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似た薬の違い ステロイド点鼻薬

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『アラミスト』・『ナゾネックス』・『エリザス』、同じステロイド点鼻薬の違いは?~効果と副作用、使用感の比較

回答:使用感の良い『アラミスト』、全身作用が少ない『ナゾネックス』、刺激の少ない『エリザス』

 『アラミスト(一般名:フルチカゾンフランカルボン酸エステル)』、『ナゾネックス(一般名:モメタゾンフランカルボン酸エステル)』、『エリザス(一般名:デキサメタゾンシペシル酸エステル)』は、全て1日1回の噴霧で良いステロイド点鼻薬です。

 『アラミスト』は、液だれやくしゃみを起こしにくい製剤です。
 『ナゾネックス』は、全身への作用を最も少なく抑えられる製剤です。
 『エリザス』は、添加物が入っていない粉末状の製剤のため刺激が少なく、鼻の粘膜が過敏な状態でも使いやすい製剤です。

 効果に大きな違いはないため、使用感やデバイスの扱いやすさなどが重要な選択基準になります。また、子どもの場合は年齢によって使える薬と使えない薬とがあります。

回答の根拠①:効果はほとんど同じ

 『アラミスト』・『ナゾネックス』・『エリザス』はいずれも、1日1回の噴霧だけで、1日2回の噴霧が必要な『フルナーゼ(一般名:フルチカゾンプロピオン酸エステル)』と同じ効果が得られる1,2,3)ように改良された薬です。
 ガイドライン等でも「ステロイド点鼻薬」とひとくくりで扱われている4)ため、効き目に使い分けが必要なほどの大きな違いはなさそう、と言えます。

 1) アラミスト点鼻液 インタビューフォーム
 2) ナゾネックス点鼻液 インタビューフォーム

 3) エリザス点鼻粉末 インタビューフォーム
 4) 鼻アレルギー診療ガイドライン(2024)

回答の根拠②:液だれやくしゃみを起こしにくい『アラミスト』

 『アラミスト』と『ナゾネックス』は、効果は同じでも、『アラミスト』の方が苦味や液だれ、くしゃみの誘発といった不快感が少ないことから、患者満足度は高く評価されています5)。
 この使用感の良さは、有効成分の性能差というよりは、『アラミスト』の方が1回に噴霧される薬液がほぼ半分量と少ないこと、薬液のpHが中性寄りであること1,2)など、製剤的な違いが大きく影響していると考えられます。

※1回に噴霧される液体量 1,2)
アラミスト:約0.05mL(有効成分=薬液1g中に0.5mg、1回噴霧中に27.5μgから概算)
ナゾネックス:約0.1mL(有効成分=薬液1g中に0.5mg、1回噴霧中に50.0μgから概算)

※薬液のpH 2,3)
アラミスト:5.0~7.0
ナゾネックス:4.3~4.9

 5) Auris Nasus Larynx.43(3):292-7,(2016) PMID:26498699

 ステロイドの点鼻薬は、噴霧したときに刺激や匂いを感じる、噴霧の刺激でくしゃみが出る、鼻から薬液が垂れてくる、薬液が喉に流れ落ちて苦味を感じる等のトラブルがよく起こるため、使い続けられない人が多い剤型6)です。しかし、『アラミスト』であればこうした不快感を小さく抑えることができます。
 ただし、人によっては、噴霧液量が少ないことが”点鼻した感”に乏しいというデメリットになるケースもあります。

 6) Expert Opin Drug Deliv.4(6):689-701,(2007) PMID:17970670

 

回答の根拠③:「バイオアベイラビリティ」が最も小さい『ナゾネックス』

 ステロイド点鼻薬は、「抗ヒスタミン薬」よりもくしゃみ・鼻水・鼻づまりを解消する効果が高く7)、しかも目の症状に対しても同じくらい効果的8)で、さらに眠くなる副作用もないため、アレルギー性鼻炎の治療では最も頼りになる薬です。
 そのため、たとえば花粉症では、症状がひどくなってから使う”切り札”ではなく、症状の軽い初期の段階から(※初期療法)使っておくことが推奨されている薬です4)。花粉が飛んでいるシーズンを何ヶ月間も続けて使い続けるのであれば、全身に吸収されてしまうステロイドの量はできるだけ少ない方が安心です。

 7) J Allergy Clin Immunol Pract.12(12):3404-3418,(2024) PMID:39251016
 8) Am J Rhinol Allergy.31(1):19-28,(2017) PMID:28234147
 

 このとき、点鼻した薬がどれくらい全身に吸収されてしまうのか、という指標になるのが、血液中に取り込まれて利用される薬の割合を示す「バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)」です。
 ステロイド点鼻薬の「バイオアベイラビリティ」は総じて非常に低いですが、『ナゾネックス』の「バイオアベイラビリティ」は0.1%以下と最も低くなっており1,3,9)、ほとんど血液中に吸収されることはありません。そのため、『ナゾネックス』はステロイドの全身作用が最も起こりにくく、長期使用にも適した薬と言えます。

※点鼻薬のバイオアベイラビリティ 1,3,9)
アラミスト・・・・0.5%
ナゾネックス・・・0.1%以下
エリザス・・・・・14.0%

 9) MSD株式会社「ナゾネックス点鼻液に関する資料」

 

回答の根拠④:添加物不使用の粉末製剤で、刺激が少ない『エリザス』

 『エリザス』は粉末状の製剤で、保存料や防腐剤も使っていないため鼻粘膜への刺激が少ないのが特徴4)です。

※点鼻薬に使われている添加物 1,2,3)
アラミスト(液体):結晶セルロース、カルメロースNa、精製ブドウ糖、ポリソルベート80、ベンザルコニウム塩化物、エデト酸Na水和物
ナゾネックス(液体):ベンザルコニウム塩化物、ポリソルベート80、結晶セルロース・カルメロースNa、濃グリセリン、pH調節剤
エリザス(粉末):乳糖のみ

 液体状の薬では細菌が繁殖してしまう恐れがあるため、どうしても保存料や防腐剤が必要になります。
 しかし花粉症の時は、例えば空気の温度が少し変わるだけでもくしゃみが出るように、鼻の粘膜が過敏になっていることがあります。こうした状態では、点鼻薬に含まれる添加物でも刺激を感じて症状が悪化してしまう恐れがあります。
 そんなとき、乳糖以外に添加物が使われていない『エリザス』であれば、より少ない刺激で使える点鼻薬と言えます。

 

匂いや液だれが気になる場合にも”粉末”であることが活きる

 『エリザス』は粉末状の製剤のため、特に匂いや味もなく、噴霧した後に液だれが起こることもありません。他の液体状の点鼻薬ではどうしても使用感が気になる場合には良い選択肢になります。

 

回答の根拠⑤:子どもの年齢制限と噴霧回数

 『アラミスト』・『ナゾネックス』・『エリザス』では、年齢によって使える薬と使えない薬があり、噴霧する回数も異なります1,2,3)。成人と同じ噴霧回数に切り替わる年齢も異なるため、注意が必要です。

※年齢と噴霧回数
アラミスト・・・・2~15歳未満 1回1噴霧、15歳以上 1回2噴霧
ナゾネックス・・・3~12歳未満 1回1噴霧、12歳以上 1回2噴霧
エリザス・・・・・16歳以上 1回1噴霧

薬剤師としてのアドバイス:点鼻薬は、鼻の通っている時に使う

 『アラミスト』や『ナゾネックス』、『エリザス』といったステロイド点鼻薬は、1日1回の噴霧をどの時間帯にすべきか、という指定は特にありません。そのため、毎日忘れずに点鼻できるタイミングであれば、いつ点鼻しても大丈夫です。

 しかし、薬ができるだけ鼻粘膜に広く噴霧されるように、点鼻はなるべく”鼻の通っている時”に行うのが理想です。朝起きてしばらくは鼻づまりがマシな人は朝に、お風呂上がりに鼻づまりがマシな人は入浴後に、1日の中で最も鼻が通っているタイミングで使うことをお勧めします。

ポイントのまとめ

1. 『アラミスト』は、噴霧される液体量が少なく、不快感の少ない製剤
2. 『ナゾネックス』は、最もバイオアベイラビリティが低く、長期使用でも安心
3. 『エリザス』は粉末状で添加物も使われておらず刺激が少ないため、鼻の粘膜が過敏な人でも使える
4. 子どもに使う場合、年齢によって使用可否・噴霧回数がそれぞれ違うことに注意

 

添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較

◆有効成分
アラミスト:フルチカゾン フランカルボン酸エステル
ナゾネックス:モメタゾン フランカルボン酸エステル
エリザス:デキサメタゾン ペシル酸エステル

◆適応症
アラミスト:アレルギー性鼻炎
ナゾネックス:アレルギー性鼻炎
エリザス:アレルギー性鼻炎

◆薬の性状
アラミスト:液
ナゾネックス:液
エリザス:

◆使用回数
アラミスト:1日1回
ナゾネックス:1日1回
エリザス:1日1回

◆成人の使用量
アラミスト:1回2噴霧(15歳以上)
ナゾネックス:1回2噴霧(12歳以上)
エリザス:1回1噴霧(※臨床試験は16歳以上で行っている)

◆子どもの使用量
アラミスト:2~15歳未満は1回1噴霧
ナゾネックス:3~12歳未満は1回1噴霧
エリザス:なし

◆バイオアベイラビリティ
アラミスト:0.5%
ナゾネックス:0.1%以下
エリザス:14%

◆デバイス1個の総噴霧回数
アラミスト:56噴霧、120噴霧(成人の1ヵ月分)
ナゾネックス:56噴霧、112噴霧(成人の4週間分)
エリザス:28噴霧

◆添加物
アラミスト:結晶セルロース、カルメロースNa、精製ブドウ糖、ポリソルベート80、ベンザルコニウム塩化物、エデト酸Na水和物
ナゾネックス:ベンザルコニウム塩化物、ポリソルベート80、結晶セルロース・カルメロースNa、濃グリセリン、pH調節剤
エリザス:乳糖

◆非劣性を検証した薬
アラミスト:フルチカゾンプロピオン酸エステル
ナゾネックス:フルチカゾンプロピオン酸エステル
エリザス:フルチカゾンプロピオン酸エステル

◆製造販売元
アラミスト:グラクソ・スミスクライン
ナゾネックス:MSD
エリザス:日本新薬

 

+αの情報①:花粉症治療では、「ステロイド点鼻薬」が第一選択薬

 日本では、手軽に使える飲み薬の「抗ヒスタミン薬」が人気ですが、国際的にはより効果の高い「ステロイド点鼻薬」の方が第一選択薬として高く推奨されています10,11)。
 特に、飲み薬の「抗ヒスタミン薬」では十分に症状が治まらない(※特に鼻づまりの症状に困っている)、あるいは眠くなると困る場合には、「ステロイド点鼻薬」への切り替えを考えた方が良さそうです。

 10) Ann Intern Med.167(12):876-881,(2017) PMID:29181536
 11) J Allergy Clin Immunol.140(4):950-958,(2017) PMID:28602936

 

+αの情報②:点鼻薬は、「ステロイド」と「血管収縮薬」の区別に注意する

 「ステロイド」の点鼻薬は、症状がひどい時にだけ使うのではなく、症状の悪化を防ぐために症状の軽いうちから使い続けておく薬です6)。

 一方で、「血管収縮剤」の点鼻薬は、鼻づまりの症状がひどい時にだけ使う薬です。「血管収縮剤」の点鼻薬は、使い過ぎると薬が原因の「薬剤性鼻炎」を起こし、”薬を使えば使うほど鼻炎がどんどん悪化していく”という悪循環に陥るからです12)。そのため、大事なプレゼンや収録前のような、どうしても鼻づまりをすぐに解消しなければならない時に限って使います。

 12) ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec.56(3):157-60,(1994) PMID:7515487

 特に、市販薬(OTC医薬品)の点鼻薬には、この「血管収縮薬」を配合した商品が非常に多いため、気づかないうちに連用していた、ということにならないよう、成分を確認して、点鼻薬は「ステロイド(続けて使う薬)」と「血管収縮剤(続けて使ってはいけない薬)」をしっかり区別して使うようにしてください。

※点鼻で用いる「血管収縮薬」
ナファゾリン
テトラヒドロゾリン

 

+αの情報③:ステロイド点鼻薬を使っていて起こる「鼻血」は、物理的なケガかもしれない

 ステロイド点鼻薬を使っていると、鼻血が出るケースが時々あります。この鼻血には、確かにステロイドによる薬理作用も多少は影響していますが、そもそもの鼻炎によって鼻粘膜が弱っていること、さらに”点鼻薬のノズルを強く突っ込み過ぎた”という物理的なケガも大きく関係しています13)。
 鼻血がよく出る人は、点鼻の際にあまり勢いよく、奥までノズルを突っ込み過ぎないように気を付けて扱ってみてください。それだけで鼻血の副作用は大きく減らせるかもしれません。

 13) Clin Exp Allergy.52(11):1247-1263,(2022) PMID:35947495

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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