『ワーファリン』服用中に納豆がダメなのは何故?~ビタミンKの作用と、新薬との違い、グレープフルーツやネバネバ食品に対する誤解
記事の内容
回答:納豆の「ビタミンK」が『ワーファリン』の効果を弱めるから
納豆に含まれる「ビタミンK」は、『ワーファリン(一般名:ワルファリン)』の効果を弱めてしまう作用があります。
『ワーファリン』の効果が弱まると血液が固まりやすくなり、血管が詰まってしまうリスクが高くなります。
そのため、納豆に限らず、青汁やクロレラなど「ビタミンK」が豊富に含まれている食品は控える必要があります。
回答の根拠:「ビタミンK」の生理活性と、『ワーファリン』の薬理作用
血液には、血液を固まらせる「血液凝固因子」が存在しています。この「血液凝固因子」は、「ビタミンK」によって肝臓で合成されています。
『ワーファリン』は、この「ビタミンK」に拮抗することで「血液凝固因子」の合成を減らし、血液を固まりにくくする効果があります1)。
1) ワーファリン錠 添付文書
そのため、食事などによって大量の「ビタミンK」を摂取してしまうと、「血液凝固因子」の合成が増え、血液が固まりやすくなってしまいます。
実際、納豆100g(通常の2パック程度)の摂取によって、10%程度で安定していた「トロンボテスト」値が80~90%にまで上昇し、その後少なくとも3日間は40%近くに留まることが報告されています2)。
2) Artery.17(4):189-201,(1990) PMID:2360879
健康な人は「ビタミンK」を摂取しても問題ない
血栓塞栓症を一度起こした人は、『ワーファリン』を服用することによって、健康な人よりも血液をより固まりにくい状態に維持しなければなりません。
そのため、『ワーファリン』の効果を弱める「ビタミンK」の摂取は控える必要があります。
※PT-INR値の一般的な基準(血液のサラサラ度合を示す指標) 3)
健康な人・・・1.0
『ワーファリン』服用中の目安・・・1.6~3.0
『ワーファリン』服用中の高齢者の目安・・・1.6~2.6
3) Circ J.77(9):2264-70,(2013) PMID:23708863
一方、健康な人は『ワーファリン』を服用しないため、「ビタミンK」の摂取によって血液が固まりやすくなることはありません。むしろ、「ビタミンK」が欠乏すると出血が起こりやすくなる恐れがあるため、適切な摂取が必要です。
詳しい回答:『ワーファリン』に対する、数ある誤解
『ワーファリン』と納豆はダメ、という注意は広く認識されていますが、それと同時に誤った認識も広まってしまっています。
新しい薬でも納豆は食べられない?
「ビタミンK」との相互作用は『ワーファリン』特有のもので、『プラザキサ(一般名:ダビガトラン)』や『イグザレルト(一般名:リバーロキサバン)』等の新しい「抗凝固薬」では起こりません。
血液をサラサラにする薬は、全部ダメ?
血液をサラサラにする薬には「抗凝固薬」と「抗血小板薬」の2種類があります。この2種類の薬は全く異なる薬で、明確な使い分けをします。
『バイアスピリン(一般名:アスピリン)』や『プラビックス(一般名:クロピドグレル)』などの「抗血小板薬」では、こうした相互作用は起こりません。
グレープフルーツジュースもダメ?
「グレープフルーツジュース」がダメと言われるのは「Ca拮抗薬」に分類される血圧の薬であって、『ワーファリン』ではありません。
納豆みたいなネバネバした食品は全てダメ?
ネバネバした食品がダメなのではなく、あくまで注意すべきは「ビタミンK」の含有量です。ネバネバしているかどうかは、判断基準にはなりません。
ネバネバしていようがいまいが、「ビタミンK」を豊富に含む可能性のある食品・サプリメント等は避ける必要があります。
ビタミンKを含む緑黄色野菜も全てダメ?
緑黄色野菜にも「ビタミンK」が含まれているため、必要以上の大量摂取は避けるべきです。
しかし、あまりに野菜を制限し過ぎると栄養が偏り、かえって健康を害する恐れもあります。そのため、バランスの良い食事を心がける必要があります。
ただし、最近は特殊な外来性の野菜なども出回っているため、個々の食品に含まれる「ビタミンK」は必ず確認するようにしてください。
時間をずらして飲んだら大丈夫?
先述のように、納豆を食べることによる『ワーファリン』の効果減弱は、少なくとも3日は続きます。
そのため、『ワーファリン』を朝に服用するので、納豆は夜食べる、という方法は全く解決策になりません。時間をずらしても、ダメです。
ワーファリンを飲む量を減らせば大丈夫?
これらの相互作用は、『ワーファリン』を飲む量を減らせば回避できるものではありません。むしろ、薬を減らすと更に血が固まりやすくなってしまいます。
かと言って、勝手に薬を増やすと、今度は出血を起こしやすくなります。
『ワーファリン』の服用量は、PT-INR値によって厳密に用量を調節します。絶対に自己判断で飲む量を変えないようにしてください。
薬剤師としてのアドバイス①:「思い込み」での食事制限は止める
『ワーファリン』と納豆がダメ、という注意は広く認識されていますが、それと同時に誤った思い込みによって、誤った食事制限をされている方も少なくありません。
緑黄色野菜やネバネバした食品は全てダメ、『ワーファリン』の量を減らせば大丈夫、などの誤った思い込みによって、極端な食事制限をしたり、薬の量を勝手に変えることは、非常に危険です。
自分の認識が正しいのかどうか、きちんと医師・薬剤師などの専門家に相談して確かめるようにしてください。
薬剤師としてのアドバイス②:急に食事内容を変えない
これまで、知らずに納豆を定期的に食べていた人が納豆を急に中止すると、『ワーファリン』の効果が強まる恐れがあります。
そのため、食事内容は急に変えるのではなく、その前に主治医に相談するようにしてください。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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