『ガナトン』と『ガスモチン』、同じ胸やけ・胃炎の薬の違いは?~ドパミンとセロトニンへの作用と副作用
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回答:ドパミンを介する『ガナトン』、セロトニンを介する『ガスモチン』
『ガナトン(一般名:イトプリド)』と『ガスモチン(一般名:モサプリド)』は、どちらも慢性的な胃炎による胸やけなどの症状を抑える薬です。
『ガナトン』は「ドパミン」、『ガスモチン』は「セロトニン」を介して作用を発揮するため、副作用の傾向に多少の違いがあり、体質や併用薬によって使い分ける場合があります。
どちらも値段が安く副作用も少ないため非常に使いやすい薬ですが、その反面、漫然とした使い方につながりやすい薬であることにも注意が必要です。
回答の根拠①:異なる作用機序~『ガナトン』と『ガスモチン』の副作用
『ガナトン』は、「ドパミンD2受容体」に拮抗することで「アセチルコリン」を増やし、消化管の運動を活発にします1)。
『ガスモチン』は、「セロトニン5-HT4受容体」を刺激することで「アセチルコリン」を増やし、消化管の運動を活発にします2)。
1) ガナトン錠 添付文書
2) ガスモチン錠 添付文書
このとき、それぞれ作用する受容体が異なるため、副作用の傾向に違いがあります。
「ドパミン」は、身体の運動機能の調整に関わっています。そのため、「ドパミン」に作用する『ガナトン』はごく稀に「錐体外路障害」を起こすことがあります1)。
「セロトニン」は、消化器の働きに関わっています。そのため、「セロトニン」に作用する『ガスモチン』は副作用として「下痢」を起こしやすい傾向があります2)。
どちらの副作用も頻繁に起こるものではありませんが、薬を使う人の体質や持病によって使い分けが必要な場合もあります。
回答の根拠②:共通の目的~『ガナトン』と『ガスモチン』の適応症
『ガナトン』と『ガスモチン』は、どちらも慢性的な胃炎によって起こる症状を抑えるために使う薬です1,2)。適応症の表現には若干の違いがありますが、処方目的は同じです。
※『ガナトン』の適応症 1)
慢性胃炎における消化器症状(腹部膨満感、上腹部痛、食欲不振、胸やけ、悪心、嘔吐)
※『ガスモチン』の適応症 2)
慢性胃炎に伴う消化器症状(胸やけ、悪心・嘔吐)
薬剤師としてのアドバイス:ピロリ菌の感染や、機能性ディスペプシアにも注意
『ガナトン』や『ガスモチン』は、あくまで胸やけなどの症状を抑える薬です。この胸やけに明らかな原因がある場合には、その原因を根本的に治療する必要があります。
例えば、逆流性食道炎の場合にはPPIやH2ブロッカーといった胃酸を抑える薬を、ピロリ菌に感染している場合には抗生物質による除菌を行う必要があります。
また、明らかな病変が無いにも関わらず胸やけや胃の痛みを繰り返す場合には、「機能性ディスペプシア」の可能性もあります。この場合は食事・生活習慣を見直すとともに、『アコファイド(一般名:アコチアミド)』など専用の薬を使う必要があります。
『ガナトン』と『ガスモチン』はどちらも値段が安く副作用も少ない薬ですが、漫然とした使い方にならないよう注意が必要です。
ポイントのまとめ
1. 『ガナトン』と『ガスモチン』は、どちらも胸焼けや胃炎の解消を目的に使う
2. 『ガナトン』は「ドパミン」、『ガスモチン』は「セロトニン」を介して作用するため、副作用の傾向が異なる
3. 使いやすい反面、漫然と使い続けないよう注意が必要
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆適応症
ガナトン:慢性胃炎における消化器症状(腹部膨満感、上腹部痛、食欲不振、胸やけ、悪心、嘔吐)
ガスモチン:慢性胃炎に伴う消化器症状(胸やけ、悪心・嘔吐)、X線造影検査前処置の補助
◆用法
ガナトン:1日150mgを3回に分けて。食前に
ガスモチン:1日15mgを3回に分けて。食前でも食後でも可
◆錐体外路障害の発生頻度
ガナトン:0.1%未満
ガスモチン:なし
◆下痢の発生頻度
ガナトン:0.7%
ガスモチン:1.8%
◆剤型の種類
ガナトン:錠剤のみ
ガスモチン:錠剤、散
◆製造販売元
ガナトン:アステラス製薬
ガスモチン:大日本住友製薬
+αの情報①:機能性ディスペプシアに対する効果
『ガナトン』は第Ⅲ相試験で3)、『ガスモチン』は二重盲検試験で4)、それぞれ「機能性ディスペプシア」に対する有効性が示されなかったため、適応症の追加には至っていません。
3) Gut.57(6):740-6,(2008) PMID:17965059
4) Aliment Pharmacol Ther.16(5):959-67,(2002) PMID:11966505
+αの情報②:『ガスモチン』の胃食道逆流症への効果
日本人の非びらん性胃食道逆流症(NERD)に対して、『ガスモチン』をプロトンポンプ阻害薬(PPI)と併用することで上乗せ効果が得られることが報告されています5)。
このことから、PPI単独では効果不十分な場合には、『ガスモチン』の追加投与も考慮すべきとされています6)。
5) Aliment Pharmacol Ther.33(3):323-32,(2011) PMID:21118395
6) 日本消化器学会 「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 第2版」,(2015)
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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