漢方薬を2種類併用しても大丈夫?~「甘草」の1日量と「偽アルドステロン症」の副作用
記事の内容
回答:「甘草」や「麻黄」の総量には注意して使う
基本的に、漢方薬同士の飲み合わによって大きな副作用を起こすことはありません。
しかし、漢方薬は色々な生薬が配合されているため、併用によって重複する生薬があると、その生薬による副作用を起こしやすくなります。
そのため、「甘草(カンゾウ)」や「麻黄(マオウ)」・「大黄(ダイオウ)」・「附子(ブシ)」など作用の強い生薬が重複し、総量が多くなる場合には注意が必要です。
特に、「甘草」は1日量が5g程度を超えたまま、長期に渡って飲み続けることがないよう注意し、必要に応じて服用量・回数を減らすなどの対応をする必要があります。
回答の根拠①:「甘草」の1日量と、「偽アルドステロン症」
「甘草」に含まれる「グリチルリチン」には、血液中のカリウム(K)を排泄し、ナトリウム(Na)や水分を体内に溜め込む作用があります。
そのため、過量摂取すると低K血症やむくみ・高血圧・手足の痺れなど、「偽アルドステロン症」と呼ばれる副作用を起こす恐れがあります1)。
1) JAMA.205(7):492-6,(1968) PMID:5695305
そのため、「甘草」として1日5g、「グリチルリチン」として1日200mgが上限の目安として設定されています2)。
2) 厚生労働省 薬発第158号「グリチルリチン酸等を含有する医薬品の取扱いについて」
※この医薬品の含有量制限は、平成28年4月に廃止されています(薬生発0307第3号)
『芍薬甘草湯』などの例外的な漢方処方
『芍薬甘草湯』や『甘草湯』など、「甘草」が1日6g以上含まれている漢方薬もあります。これらの漢方薬は、使用期間がごく短い期間に限られるために、例外的に認められているものです2)。
そのため添付文書上の注意事項にも、治療上必要な最小限の期間の投与にとどめること、と記載されています3)。
3) ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用) 添付文書
回答の根拠②:個人差の大きい、「グリチルリチン」の作用
「グリチルリチン」による作用には、大きな個人差があります。
これには、「グリチルリチン」が腸内細菌に利用されてから吸収される「配糖体」であることが関係しています。
腸内細菌の種類や数(腸内フローラ)は人によって様々に異なるため、「配糖体」の吸収されやすさも人によって大きく異なることになります。
そのため、「甘草」を10g以上服用しても何ともない人も居れば、1~2g程度でも副作用を起こす人も居ます。
こうした点から、「甘草」や「グリチルリチン」の1日の上限量はあくまで目安として扱われ、副作用のリスクや傾向がある場合には服用量にこだわらず、定期的に血清K値を確認するなどの対応を行います4)。
4) 南江堂 「今日の治療薬(2016年版)」
薬剤師としてのアドバイス①:「麻黄」や「附子」などの重複にも注意
「甘草」に限らず、過量摂取で副作用を起こす生薬は多数あります。
漢方薬が安全性の高い薬であることに間違いはありませんが、副作用が全く存在しないわけではありません。そのため、2種類以上を併用する場合には、特定の生薬が過量にならないよう、含有量に注意しながら使う必要があります。
※過量になると副作用を起こしやすい生薬の例
1.交感神経を刺激する「エフェドリン」を含む「麻黄(マオウ)」
→動機や不眠などの副作用が出やすくなります。
2.下剤として働く「センノシド」を含む「大黄(ダイオウ)」
→薬が効き過ぎて下痢しやすくなります。
3.強心剤として作用する「アコニチン」を含む「附子(ブシ)」
→心臓の働きを妨げ、不整脈や発作の原因になります。
薬剤師としてのアドバイス②:服用回数を減らして併用することも
漢方薬には、各生薬を100%処方した「満量処方」の他に、各生薬の量を4分の3に減らした「3/4処方」や、3分の2に減らした「2/3処方」など、様々な処方があります。
これはつまり、漢方薬では昔から副作用を回避するため、薬の総量を減らすという方法がとられてきたことを意味しています。
こういった点から、特に2種類以上の漢方薬を併用する場合には、それぞれの漢方薬の服用回数を1日2回に減らすなどの対応をすることがあります。
+αの情報:「甘草」の量が多い漢方処方
「甘草」は他の生薬と組み合わせることで様々な薬効を発揮します。そのため、多くの漢方薬に使われています。
特に、子どもにもよく使われる『葛根湯』や『麦門冬湯』、『麻杏甘石湯』にも「甘草」が含まれています。漢方薬だから大丈夫と過信せず、お薬手帳などを使って確実に医師・薬剤師に伝えるようにしてください。
※単独でも「甘草」が1日5gを超える漢方薬の例 4)
『甘草湯』・・・・・・・8.0g
『芍薬甘草湯』・・・・・6.0g
『甘麦大棗湯』・・・・・5.0g
『芍薬甘草附子湯』・・・5.0g
※組み合わせによっては「甘草」が1日5gを超える可能性がある漢方薬の例 4)
『黄芩湯』・・・・・・・3.0g
『黄連湯』・・・・・・・3.0g
『桔梗湯』・・・・・・・3.0g
『桂枝人参湯』・・・・・3.0g
『五淋散』・・・・・・・3.0g
『小青竜湯』・・・・・・3.0g
『人参湯』・・・・・・・3.0g
『排膿散及湯』・・・・・3.0g
『附子理中湯』・・・・・3.0g
『葛根湯』・・・・・・・2.0g
『桂枝加芍薬湯』・・・・2.0g
『柴胡桂枝湯』・・・・・2.0g
『柴朴湯』・・・・・・・2.0g
『小建中湯』・・・・・・2.0g
『小柴胡湯』・・・・・・2.0g
『麦門冬湯』・・・・・・2.0g
『麻杏甘石湯』・・・・・2.0g
『苓桂朮甘湯』・・・・・2.0g
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
【修正】
薬剤師としてのアドバイス①の部分、「センノシド」を含む「附子(ブシ)」となっておりましたが、「センノシド」を含む「大黄(ダイオウ)」に修正しました。