『バイアスピリン』を服用中に、痛み止めの『バファリン』を使っても大丈夫?~アスピリンジレンマのメカニズム
記事の内容
回答:敢えて選ぶメリットは少ない
血液をサラサラにする抗血小板薬の『バイアスピリン(一般名:アスピリン)』と、痛み止めの『バファリン(一般名:アスピリン)』は、どちらも成分は「アスピリン」で同じ薬です。
「アスピリン」は、使う量によって抗血小板薬なのか解熱鎮痛薬なのかが変わる不思議な薬です。そのため、血液をサラサラにすることを目的に「アスピリン」を飲んでいる人が、同じ「アスピリン」を痛み止めとして追加すると、薬の効果が変わってしまう可能性があります。
実際にはそこまで大きな影響はないとする報告もありますが、市販薬なども含めて成分が重複して過量摂取になりやすいため、注意が必要です。
回答の根拠①:「アスピリン」は使う量によって効果が変わる
「アスピリン」は低用量で使うと血液をサラサラにする抗血小板作用が発揮されますが、使う量を増やすと抗血小板作用は失われて解熱・鎮痛作用が発揮されるようになります。
実際、『バファリン』は用量によって適応症も全く異なり、81mgの錠剤と330mgの錠剤は全く別の薬として扱われています1,2)。
『バファリンA81』(抗血小板薬)の適応症
血栓・塞栓形成の抑制(狭心症・心筋梗塞・脳血性脳血管障害など)
『バファリンA330』(解熱鎮痛薬)の適応量
頭痛、歯痛、月経痛、感冒の解熱、関節リウマチなど
1) バファリンA81錠 添付文書
2) バファリンA330錠 添付文書
通常、同じ成分の薬を重ねて飲まない方が良いのは、薬の量が多くなり過ぎて副作用を起こすリスクが高まるからです。しかし「アスピリン」の場合、量を増やすと薬の作用自体が変わってしまう可能性がある、ということです。
アスピリンジレンマ~使う量によって変わるアスピリンの薬理作用
「アスピリン」は、抗血小板作用を発揮する「トロンボキサン(TXA2)」の合成阻害と、抗血小板作用を妨害する「プロスタグランジン(PGI2)」の合成阻害という、正反対の薬理作用を併せ持っています。
「アスピリン」を低用量で使用した場合、「TXA2」の合成を主に阻害するため、血液をサラサラにする抗血小板作用が発揮されます。
しかし「アスピリン」の量を増やしていくと、「PGI2」の合成も阻害するようになり、抗血小板作用が妨害されます。その結果、抗血小板作用が打ち消されてしまうことになります。
このように、低用量の「アスピリン」では抗血小板作用が得られるのに、高用量の「アスピリン」では抗血小板作用が得られなくなってしまう現象を「アスピリン・ジレンマ」と呼びます。
回答の根拠②:臨床上は、そこまで大きな影響はないかもしれない
こうした「アスピリン・ジレンマ」ですが、実臨床の場ではそこまで大きな問題にはならない可能性があります。実際、「アスピリン」は75mg~1,500mgの範囲内であれば、心血管イベントの抑制効果に差はないという報告もあります3)。
3) BMJ.324(7329):71-86,(2002) PMID:11786451
4) Circulation.132(3):174-81,(2015) PMID:25995313
しかし、用量が増えれば出血リスクが高まること4)、また「アスピリン」は他のNSAIDsに比べると鎮痛効果はやや弱めである5)ことから、「アスピリン」を抗血小板薬として服用している際に、敢えてこの薬を追加する痛み止めとして選ぶメリットは少ないと思われます。
5) J Oral Surg.35(11):898-903,(1977) PMID:269932
薬剤師としてのアドバイス:『バイアスピリン』や『バファリン』を飲んでいる人は、痛み止めや風邪薬の選び方にも要注意
「アスピリン」が含まれる薬は、痛み止めや風邪薬の市販薬にもたくさんあります。そのため、気付かないうちに服用している「アスピリン」の量が増え、過量摂取になってしまうことがあります。
血液をサラサラにする目的で『バイアスピリン』や『バファリン』を服用している人は、病院を受診する際やドラッグストアで薬を購入する際に、お薬手帳などを使って必ずその旨を医師・薬剤師に伝えるようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 「アスピリン」は、低用量で抗血小板薬、高用量で解熱鎮痛薬として使う
2. 「アスピリン」の抗血小板作用は、1,500mgまでは発揮されている可能性がある
3. 市販薬も含めて「アスピリン」の重複は起こりやすいため、要注意
+αの情報:『ロキソニン』など他のNSAIDsでも同じ現象は起こるのか?
『カロナール(一般名:アセトアミノフェン)』やCOX-2選択的阻害薬は「アスピリン」の効果に影響しない一方、『ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)』や『ブルフェン(一般名:イブプロフェン)』では「アスピリン」の心保護効果を弱めてしまう可能性が示唆されています6,7)。
なお、『ロキソニン』の場合は「アスピリン」服用から2時間の間隔を空けることで、この相互作用を回避できる可能性も示されています7)。
6) N Engl J Med.345(25):1809-17,(2001) PMID:11752357
7) 医療薬学.37(2):69-77,(2011) J-Stage
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
【加筆修正】
「アスピリン・ジレンマ」の理論上の性質と、実臨床で報告されている影響とを区別して記載しました。