長く続く頑固な咳に、胃薬のPPIを処方されたのは何故?~逆流性食道炎と喘息
記事の内容
回答:「逆流性食道炎」によって咳が悪化している可能性があるから
「逆流性食道炎」によって胃酸や胃の内容物が逆流すると、喉の粘膜が傷つき、咳が悪化してしまうことがあります。
そのため、長く続く頑固な咳に対して、『ネキシウム(一般名:エソメプラゾール)』などのPPIを使う場合があります。
回答の根拠:「逆流性食道炎」は、慢性的な咳の原因の一つ
「逆流性食道炎」は、慢性的な咳の大きな原因の一つです。
そのため、咳と一緒に胸焼けを感じていたり、食後に咳が悪化する場合には、『ネキシウム』など胃酸を抑えるPPIによって治療できる場合があります1)。
1) 日本呼吸器学会 「咳嗽に関するガイドライン(第2版)」,(2012)
特に、難治性の慢性的な咳に対しては、胸焼けなどの自覚症状がなくとも、胃酸などの逆流によって喉の粘膜が過敏になっている場合もあり、PPIによる介入は妥当と考えられています2)。
2) ガイドライン外来診療「喘息」,(2016)
薬剤師としてのアドバイス:「咳止め」の薬は、あくまで対症療法
いわゆる「咳止め」の薬は対症療法でしかないため、咳が出る根本的な原因を治療しなければ、咳はいつまで経っても治まりません。
細菌感染症の場合には、抗生物質で根本治療を行いながら、必要があれば『アスベリン(一般名:チピペジン)』や『メジコン(一般名:デキストロメトルファン)』など「咳止め」の薬を併せて使います。
「逆流性食道炎」によって咳が出る場合には、「咳止め」の薬よりも、『ネキシウム』などのPPIや『ガスター(一般名:ファモチジン)』などのH2ブロッカーを使う必要があります。
喘息の場合には、ステロイドの吸入や『シングレア(一般名:モンテルカスト)』などの抗ロイコトリエン薬を使う必要があります。
特に、喘息の咳には「咳止め」の薬は効かないばかりか、「リン酸コデイン」は喘息を悪化させる恐れもあり、禁忌に指定されています。
咳が出たら「咳止め」と考える人は少なくありませんが、なかなか治らない場合には根本的な原因を突き止めるために一度病院を受診するようにしてください。
+αの情報:あくまで選択肢の一つであって、日常的に推奨されるものではない
『ネキシウム』などのPPIには胃酸の分泌を抑える作用があり、「逆流性食道炎」の治療に大きな効果を発揮しますが、直接的に咳を止めるような作用はありません。
そのため、「逆流性食道炎」が関係していないような咳には効果がありません。
実際、喘息と「逆流性食道炎」を合併している患者は多いですが、喘息患者全体にPPIを投与してもあまり効果が期待できないことが報告されています3)。
3) Arch Intern Med.171(7):620-629.doi:10.1001,(2011) PMID:21482834
このことから、喘息患者に日常的にPPIが推奨されるわけではなく、あくまで治療が難航した際の選択肢の一つとして考えられています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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