、「たかが花粉症の薬だし、少しくらい飲む時間帯がズレても良いや」と、間違った飲み方をしてしまう人は少なくありません。『デザレックス』はいつ飲んでも効果は変わらないため、こうした多少のズレを気にせずに使うことができます。
「グレープフルーツジュース」による吸収低下にも違い
『デザレックス』は、「グレープフルーツジュース」によって吸収が邪魔されることはありません1)。
一方『ビラノア』は、「グレープフルーツジュース」の飲用によって消化管からの吸収が阻害され、Cmaxは約40%、AUCは30%低下することが報告されています2)。『アレグラ(一般名:フェキソフェナジン)』と同様、『ビラノア』で治療中は「グレープフルーツジュース」を飲むのは控えた方が無難です。
このことから、『デザレックス』は食事の時間や飲み物による影響を受けにくく、効き目に個人差が生じにくい薬であると言えます。
回答の根拠②:『ビラノア』の効果~皮膚疾患への速さと強さ
アレルギー性鼻炎に対する治療効果は、『デザレックス』と『ビラノア』でほとんど違いは無いとされています3)。
3) Allergy.64(1):158-65,(2009) PMID:19132976
一方、皮膚症状に対しては『デザレックス』より『ビラノア』の方が速く強力だったことが報告されています4)。
特に、こうした皮膚のアレルギー治療に際して、『ビラノア』は『ジルテック(一般名:セチリジン)』と比べた場合でも、1時間半後の時点でより大きな治療効果が得られることが示されています5)。
『ジルテック』も投与後1時間後には効果が得られる、即効性に優れた薬です6)。この『ジルテック』よりも速く大きな効果を得られることは、『ビラノア』の効果を示す1つの特徴です。
4) Curr Med Res Opin.21:1-8,(2016) PMID:27659218
5) Inflamm Res.60(12):1107-12,(2011) PMID:21874559
6) ジルテック錠 インタビューフォーム
回答の根拠③:眠気の副作用~自動車運転に対する注意喚起
『デザレックス』は『クラリチン(一般名:ロラタジン)』の代謝活性体の薬ですが、この『クラリチン』は眠気や集中力・判断力への影響が少なく、パイロットの航空機操縦能力にも影響しないことが確認されています7)。
『ビラノア』も同様に、自動車運転8)や空軍パイロットの任務遂行能力にも影響しない9)ことが確認されています。
7) Am J Rhinol.6(1):23-27,(1992) ※PubMed外
8) Br J Clin Pharmacol.78(5):970-80,(2014) PMID:24833043
9) Aerosp Med Hum Perform.87(7):622-7,(2016) PMID:27503042
このように『デザレックス』と『ビラノア』は眠気や集中力・判断力の低下の心配が少ないことから、どちらも服用した状態での自動車運転は禁止・制限されていません1,2)。
薬剤師としてのアドバイス:効果より、眠気の少なさで薬を選ぶ
眠気の強い薬を飲んだ状態で自動車運転をすることは非常に危険です。
また、眠気を感じていなくても無自覚のうちに集中力や判断力が低下している状態(インペアード・パフォーマンス)では、自動車運転に限らず、仕事の労働生産性や、学生の学業成績にも影響を及ぼす恐れがあります。
そのため花粉症などの治療の際は、効果の小さな差よりも、眠気や集中力・判断力への影響の少なさで薬を選ぶのが一般的です。
『デザレックス』と『ビラノア』はどちらも高い効果で眠気が少ない薬のため、既存の薬では満足のいく治療ができなかった人にとって、その問題を解決できる可能性を秘めた薬と言えます。
ただし、新しい薬は値段も高いため、これまでの薬で十分に症状を抑えられている場合には、敢えて新薬に変更する必要はありません。
ポイントのまとめ
1. 『デザレックス』は、服用のタイミングや食事内容に影響を受けないため、使いやすい
2. 『ビラノア』は、服用方法が難しいが、皮膚疾患にはより速く強力な効果が期待できる
3. 花粉症などに使う際は、効果より眠気の少なさで薬を選ぶのが一般的
添付文書・インタビューフォーム記載事項の比較
◆有効成分
デザレックス:デスロラタジン (※ロラタジンの代謝活性体)
ビラノア:ビラスチン
◆適応症
デザレックス:アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚掻痒症)に伴う掻痒
ビラノア:アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚掻痒症)に伴う掻痒
◆用法・用量
デザレックス:12歳以上に、1日1回5mg
ビラノア:成人に、1日1回20mg、空腹時
◆食後に服用した場合の影響
デザレックス:影響なし
ビラノア:Cmax 60%低下、AUC 40%低下
◆グレープフルーツジュースの影響
デザレックス:影響なし
ビラノア:Cmax 40%低下、AUC 30%低下
◆通常用量の場合の、最高血中濃度到達時間(Tmax)
デザレックス:1.75時間
ビラノア:1.0時間
◆眠気の副作用頻度
デザレックス:1.0%
ビラノア:0.6%
◆自動車運転能力に対する影響
デザレックス:なし
ビラノア:なし
◆脳内ヒスタミン受容体占有率による分類
デザレックス:非鎮静性(20%未満)
ビラノア:非鎮静性(20%未満)
◆製造販売元
デザレックス:MSD
ビラノア:大鵬薬品
+αの情報:『ビラノア』は朝、会社に着いたときに飲む方法もある
『ビラノア』は、低脂肪食であっても吸収に影響を受けます10)。そのため、シリアルのような軽食であっても、その食後に服用するのは避けた方が無難です。
10) 大鵬薬品工業「ビラノア錠 第2部:CTDの概要 生物薬剤学及び関連する分析法の概要」
「寝る前」や「起床時」などの用法で処方されることの多い『ビラノア』ですが、用法の表現にこだわるのではなく、食事の1時間前または食後2時間以内を避けられているかどうかを重視するようにしてください。その際、忙しいサラリーマンなどは「朝、会社に着いた時」が良いタイミングである場合があります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
こんにちは。質問なのですが
花粉症でビラノアを出してもらい服用は「起床時」で食事は1時間以上後にとりますが
起きたらすぐインスタントコーヒー(砂糖入りたまにクリープ入り)を毎朝飲んでいます
これもやはり飲まない方が良いのでしょうか?よろしくお願い致します。
結論から申し上げますと、インスタントコーヒー1杯くらいであれば、そこまで厳密に制限しなくても良いかなと思います。
「カフェイン」との相互作用も今のところ報告はないようです。
ただ、『ビラノア』は低脂肪食であっても、何かを食べた後には吸収が悪化することが確認されています。
(※ビラノア錠 第2部(モジュール2):CTDの概要 生物薬剤学及び関連する分析法の概要)
「コーヒーを飲んだ方が良い」ということはありませんので、もし薬の効きが悪いと感じることがあれば、起床時以外(寝る前や夕刻など)で薬を飲むタイミングを探してみるのが良いのではと思います。
ありがとうございました!
接客に活かしていきたいと思います。
こちらのサイトでいつも勉強させていただいてます。ありがとうございます。
わかりやすい説明で、何回も繰り返し見ています。
アレグラとグレープフルーツジュースの件ですが、販売するにあたりとても気になったので(私は登販です‥)職場の薬剤師に話したら、その人も初耳だ!ということでメーカーに問い合わせてました。1.5ℓくらい飲んだら影響を受けるとの回答でした。そこまで飲む人も少ないでしょうが、可能性として頭には入れておきたいです。
コメントありがとうございます。
リンク先の個別記事の方で「1.2ℓの飲用で」と記載していたのですが、こちらには記載していなかったのでお手間をとらせてしまったようです。申し訳ありません。
確かに毎日1.2ℓ飲用するような人は居ないと思いますが、吸収への影響が非常に大きいことや、OATPの働きに個人差があることも踏まえると、アレグラ服用中に敢えてジュースを飲む必要はないかなと考えています。
また、FDA(米国食品医薬品局)はグレープフルーツに限らず、リンゴジュースなども含めて「do not take with fruit juices」としていることも留意すべきかなと思います。
https://www.fizz-di.jp/archives/1054627156.html
個別記事の方も参考にして頂ければ幸いです。
【加筆修正】回答の根拠②
『ビラノア』の速く強力な効果が示されたのは皮膚のアレルギー疾患のため、ほとんど同じ効果であることが示された季節性アレルギー性鼻炎とは区別して記載しました。