『デパス』と『アモバン』、向精神薬に指定されると何が変わる?~個人輸入と投与制限
記事の内容
回答:個人輸入が禁止、投与量にも制限がかかる
2016年10月14日から、『デパス(一般名:エチゾラム)』と『アモバン(一般名:ゾピクロン)』が「第三種向精神薬」に指定されます。
これによって、個人輸入が一切禁止になるほか、1回に30日以上の処方ができなくなる(※投与制限は11月1日から適用)など、より厳重に管理されるようになります。
これは従来から問題となっていた『デパス』や『アモバン』の乱用や安易な大量処方を規制するために行われるもので、特に新しい副作用やリスクが判明したから、というわけではありません。
回答の根拠:向精神薬になると何が変わるのか
厚生労働省は、2016年10月14日から新たに3物質「エチゾラム・ゾピクロン・フェナゼパム」を「第三種向精神薬」として指定し、規制をより強化することを発表しています1)。
1) 厚生労働省 報道発表資料2016年9月14日掲載
「第三種向精神薬」になると、新たに「麻薬及び向精神薬取締法」が適用され、通常の処方箋医薬品よりも規制が厳しくなります。具体的には、1回の処方量が制限されるほか、個人輸入や海外への持ち出しに規制がかかるようになります。
30日の投与制限
向精神薬は、一度に大量の薬を処方できないように投与制限(14日・30日・90日のいずれか)が設けられています。そのため、連休などがあってもこの投与制限を超える量の薬を処方することはできません。
『デパス』と『アモバン』はどちらも30日の投与制限が設けられますが、この投与制限に関しては2016年11月1日から適用されることが発表されています2)。
2) 平成28年10月13日付 官報第6877号厚生労働省告示第365号
個人輸入の禁止
向精神薬は医療用の麻薬と同様、医師から処方された本人が携帯して入国する場合を除いて、一般の個人が輸入することは「麻薬及び向精神薬取締法」によって禁止されています。
友人・知人が代わりに持ち込むことや、国際郵便等によって海外から取り寄せることもできません3)。
3) 厚生労働省 「医薬品等の個人輸入について」
そもそも、向精神薬でなくとも、個人輸入した薬で起こった副作用は、「医薬品副作用被害救済制度」の対象外にもなるため、やむを得ない事情がある場合を除き、安易に薬を個人輸入することは全くお勧めできません。
海外への持ち出し
日本では、出入国の際に携帯できる向精神薬の上限量が、薬ごとに決められています。
『デパス』などの「エチゾラム」製剤は90mg、『アモバン』などの「ゾピクロン」製剤は300mgが上限量として定められています4)。
4) 厚生労働省令第147号 「麻薬及び向精神薬取締法施行規則の一部を改正する省令」
ただし、国や薬の種類によっては治療のための所持であっても違法になる場合もあるため、海外渡航時は必ず事前に主治医に相談・確認するようにしてください。
例:『ロヒプノール(一般名:フルニトラゼパム)』はアメリカ合衆国では違法薬物に指定
薬剤師としてのアドバイス:安易な使用は控えるべきだが、危険性を誇張するのも問題
『デパス』や『アモバン』などの睡眠薬は耐性や依存性が生じるリスクがゼロではありません。そのため安易な大量使用や長期使用は控え、必要最低限の量を使うべき薬です。
特に最近は、慢性的な不眠症には薬を使うよりも、認知行動療法の方を優先すべきとする見解もあります。
しかし、薬が処方されるのは薬を使うリスク・デメリットよりも、メリットの方が大きいと判断された時です。処方された薬を自己判断で飲まなかったりすると、治療に支障を及ぼす恐れがあります。
治療や薬に関して気になること、不安なことは必ず医師・薬剤師などの専門家に相談し、ネット上のいい加減な情報、誇張された情報を鵜呑みにして薬の飲み方を変えたりしないようにしてください。
+αの情報:第三種向精神薬に指定されている薬、指定されていない薬
抗不安薬・睡眠薬は、その多くが向精神薬に指定されていますが、全てが指定されているわけではありません。
※第三種向精神薬に指定されている「ベンゾジアゼピン系」の抗不安薬・睡眠薬 5)
リーゼ(一般名:クロチアゼパム)
ソラナックス(一般名:アルプラゾラム)
ワイパックス(一般名:ロラゼパム)
レキソタン(一般名:ブロマゼパム)
セルシン(一般名:ジアゼパム)
セパゾン(一般名:クロキサゾラム)
エリスパン(一般名:フルジアゼパム)
コントール(一般名:クロルジアゼポキシド)
セレナール(一般名:オキサゾラム)
レスミット(一般名:メダゼパム)
メンドン(一般名:クロラゼブ)
メイラックス(一般名:ロフラゼブ)
ハルシオン(一般名:トリアゾラム)
レンドルミン(一般名:ブロチゾラム)
ロラメット(一般名:ロルメタゼパム)
ベンザリン(一般名:ニトラゼパム)
ユーロジン(一般名;エスタゾラム)
エリミン(一般名:ニメタゼパム)
ダルメート(一般名:フルラゼパム)
ソメリン(一般名:ハロキサゾラム)
マイスリー(一般名:ゾルピデム)
デパス(一般名:エチゾラム) ←新たに追加
アモバン(一般名:ゾピクロン) ←新たに追加
5) 南江堂 「今日の治療薬2016」
特に、『アモバン』の改良版である『ルネスタ(一般名:エスゾピクロン)』や、新しいタイプの睡眠薬である『ロゼレム(一般名:ラメルテオン)』や『ベルソムラ(一般名:スボレキサント)』など、向精神薬に指定されていないものもあるため、混同に注意が必要です。
※向精神薬に指定されていない抗不安薬・睡眠薬の例
ルネスタ(一般名:エスゾピクロン) ※アモバンの改良版
コレミナール(一般名:フルタゾラム)
レスタス(一般名:フルトプラゼパム)
メレックス(一般名:メキサゾラム)
リスミー(一般名:リルマザホン)
ロゼレム(一般名:ラメルテオン)
ベルソムラ(一般名:スボレキサント)
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
回答の根拠の部分で、30日制限が設けられるとしていましたが、投与制限は2016年11月1日から適用されることが通知されたため、その旨を加筆しました。