『タペンタ』と『トラマール』、同じオピオイド鎮痛薬の違いは?~除痛ラダーの位置づけ、個人差、麻薬指定の特徴
記事の内容
回答:『タペンタ』は、『トラマール』よりも強力で個人差の少ない、医療用麻薬
『タペンタ(一般名:タペンタドール)』と『トラマール(一般名:トラマドール)』は、どちらも「がん性疼痛」に使う痛み止めです。
『タペンタ』は、『トラマール』より強力で個人差も少ない痛み止めですが、「医療用麻薬」に指定されているため扱いが難しい薬です。
一方『トラマール』は麻薬には指定されておらず、また癌とは関係ない痛みに使うこともできます。
どちらも一般的な痛み止めより強力な「オピオイド鎮痛薬」で、副作用のコントロールも難しいため、他の薬では効かない場合にのみ、使われます。
回答の根拠①:鎮痛効果~「モルヒネ」換算量と、除痛ラダーの位置づけ
等鎮痛用量比は、『タペンタ』:『トラマール』:「モルヒネ」=100:150:30(mg/日)とされ1)、『タペンタ』の方が強力な鎮痛効果を持っています。
1) 日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2014年版)」
「除痛ラダー」の位置づけ
痛み止めは、「世界保健機関(WHO)」が作成した3段階の「除痛ラダー」に従って使うように示されています1)。
弱い痛みには1段階目の鎮痛薬、『ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)』や『ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)』などのNSAIDs、または『カロナール(一般名:アセトアミノフェン)』といった薬を使います。
強い痛みには3段階目の鎮痛薬、『オプソ(一般名:モルヒネ)』や『オキシコンチン(一般名:オキシコドン)』、『デュロテップ(一般名:フェンタニル)』といった強オピオイドを使います。
『トラマール』は、このちょうど中間、2段階目で使用する「弱オピオイド」に分類されています。
一方、『タペンタ』の「除痛ラダー」における明確な位置づけはされていません1)。
2段階目で使用する『トラマール』よりも強いので3段階目に該当する、という意見や、3段階目で使用する「モルヒネ」よりも弱いので2段階目に該当する、という意見があります。
痛み止めは、「患者ごとの個別的な量で(for the individual)」かつ、「その上で細かい配慮を(with attention to detail)」といった鎮痛薬5原則に基づき1)、臨機応変に使用するため、実際には『タペンタ』は2~3段階目で選択肢に挙がる薬、という扱いになっています。
回答の根拠②:個人差~代謝酵素「CYP2D6」の遺伝子多型
『トラマール』は、代謝酵素「CYP2D6」によって活性体に変換されて初めて、薬としての作用を発揮します2)。
しかし、この代謝酵素「CYP2D6」は遺伝的に強く働く人とあまり働かない人が居るため、『トラマール』の効果には個人差があります。
一方で『タペンタ』は、こうした代謝酵素による活性化は必要ないため、個人差を少なく抑えることができます3)。
2) トラマールOD錠 添付文書
3) タペンタ錠 添付文書
日本人の「CYP2D6」遺伝子多形
日本人の99%以上は、代謝酵素「CYP2D6」の働きが強いことがわかっています4)。そのため、『トラマール』の作用が弱まってしまうことはほとんど無いと考えられています。
4) Pharmacogenetics.9(5):601-5,(1999) PMID:10591540
回答の根拠③:医療用麻薬の指定~破壊や溶解への対策
『タペンタ』は日本でも麻薬指定されています3)。そのため、調剤できる薬局が限られたり、他店舗との譲渡や廃棄の方法にも様々な制限があったりと、扱いが難しいのが難点です。
特に『タペンタ』は、錠剤をハンマーで叩いても壊れない破壊強度を持っているほか、水に溶かすとゲル状になるなど、悪用や事故防止のための「改変防止技術(Tamper Resistant Formulation:TRF)」が施されています5)。
5) 鹿児島市医報 第53巻第11号,(2014)
一方、『トラマール』は、依存性も少ないことから麻薬指定されていません6)。
同様に、『トラマール』と「アセトアミノフェン」の配合剤である『トラムセット』も非麻薬のオピオイド鎮痛薬に分類されています。
6) WHO Technical Report Series 942.942:23-24,(2006) PMID:17373571
薬剤師としてのアドバイス:「医療用麻薬」に対する正しい理解を
医療用麻薬に関しては、「麻薬中毒になってしまう」、「モルヒネを使ったら寿命が縮まる」といったような誤解が少なくありません。
しかし、痛みがある場合には依存性がほとんど生じないこと、「モルヒネ」を使って痛みを和らげた方が生存期間は長くなることなど、適切に使用する限りそういった心配は無用であることがわかっています。
また、そもそも効果には個人差が大きいため、痛みが強ければ我慢せず増量しても良いことも知っておくべきです。
不必要な不安に煽られ、適切な治療が受けられない、といったことにならないよう、疑問や不安は医師・薬剤師に必ず相談の上で解消するようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『タペンタ』は除痛ラダーの2~3段階目に相当する鎮痛薬で、「医療用麻薬」に指定されている
2. 『トラマール』は除痛ラダーの2段階目に位置づけられる非麻薬の鎮痛薬で、がん性疼痛以外にも使える
3. 「医療用麻薬」は、適切に使う限り「麻薬中毒」になることはなく、寿命が縮まることもない
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆適応症
タペンタ:中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛
トラマール:非オピオイド鎮痛剤で治療困難な、疼痛を伴う各種癌と慢性疼痛
◆規制区分
タペンタ:劇薬、麻薬、処方箋医薬品
トラマール:劇薬、処方箋医薬品
◆通常の用法
タペンタ:1日2回(12時間ごと)
トラマール:1日4回(4~6時間ごと)
◆剤型
タペンタ:錠(25mg、50mg、100mg)
トラマール:OD錠(25mg、50mg)、注射液
◆製造販売元
タペンタ:ヤンセンファーマ
トラマール:日本新薬
+αの情報:除痛ラダー4段階目に相当する最強の鎮痛薬『メサペイン』
除痛ラダーの4段階目、「強オピオイド」よりも強力な鎮痛薬『メサペイン(一般名:メサドン)』が登場しています。
『メサドン』は神経が過敏になっておこる痛み「アロディニア」にも効果があり、新たな鎮痛薬の選択肢として注目されています。
ただし、まだ「モルヒネ」換算量などが確立しておらず、薬を変更する際の用量設定が難しいのが問題点です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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