誤嚥性肺炎の予防に、漢方薬の『半夏厚朴湯』や『六君子湯』が効く?
記事の内容
回答:漢方薬が体質に合えば効く
「誤嚥性肺炎」は、主に2つの大きな原因があります。
1.嚥下反射や咳反射が弱くなり、食事や唾液が誤って肺に入ってしまう
2.胃の動きが弱くなり、内容物や胃酸が逆流して肺に入ってしまう
『半夏厚朴湯』は、嚥下反射や咳反射を改善する効果があります。
『六君子湯』は、胃の動きを改善し、内容物や胃酸の逆流を減らす効果があります。
これらの効果によって、「誤嚥性肺炎」のリスクを減らすことができます。
高齢者は既に様々な薬を服用しているケースも多く、飲み合わせなどの問題から「誤嚥性肺炎」の予防は後回しにされることも少なくありません。
飲み合わせに問題がなく、目立った副作用も少ない漢方薬で治療できることは、非常に大きな意味があります。
回答の根拠①:『半夏厚朴湯』の効果
『半夏厚朴湯』は、気分が沈んで胸につまった感じがする際によく用いられる漢方薬です。
脳血管障害、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病の高齢者を対象にした臨床研究で、この『半夏厚朴湯』が誤嚥性肺炎の予防や、肺炎による死亡リスクを軽減することが確認されています1)。これは、『半夏厚朴湯』の作用によって嚥下反射や咳反射が改善し、気管や肺に異物が入ることを防ぐためと考えられています2)。
1) J Am Geriatr Soc.55(12):2035-40,(2007) PMID:17944889
2) 漢方医学 「誤嚥性肺炎と半夏厚朴湯」 33:38-39,(2009)
嚥下反射や咳反射に対する薬物療法
嚥下反射や咳反射に問題があると、食事や唾液が誤って肺に入り込みやすくなり、「誤嚥性肺炎」を起こす恐れも高くなります。
その場合は患者の病歴に合わせて、降圧薬の「ACE阻害薬」3)、パーキンソン病治療薬の『シンメトレル(一般名:アマンタジン)』4)、抗血小板薬の『プレタール(一般名:シロスタゾール)』5)などを使うのが一般的です。
3) ライフサイエンス社 「Geriatric Medicine(老年医学)」.39(2):231-237,(2001)
4) 日本呼吸器学会 「呼吸器感染症に関するガイドライン」 (2009)
5) J Am Geriatr Soc.56(6):1153-4,(2008) PMID:18554369
しかし、高齢者の場合には副作用や飲み合わせの問題が生じるケースも少なくありません。
そのため、副作用や飲み合わせの問題が少ない漢方薬であれば、治療の幅も大きく広がります。
回答の根拠②:『六君子湯』の効果
『六君子湯』は、胃腸が弱って食欲もなく、みぞおちにつかえを感じる際によく用いられる漢方薬です。胃腸の動きが弱ると胃の内容物が逆流しやすくなり、「逆流性食道炎」や、逆流した内容物が気管に入って「誤嚥性肺炎」などを起こすようになります。
『六君子湯』は、胃腸の動きを改善することで、胃や食道の逆流症を改善する効果があります6)。この効果によって、逆流症による「誤嚥性肺炎」を予防できると考えられています。
6) 「胃食道逆流症に対する六君子湯の有用性」 Medical Science Digest(1347-4340)33巻3号:748-752,(2007)
逆流症に対する薬物療法
胃の内容物や胃酸が逆流する症状に対しては、通常は「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」や「H2ブロッカー」などの胃薬を使います。
ただし、PPIは保険適用上、長期で続けて処方ができません。また、高齢者に対するH2ブロッカーの長期使用は、認知機能に悪影響を与える恐れがあるとして、使用が推奨されていません。
そのため、長期使用でも大きな問題が起こりにくい漢方薬で治療であれば、治療の幅も大きく広がります。
薬剤師としてのアドバイス:高齢者のオーラルケアは重要
口の中の雑菌が増えると、誤嚥した時に肺に入ってしまう雑菌も増えます。当然、肺に入る雑菌の量が増えると、肺炎を起こしやすくなります。
健康な高齢者であっても、唾液の分泌が減ったり、舌の動きが弱まったりして、口の中の雑菌は増えてしまう傾向にあります。
そのため漢方薬を含め、薬で誤嚥のリスクを減らす治療を行うと同時に、オーラルケアを適切に行い、万が一誤嚥してしまっても、大量の雑菌が肺に入り込まないよう、日頃から口の中を清潔に保っておくことも重要です。
実際、適切なオーラルケアを毎日行うことで、要介護高齢者の肺炎発症を40%近く減らすことができたとする研究もあります7)。
7) Lancet.354(9177):515,(1999) PMID:10465203
肺炎は一度起こしてしまうと治療が難しいため、誤嚥しないようにする「リスク回避」と、万が一誤嚥しても重症化しないようにする「リスク管理」の、両面から対策をとっておくことが大切です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
この記事へのコメントはありません。