『サワシリン』・『クラリス』・『クラビット』、同じ抗生物質の違いは?~抗菌スペクトルと使い分け、用法の差
記事の内容
回答:退治できる細菌の種類が違う
『サワシリン(一般名:アモキシシリン)』・『クラリス(一般名:クラリリスロマイシン)』・『クラビット(一般名:レボフロキサシン)』は、いずれも細菌を退治する抗生物質(抗菌薬)ですが、効果のある細菌が異なります。
1つの抗生物質で、全ての細菌を退治できるわけではありません。薬によって退治できる細菌・できない細菌があります。そのため、感染症の原因となっている細菌の種類によって、抗生物質も明確に使い分ける必要があります。
また、抗生物質の種類によって効果的な飲み方が違うため、必ず指示された用法・用量を守って使うようにしてください。
回答の根拠①:抗菌スペクトル~薬と細菌の相性
抗生物質には様々な種類のものがありますが、作用のメカニズムは大きく分けて以下の4つに分類されます。
※抗菌薬の作用機序による分類
1.細菌の細胞壁合成を阻害するもの(βラクタム系・グリコペプチド系・ホスホマイシン系)
2.細菌のタンパク合成を阻害するもの(アミノグリコシド系・マクロライド系・テトラサイクリン系・リンコマイシン系など)
3.細菌のDNA・RNA合成を阻害するもの(キノロン系・リファンピシン・スルファメトキサゾール・トリメトプリム)
4.細菌の細胞膜を障害するもの(ポリペプチド系など)
「細菌」の種類は、現在確認されているだけでも6,800種以上、非常に様々なタイプの細菌が存在しています。1つの抗生物質が、これら全ての種の細菌に対して抗菌作用を発揮するわけではありません。
例えば、細胞壁合成を阻害して抗菌作用を発揮するβラクタム系(ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系)の抗生物質は、厚い細胞壁を持つ「グラム陽性菌」には効果的ですが、元から細胞壁が無い「マイコプラズマ属」の細菌には効果がありません。
このように薬の作用と細菌の特徴には「相性」があります。この「相性」を「抗菌スペクトル」と呼びます。
薬によって違う抗菌スペクトルの例
『サワシリン』(ペニシリン系(βラクタム系) 作用:細胞壁合成阻害)
効果がある:肺炎球菌、レンサ球菌、インフルエンザ菌、ヘリコバクター・ピロリ菌など
効果がない:百日咳菌、マイコプラズマ属、レジオネラ属など
『クラリス』(マクロライド系 作用:タンパク合成阻害)
効果がある:肺炎球菌、レンサ球菌、百日咳菌、マイコプラズマ属など
効果がない:大腸菌、サルモネラ菌、コレラ菌など
『クラビット』(ニューキノロン系 作用:DNA合成阻害)
効果がある:肺炎球菌、レンサ球菌、赤痢菌、コレラ菌、レジオネラ属、クレブシエラ属など
効果がない:百日咳菌、ジフテリア菌など
そのため、肺炎球菌やインフルエンザ菌が主な原因である中耳炎や副鼻腔炎には『サワシリン』、百日咳菌やマイコプラズマ属が原因の呼吸器感染症には『クラリス』、レジオネラ属やクレブシエラ属が原因の肺炎には『クラビット』、といったような使い分けを行います1)。
1) 日本感染症学会 「JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2014」
また、状況によっては複数の異なる特徴を持つ細菌をターゲットに、抗菌スペクトルの違う抗生物質を併用することもあります。
回答の根拠②:効果的な飲み方の違い
抗生物質はその種類によって、最も効果的な服用方法が異なります。
『サワシリン』などのβラクタム系の抗生物質は、時間依存性に抗菌力を発揮します。
つまり、できるだけ長い時間、一定の濃度(最小発育阻止濃度:MIC)以上の薬物血中濃度を維持した方が効果的です。そのため、通常は1日3~4回、1日量をできるだけ複数回に分けて服用します2)。
※時間依存性(time above MIC依存的)抗菌薬
『サワシリン』などのペニシリン系
『フロモックス(一般名:セフカペン)』などのセフェム系
『オラペネム(一般名:テビペネム)』などのカルバペネム系
『クラビット』などのニューキノロン系の抗生物質は、濃度依存性に抗菌力を発揮します。
つまり、安全な範囲内でできるだけ薬物血中濃度を高めた方が効果的です。そのため、通常は1日1回、1日量を1回にまとめて服用します3)。
※濃度依存性の抗菌薬
『クラビット』・『ジェニナック(一般名:ガレノキサシン)』などのニューキノロン系
『ハベカシン(一般名:アルベカシン)』などのアミノグリコシド系
2) サワシリン錠 添付文書
3) クラビット錠 添付文書
そのため、用法を守らずに抗生物質を使うと抗菌力が弱まり、感染症の治療ができないだけでなく、薬の効かない「耐性菌」を生む原因にもなります。
薬剤師としてのアドバイス:抗生物質は処方された時に必ず飲み切り、残さない
症状が良くなったら、そこで抗生物質を止めてしまう人は少なくありません。しかし、こうした中途半端な使い方では効果がないばかりか、細菌に「耐性」を与えるためのトレーニングをしているようなもので、非常に危険です。
「次の時のため」と、残った抗生物質を置いておく人も少なくありません。しかし、似た症状の感染症であっても、原因の菌が異なれば使うべき抗生物質も変わります。前回と同じ抗生物質が適しているとは限りません。
このように、抗生物質は使い方が非常に難しく、自己判断で調節したり選んだりして使える薬ではありません(※そのため市販もされていません)。抗生物質を処方された時には、症状が治まってきても必ず最後まで飲み切るようにしてください。
ただし、脱水症状を起こす恐れのある酷い下痢をしている場合や、便に血液や粘液が混じっているといった場合には一旦飲むのを止め、主治医に連絡するようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 抗生物質と細菌には相性(抗菌スペクトル)があり、感染症の原因菌によって使い分ける
2. 抗生物質の種類によって、1日量を複数回に分けた方が良いか、1回にまとめた方が良いかは異なる
3. 処方された抗生物質は、決められた用法で、症状が治まっても最後まで飲み切る
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆抗生物質(抗菌薬)の系統と作用機序
サワシリン:ペニシリン系、細胞壁合成阻害
クラリス:マクロライド系、タンパク合成阻害
クラビット:ニューキノロン系、DNA合成阻害
◆通常の用法
サワシリン:1日3~4回
クラリス:1日2回
クラビット:1日1回
◆小児への使用
サワシリン:する
クラリス:する
クラビット:不可
◆剤型の種類
サワシリン:錠(250mg)、カプセル(125mg、250mg)、細粒
クラリス:錠(50mg、200mg)、ドライシロップ小児用
クラビット:錠(250mg、500mg)、細粒、点滴静注バッグ、点眼液(0.5%、1.5%)
◆製造販売元
サワシリン:アステラス製薬
クラリス:大正製薬
クラビット:第一三共
+αの情報①:「細菌」と「ウイルス」は全くの別物
「抗生物質」は、「細菌」を退治する薬です。「ウイルス」には全く効果がありません。
季節性のインフルエンザやヘルペスなどは「ウイルス」が原因で起こる感染症のため、「抗生物質」では治療できません。
また、いわゆる「風邪(風邪症候群)」も、ほとんどは「ウイルス」が原因の感染症であることにも注意が必要です。
+αの情報②:「抗生物質」と「抗菌薬」
「抗生物質」は、細菌を退治したり増殖を抑えたりする物質のうち、細菌そのものが作り出した物質(ペニシリンなど)のことを指します。
現在使われている薬は化学合成で作られているため、厳密には「抗菌薬」が正しい表現です。
医師・薬剤師などの専門家が「抗菌薬」という表現を使うのは、このためです。ただし、本Q&Aでは一般的な知名度を考慮して「抗生物質」と表記しています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
書籍、ブログともにお世話になっております。
僭越ながら、文字の打ち間違えでは、と思う箇所がありましたのでご連絡いたします。
『回答:退治できる細菌の種類が違う』の項に
『クラリス(一般名:クラリシッド)』
とありますが一般名:クラリスロマイシンをアボット社の商品名クラリシッドと打ち間違えておられませんでしょうか?
ご指摘ありがとうございます、打ち間違いでしたので修正いたしましたm(__)m