『ランサップ』と『ランピオン』、同じピロリ除菌の薬の違いは?~二次除菌まで用意されている理由
記事の内容
回答:『ランサップ』は一次除菌、『ランピオン』は二次除菌に使う
『ランサップ』と『ランピオン』は、どちらもピロリ除菌の薬です。
『ランサップ』は一次除菌、『ランピオン』は二次除菌の際に使う3種の薬がパッケージされています。
※パッケージされている薬
ランサップ:アモキシシリン + クラリスロマイシン + ランソプラゾール
ランピオン:アモキシシリン + メトロニダゾール + ランゾプラゾール
それぞれの薬を個別に処方されることもありますが、1つの薬としてパッケージされている『ランサップ』や『ランピオン』であれば用法や服用個数を間違いにくく、より確実な除菌をすることができます。
回答の根拠①:パッケージされた薬の違い
ピロリ菌を除菌する「三剤併用療法」では、使う薬・薬の飲み方・薬を飲む期間がそれぞれ厳密に決められています。
※ピロリ除菌の三剤併用療法 1)
以下3種の薬を1日2回、7日間服用する
一次除菌:アモキシシリン750mg + クラリスロマイシン200 or 400mg + 胃酸分泌抑制薬(PPI / P-CAB)
二次除菌:アモキシシリン750mg + メトロニダゾール250mg + 胃酸分泌抑制薬(PPI / P-CAB)
1) 南江堂 「今日の治療薬 (2017)」
これに準じて、『ランサップ』には一次除菌用、『ランピオン』には二次除菌用の薬がそれぞれ3種ずつパッケージされています。
※『ランサップ』に使われている一次除菌用の薬 2)
『アモリン(一般名:アモキシシリン)』
『クラリス(一般名:クラリスロマイシン)』
『タケプロン(一般名:ランソプラゾール)』
※『ランピオン』に使われている二次除菌用の薬 3)
『アモリン(一般名:アモキシシリン)』
『フラジール(一般名:メトロニダゾール)』
『タケプロン(一般名:ランソプラゾール)』
2) ランサップ 添付文書
3) ランピオン 添付文書
回答の根拠②:薬をまとめるメリット
ピロリ除菌を、それぞれ個別の薬行おうとした場合、飲む薬の個数がバラバラになって非常にわかりにくくなります。
※除菌で飲む薬の例
1回に『アモリン』250mg×3Cap、『クラリス』200mg×2錠、『タケプロン』30mg×1錠
除菌の薬は、飲み方を間違うと除菌できないばかりか、ピロリ菌が耐性を持ってしまい、治療が更に難しくなってしまう恐れもあり、確実な服用が必要です。
そのため、『ランサップ』や『ランピオン』のように1日量が1シートに区切られ、用法や服用個数をわかりやすくパッケージした薬を使ってより確実な服用を目指すことがあります。
実際に、こうしたパッケージ薬を使うことで服薬率を改善できるとする報告があります4)。
4) J Clini Biochem Nutr.38(2):73-76,(2006) CiNii:130004466451
回答の根拠③:なぜ二次除菌まであるのか
一次除菌で使われる「クラリスロマイシン」は、小児科や耳鼻科などでも広く使われる抗生物質です。そのため、幼少期から「クラリスロマイシン」を頻繁に使っていた場合、既にピロリ菌が「クラリスロマイシン」に耐性を持っている可能性があります。
こうしたクラリスロマイシン耐性のピロリ菌が増えたことにより、一次除菌の成功率はおよそ75~85%程度と、きちんと薬を飲んだとしても15~25%の人は失敗してしまうことが報告されています5)。
5) 日本消化器病学会 「消化性潰瘍治療ガイドライン (2009)」
さらに、ピロリ除菌の際にはPPIなどの胃酸を抑える薬を使って胃のpHを大きくし、抗生物質の抗菌活性を高める必要がありますが、体質的にPPIが効きにくい人では、除菌の成功率が悪くなってしまうこともわかっています6)。
6) Clin Pharmacol Ther.81(4):521-8,(2007) PMID:17215846
このように、薬をきちんと飲んでも除菌に失敗してしまうことがあることから、日本では二次除菌まで保険を使って行えるようになっています。
ただし、いきなり二次除菌から始めたり、一次除菌を何回も繰り返したりすることはできません。
薬剤師としてのアドバイス:軽い副作用であれば我慢し、除菌を完了させてしまう
ピロリ除菌では、通常よりも多い量の抗生物質を使います。そのため、多くの人でお腹が緩くなったり、口内炎ができたりといった副作用が出てしまいます。
しかし、薬を途中で止めるとピロリ菌が薬に対して耐性を持ってしまい、より治療が難しくなってしまう恐れがあります。また、保険を使って除菌できるのも全部で2回までです。
こうした点から、ピロリ除菌の際は多少の下痢や口内炎・胸焼けくらいの副作用であれば我慢し、薬を最後まで飲み切ってしまうことをお勧めします。
ただし、以下のような副作用が起きた場合には我慢せず、主治医に連絡して対応を相談するようにしてください。
※我慢せず、医師に相談すべき副作用の例
①発熱
②腹痛を伴う下痢
③下痢に粘液や血液が混じっている
ポイントのまとめ
1. 『ランサップ』は一次除菌、『ランピオン』は二次除菌のための薬
2. 『ランサップ』や『ランピオン』は、1日分が1シートになっているので飲み間違いをしにくい
3. 除菌の際は、我慢すべき副作用、我慢してはいけない副作用を確認しておく
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆パッケージされている薬
ランサップ:『アモリン(一般名:アモキシシリン)』 + 『クラリス(一般名:クラリスロマイシン)』 + 『タケプロン(一般名:ランソプラゾール)』
ランピオン:『アモリン(一般名:アモキシシリン)』 + 『フラジール(一般名:メトロニダゾール)』 + 『タケプロン(一般名:ランソプラゾール)』
◆適応症
ランサップ:ヘリコバクター・ピロリ感染症(胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃MALTリンパ腫・特発性血小板減少性紫斑病・早期胃癌に対する内視鏡的治療後)
ランピオン:ヘリコバクター・ピロリ感染症(胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃MALTリンパ腫・特発性血小板減少性紫斑病・早期胃癌に対する内視鏡的治療後)
◆使う目的
ランサップ:ヘリコバクター・ピロリの一次除菌
ランピオン:ヘリコバクター・ピロリの二次除菌
◆アルコールとの併用注意
ランサップ:なし
ランピオン:あり
◆製造販売元
ランサップ:武田薬品工業
ランピオン:武田薬品工業
+αの情報①:ピロリ除菌とお酒
二次除菌で使う「メトロニダゾール」には、アルコールの分解経路のうち「アルデヒド分解酵素」を邪魔する作用があります7)。そのため、お酒を飲むと「アセトアルデヒド」が蓄積し、頭痛・吐き気など「二日酔い」と同じ症状を起こす恐れがあります。
7) フラジール内服錠 添付文書
また、一次除菌中であっても軟便や口内炎・胸焼けの副作用がより強まる恐れがありますので、一次除菌か二次除菌かに関わらず、ピロリ除菌中の飲酒は控えることをお勧めします。
+αの情報②:『ランサップ』の400と800
『ランサップ』には400と800の2種類があります。これは、『クラリス』の1日量が400mgか800mgかの違いです2)。
一次除菌では、「クラリスロマイシン」を1日400mg使う方法と、1日800mg使う方法の2パターンがあります。基本的に、400mgでも800mgでも除菌成功率に違いはないため、副作用の少ない1日400mgの方法が推奨されています8)。
8) 日本ヘリコバクター学会 「H.pyrori感染の診断と治療のガイドライン」
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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