なぜ『パキシル』や『ジェイゾロフト』などのSSRIは、効果が現れるまでに2週間以上もかかるの?~BDNF仮説と薬の忍容性
記事の内容
回答:諸説あるが、脳の機能が修復されるのに2週間以上の時間を要するから
抗うつ薬である『パキシル(一般名:パロキセチン)』や『ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)』などのSSRIは、飲み始めてから効果が現れるまで、2~4週間ほどかかると言われています。
その理由には諸説ありますが、主にSSRIが脳で「セロトニン」を増やし、その「セロトニン」によって脳の機能が十分に回復されるのには、2~4週間の時間が必要であるからと考えられています。
回答の根拠:BDNF仮説による説明
脳には、シナプスや神経細胞に栄養を供給する因子があります。これを、「脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)」と言います。
健康な人の脳にはBDNFがたくさんあるため、脳のシナプスや神経細胞には栄養が十分に供給されています。
ところが、うつ病患者ではこのBDNFの数が減っていることが報告されています1,2)。
1) Int J Neuropsychopharmacol.11(8):1169-1180,(2008) PMID:18752720
2) Biol Psyshiatry.64(6):527-32,(2008) PMID:18571629
このBDNFの数を増やすことが、うつ病の治療と深い関係にあることが指摘され、「BDNF仮説」として現在大きな注目を集めています。
この仮説では、SSRIがうつ病の症状に対して効果を発揮するためには、以下の3ステップを経る必要があると考えられています。
1. SSRIが薬理作用として「セロトニン」を増やす
2. 増えた「セロトニン」によって、BDNFが増える
3. 増えたBDNFによって脳への栄養供給が改善し、シナプスや神経細胞の機能が回復する
つまり、実際に効果を実感できるようになるには、脳のシナプスや神経細胞の機能が回復する3段階目まで進む必要があり、そのためには2~4週間程度の時間が必要である、ということです。
薬剤師としてのアドバイス:SSRIは、効果が現れるまでに止めてしまう人が多い
薬を飲んで血中濃度が上がると、それによって起こる吐き気などの副作用はすぐに現れます。そのため、効果が実感できる2~4週間後までは、副作用しか現れないことになります。
副作用しか現れない薬を2週間以上飲み続けることは、極めて苦痛です。実際、何らかの副作用で2週間以内に薬を中断してしまう人はかなりの数にのぼり、うつ病治療の大きな問題となっています。
どうしても無理な場合は中断し、薬を変更することも選択肢の一つですが、少しの副作用でそのたびに薬を止めていると、いつまで経っても治療が進みません。
我慢できる範囲の副作用は、しばらく耐えて薬を飲み続ける、ということも時には必要です。
その際、自分にとって最も飲み続けやすい、副作用の少ない薬を選ぶことが重要です。主治医と相談しながら、自分に合った薬を見つけて治療を進めていってほしいと思います。
+αの情報:「忍容性」という一つの基準
薬を副作用が少なく飲み続けやすいかどうかは、「忍容性」という表現で評価され、SSRIやSNRIを選ぶ際の一つの基準になっています。
副作用には個人差がありますが、『レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)』や『ジェイゾロフト』は「忍容性」が高い薬として、広く使われています3)。
※抗うつ薬の「忍容性」のランク
①『レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)』
②『ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)』
③ブプロピオン ※日本で未承認
④シタロプラム ※日本で未承認
⑤『トレドミン(一般名:ミルナシプラン)』
⑥『リフレックス、レメロン(一般名:ミルタザピン)』
⑦フルオキセチン ※日本で未承認
⑧『イフェクサー(一般名:ベンラファキシン)』
⑨『サインバルタ(一般名:デュロキセチン)』
⑩『デプロメール(一般名:フルボキサミン)』
3) Lancet.373(9665):746-758,(2009) PMID:19185342
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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