『ビビアント』と『エビスタ』、同じ骨粗鬆症の薬の違いは?~SERMの作用と骨折予防効果の比較
記事の内容
回答:『ビビアント』は、『エビスタ』の骨折予防効果を高めた改良版
『ビビアント(一般名:バゼドキシフェン)』と『エビスタ(一般名:ラロキシフェン)』は、どちらも閉経後の骨粗鬆症に使う、同じ作用の薬です。
『ビビアント』は、『エビスタ』の骨折予防効果をより高めた改良版です。
どちらも、従来の「ホルモン補充療法」よりも安全に使えるため、閉経後の早い時期から骨粗鬆症になった人によく使います。
ただしこの場合、薬は長期に渡って使うことになるため、値段の安いジェネリック(後発)医薬品のある『エビスタ』を選ぶことも選択肢です。
回答の根拠①:『ビビアント』や『エビスタ』の共通した作用~SERMのメカニズム
女性ホルモンである「エストロゲン」は骨代謝に深く関係しているため、閉経で「エストロゲン」が減ると骨が脆くなる傾向にあります1)。
1) 日本骨粗鬆症学会 「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン (2015)」
しかし、単純に「エストロゲン」を増やす(ホルモン補充療法)と、血栓ができやすくなったり、乳癌のリスクが高まったりと、様々な問題が生じます。
そのため、安全に治療するためには、骨では「エストロゲン」を増やしながら、乳房など他の場所では「エストロゲン」を増やし過ぎない、といった複雑な作用をさせる必要があります。
この複雑な作用をするのが、『ビビアント』や『エビスタ』といった「選択的エストロゲン受容体モジュレーター(Selective Estrogen Receptor Modulator:SERM)」に分類される薬です2)。
※SERMの推定作用機序 2)
骨代謝に関係する細胞の「エストロゲン受容体」 → アゴニスト(作動薬)として作用
乳房・子宮などの細胞の「エストロゲン受容体」 → アンタゴニスト(拮抗薬)として作用
2) N Engl J Med.348(7):618-29,(2003) PMID:12584371
実際、「SERM」は乳房や子宮などに悪影響を与えずに、骨代謝を改善する効果が得られることが報告されています3)。
3) JAMA.281(23):2189-97,(1999) PMID:10376571
回答の根拠②:『ビビアント』の高い骨折予防効果
『ビビアント』は、『エビスタ』よりも椎骨(背骨)以外の骨折予防効果が44%高いとされています4)。
また、『ビビアント』は骨折リスクの高い人でより効果的で、こうした特徴は『エビスタ』にはないものです5)。
4) J Bone Miner Res.23(12):1923-34,(2008) PMID:18665787
5) Osteoporos Int.24(10):2561-9,(2013) PMID:23595562
このことから、『ビビアント』はより骨折リスクの高い人に適した薬と言えます。
回答の根拠③:ガイドラインでの評価は同じ~『エビスタ』の意義
『ビビアント』と『エビスタ』は、ガイドライン上での評価は同じです。
※「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」での評価 1)
『ビビアント』・・・骨密度【A】、椎体骨折【A】、非椎体骨折【B】、大腿骨近位部骨折【C】
『エビスタ』・・・・骨密度【A】、椎体骨折【A】、非椎体骨折【B】、大腿骨近位部骨折【C】
閉経後から薬を使い続ける場合、薬は長期間に渡って使うことになります。『ビビアント』と『エビスタ』の値段はほとんど同じですが、ジェネリック(後発)医薬品は『エビスタ』にしかありません。
そのため、経済的負担が大きい場合には、『エビスタ』のジェネリック(後発)医薬品を選ぶのも選択肢の一つです。
薬剤師としてのアドバイス:無理なく飲み続けられる薬を選ぶ
骨粗鬆症の治療は「骨折をしないこと」なので、骨折のリスクが減るまで長い期間飲み続ける必要があります。そのため、骨粗鬆症の薬は自分の生活習慣に合わせて、無理なく飲み続けられるような薬を選ぶことが重要です。
またその際、薬の効果や副作用だけでなく、値段や通院も踏まえた費用対効果の視点で考えることも大切です。
※生活習慣に合わせた骨粗鬆症の薬の選び方の例
◆『ビビアント』や『エビスタ』
→1日1回の服用で良いが、入院や寝たきりの状態など長時間体を動かさないような生活をしている場合には、血栓ができやすくなることがあるため、避ける必要がある(例:避難所での「エコノミークラス症候群」)。
◆『ボナロン(一般名:アレンドロン酸Na)』等の「ビスホスホネート製剤」
→服薬方法が複雑で、服薬実行率が低いと効果が得られないため、きちんと服薬を続けられる場合にしか使えない。
◆『エディロール(一般名:エルデカルシトール)』等の「ビタミンD3製剤」
→1日1回の服用で良いが、カルシウムの吸収が過剰になって高カルシウム血症になることがあるので、サプリメント等の摂取には注意が必要。
ポイントのまとめ
1. 『ビビアント』と『エビスタ』は、閉経後の骨粗鬆症に使う、同じ作用の薬
2. 『ビビアント』は、『エビスタ』よりも骨折リスクの高い人に適している
3. 長く飲み続けることになるため、薬の値段やジェネリック医薬品の有無も考慮する
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆適応症
ビビアント:閉経後骨粗鬆症
エビスタ:閉経後骨粗鬆症
◆登場した年
ビビアント:2010年
エビスタ:2004年
◆用法・用量
ビビアント:1日1回、20mg錠を1個
エビスタ:1日1回、60mg錠を1個
◆ガイドラインの評価
ビビアント:骨密度【A】、椎体骨折【A】、非椎体骨折【B】、大腿骨近位部骨折【C】
エビスタ:骨密度【A】、椎体骨折【A】、非椎体骨折【B】、大腿骨近位部骨折【C】
◆薬価(2016改訂時)
ビビアント:109.70(20mg錠)
エビスタ:109.20(60mg錠)
◆製造販売元
ビビアント:ファイザー
エビスタ:日本イーライリリー
+αの情報①:乳がんの治療中は、「SERM」を使えないこともある
乳がんの治療を『アリミデックス(一般名:アナストロゾール)』で行っている場合、骨粗鬆症治療に『ビビアント』や『エビスタ』などの「SERM」は使わないように注意喚起されています6)。
6) 日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン」 薬物療法CQ42
乳がんと骨粗鬆症を併発し、別の病院・薬局から薬をもらうケースも少なくありませんが、服用している薬は必ず正確に医師・薬剤師へ伝えるようにしてください。
+αの情報②:SERMは、手術前や海外旅行時に休薬が必要なことがある
『ビビアント』や『エビスタ』などの「SERM」を服用中は、薬の作用で血が固まりやすくなります7,8)。そのため、手術の前や長時間のフライトが必要な海外旅行時、あるいは大規模災害時などには、個々の状況に応じて休薬が必要となる場合があります。
7) ビビアント錠 添付文書
8) エビスタ錠 添付文書
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
申し訳ありません、ご指摘の通り『ビビアント』と『エビスタ』のmgが逆になっておりました。教えて頂きありがとうございます。
誤)『ビビアント』1錠60mg、『エビスタ』1錠20mg
正)『ビビアント』1錠20mg、『エビスタ』1錠60mg
含有量が間違ってます。