『デパス』と『ソラナックス』、同じ抗不安薬の違いは?~筋弛緩作用と不安障害への効果
記事の内容
回答:腰痛や頭痛にも使う『デパス』、パニック障害にも使う『ソラナックス』
『デパス(一般名:エチゾラム)』と『ソラナックス(一般名:アルプラゾラム)』は、どちらも「ベンゾジアゼピン系」の抗不安薬です。
『デパス』は、「抗不安作用」だけでなく「筋弛緩作用」も強力です。そのため、腰痛や肩こり・緊張型頭痛などにも使います。
『ソラナックス』は、「抗不安作用」が強力です。そのため、不安障害(パニック障害)などの治療にも使います。
このことから抗不安薬としても、神経症的な傾向が強い場合は『デパス』、パニック発作が多い場合には『ソラナックス』がよく使われます。
回答の根拠①:筋弛緩作用が強い『デパス』~腰痛や頭痛への保険適用
『デパス』は、他の「ベンゾジアゼピン系」の抗不安薬と比べ「筋弛緩作用」が強力です。そのため、不安や不眠だけでなく、筋肉が緊張して痛みを起こすような腰痛や頭痛への保険適用もあります1)。
※『デパス』の適応症(筋弛緩作用によるもの)
頸椎症・腰痛症・筋収縮性頭痛の筋緊張
1) デパス錠 添付文書
ただしその分、足元がふらついて転倒したり、誤嚥したりするリスクも高くなるため、特に高齢者へ使う場合は注意が必要です。
回答の根拠②:抗不安作用が強い『ソラナックス』~パニック障害への効果
『ソラナックス』は「抗不安作用」が強力で、特に「パニック障害」の諸症状に有効であることが報告されています2,3)。
2) Psychol Med.21(4):991-8,(1991) PMID:1685792
3) J Clin Psychopharmacol.31(5):647-52,(2011) PMID:21869686
海外では『ソラナックス』に「パニック障害」の適応がある国もあります4)。
そのため、日本でもパニック発作が強い場合などに使われることが多いですが、日本の『ソラナックス』に「パニック障害」に対する保険適用はないことに注意が必要です4)。
4) ソラナックス錠 インタビューフォーム
『ソラナックス』と「パニック障害」
「パニック障害」の治療は、『ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)』や『パキシル(一般名:パロキセチン)』など、保険適用のあるSSRIを使うのが基本です。
しかし、SSRIでの治療効果も4~7割程度とまだ十分ではないこと5)、また『ソラナックス』などの「ベンゾジアゼピン系」の抗不安薬はSSRIに無い即効性が期待できることなどから、特に治療初期にはSSRIと併用することも推奨されています6)。
5) Depress Anxiety. 2007;24(1):1-14,(2007) PMID:16894619
6) 医学書院 「パニック障害ハンドブック-治療ガイドラインと診療の実際」,(2008)
ただし、「ベンゾジアゼピン系」の抗不安薬は徐々に減らし、初期を過ぎればSSRIだけで治療できるようにする必要があります。
薬剤師としてのアドバイス①:不安や不眠の症状は、できるだけ具体的に伝えよう
『デパス』や『ソラナックス』などの「ベンゾジアゼピン系」の薬には、すべて「抗不安作用」・「催眠作用」・「筋弛緩作用」がありますが、これらの作用にはメリットとデメリットの両方があります。
「抗不安作用」や「催眠作用」が強力であれば、それだけ不安や不眠の症状によく効きますが、その分、ぼんやりしたり日中に眠くなったりといった副作用が出やすくなります。
「筋弛緩作用」が強力であれば、筋肉の緊張が原因で起こる痛みを和らげることもできますが、その分、足元がふらついて転倒したり、誤嚥したりするリスクになります。
そのため、同じ不安や不眠・緊張であっても、どの症状が最も強く生活の支障になっているのか、個々の症状に合わせて、薬を選ぶ必要があります。
主治医に症状を伝える際は、自分に合った薬を選んでもらえるよう、できるだけ「何に困っているのか」を具体的に伝えるようにしてください。
薬剤師としてのアドバイス②:頓服薬は、使用状況も正確に伝える
『デパス』や『ソラナックス』は頓服薬としても使うことの多い薬です。しかし、あまり頻繁に使っていると依存などを起こす恐れがあります。
頓服として使っている場合には、「どんなタイミング(外出中や寝る前など)」、「どのくらいの量」を使っているのか、という使用状況を正確に伝えることで、今後の治療方針もより適切に立てることができます。
特に、こうした使用状況を踏まえて、頓服薬の使用回数を減らしていく「行動療法的なアプローチ」は、薬無しでも問題なく生活できるという治療の最終目標を達成するためにも、極めて重要です。
受診前にメモに記録しておくなどして、薬の使用状況も忘れず正確に伝えるようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『デパス』は筋弛緩作用が強く、神経症的な不安や、腰痛や肩こり・頭痛に使う
2. 『ソラナックス』は抗不安作用が強く、パニック発作が多い不安や、「パニック障害」の治療にも使う
3. 頓服薬として使っている場合は、使用状況をメモなどで正確に伝えることが大切
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆主な適応症
デパス:不安・緊張・抑うつ・睡眠障害、頚椎症・腰痛症・筋収縮性頭痛の筋緊張
ソラナックス:不安・緊張・抑うつ・睡眠障害
◆用法
デパス:通常1日3回、睡眠障害には1日1回就寝前
ソラナックス:通常1日3~4回
◆作用時間による分類
デパス:短時間型(半減期6.2時間)
ソラナックス:中時間型(半減期14時間)
◆剤型
デパス:錠(0.25mg、0.5mg、1mg)、細粒(1%)
ソラナックス:錠(0.4mg、0.8mg)
◆製造販売元
デパス:田辺三菱製薬
ソラナックス:ファイザー
+αの情報:ベンゾジアゼピン系の「抗不安薬」と「睡眠薬」
「ベンゾジアゼピン系」の薬は「抗不安作用」が強いものを抗不安薬、「催眠作用」が強いものを睡眠薬として使います。作用そのものに違いはありません。
ただし睡眠薬として使う場合は、寝付きの悪い「入眠障害」には短時間型、途中で目が覚めてしまう「中途覚醒」には中~長時間型の睡眠薬と、作用の時間によって明確に使い分ける必要があります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
この記事へのコメントはありません。