被災地での「トイレ掃除」ボランティアの重要性~”母親世代”を「エコノミークラス症候群」から守るために
5月6~10日の5日間、薬剤師として益城町総合体育館での支援活動に携わりました。この避難所でも、大勢のボランティアの方が、「トイレ掃除」に従事されていました。
しかし、ボランティアの方の大部分は「トイレを綺麗にするため」に「トイレ掃除」を行っており、そこから繋がる重要な意義に気付いておられないことがほとんどでした。
そのため薬剤師として、ボランティアの方々に「トイレ掃除」の意義・重要性について声掛けをさせて頂きました。
避難者は「汚いトイレ」を敬遠し、水を飲まなくなる
「汚いトイレ」には、誰も行きたくありません。そのため、避難所のトイレが汚いと、そんな「汚いトイレ」には行かなくて済むよう、避難者は水を飲まなくなります。
被災者はただでさえストレスや疲労によって様々な疾患リスクの高い状態にあります1)。そこに無理な水分制限が加われば脱水症状へと繋がり、その脱水症状は「エコノミークラス症候群」のリスクへと繋がっていきます2,3)。
1) JAMA.294(3):305-7,(2005) PMID:16030274
2) 静脈学.23(4):327-33,(2012) CiNii:10031128491
3) J Am Coll Cardiol.29(5):926-33,(1997) PMID:9120177
「トイレ掃除」の意義~家族生活の重要な”母親世代”を守る
熊本地震では車中泊の人も多かったことから、避難初期から「エコノミークラス症候群」が異常な頻度で起こっていましたが、その中でも特に女性の発症率が高いことが報告されていました4)。
理由は様々考えられていますが、仮設トイレの設備・使用方法などの観点から、女性の方が「汚いトイレ」に対する抵抗が大きいことが要因の一つとして考えられます。
4) 朝日新聞デジタル 2016年4月20日08時06分
「トイレが汚くても行け、水を飲め」と理想を語るのは簡単ですが、現実問題として「汚いトイレ」を敬遠し、飲む水の量を減らしてしまうのは無理もありません。そのため、避難所では「トイレ掃除」を継続して「トイレが綺麗な状態」を維持することが非常に重要です。
つまり、「トイレ掃除」は単に「トイレを綺麗にすること」だけに留まらず、特に”母親世代”の女性が「エコノミークラス症候群」になることを防ぎ、その人とその人の家族生活を守ることにも繋がっている、ということです。
地震による被害は、ある程度避けられない・仕方のない面もあります。しかし、災害を生き延びた後に避難生活で起こる「エコノミークラス症候群」は、防ぐことのできる悲劇です。苛酷な状況の中で「トイレ掃除」のボランティア活動を行われる方には、それがただ「トイレを綺麗にしている」のではなく、「被災者の家族生活を守る」こと、更なる悲劇を防ぐことに直結しているのだ、ということを是非知っておいて頂きたいと思います。
ボランティアに対する声掛けの根拠
薬剤師綱領に、「薬剤師は広く薬事衛生をつかさどる専門職としてその職能を発揮し、国民の健康増進に寄与する社会的責務を担う」とあります。
被災地の公衆衛生と、被災者の健康維持のため、ボランティアの動機付けを行うことは支援活動を行う薬剤師の重要な職務の一つと考えています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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