予防接種をしていても、インフルエンザに罹ってしまうのは何故?
回答:予防接種では、バリア能力は得られないから
確かに予防接種によって、結果的に発症そのものを防ぐことができるケースもあります。ですが、ワクチンの予防接種で得られるのは「抗体」、つまりウイルスを効果的に退治する免疫能力であって、ウイルスの感染を防ぐバリア機能ではありません。
そのため、予防接種を受けていてもインフルエンザに罹ってしまうこともあります。
しかし、予防接種をしていれば重症化のリスクは大幅に減らすことができます。
インフルエンザには、『タミフル(一般名:オセルタミビル)』などの「インフルエンザ治療薬」が使えないケースがあることや、「インフルエンザ脳症」など危険な合併症もあることから、予防接種によって重症化のリスクを予め抑えておくことは、非常に重要です。
回答の根拠:予防接種をしていると、何が変わるのか
体内の免疫システムには、大きく分けて2種類あります。一つは、マクロファージ等が担当する、どんな外敵であろうと食べて処理するシステム(体液性免疫)です。
もう一つは、T細胞などが担当する、「抗体」を使った個々の外敵に対するオーダーメイドのシステム(細胞性免疫)です。
当然、「抗体」を使ったオーダーメイドの免疫システム(細胞性免疫)の方が遥かに強力で、優秀です。
予防接種をしていない場合
通常、インフルエンザウイルスが体内に侵入すると、「未知の外敵」と免疫システムが戦うことになります。初めて遭遇した外敵に対する「抗体」はありませんので、まずはマクロファージ等による「体液性免疫」のみで対応することになります。
こうして時間を稼いでいる間に、T細胞がそのインフルエンザウイルスに特化した「抗体」を作ります。
そして、「抗体」が完成するとT細胞による「細胞性免疫」が機能しはじめ、ウイルスを駆逐し、インフルエンザが治癒します。
予防接種をしていた場合
予防接種をしていると、身体には予め「抗体」が備わっています。そのため、いきなり最初から強力な「細胞性免疫」で対応することができます。 これによって、ウイルスを早期に退治することができ、重症化を防ぐ効果につながります。
免疫が機能するのは、感染してから
このとき、身体が発熱などを起こす前にウイルスを退治できた場合、インフルエンザは発症しません。 しかし、特にインフルエンザウイルスは増殖スピードが速いため、免疫が十分に機能する前に、ウイルスが鼻や喉の粘膜で、ある程度まで増殖してしまうこともあります。
そのため、予防接種をしていてもインフルエンザを発症する、ということが起こり得ます。
この点に着目し、大きな発症予防の効果が期待できるワクチンとして、鼻の粘膜上で免疫を働かせる「鼻ワクチン」の開発が進んでいます。
薬剤師としてのアドバイス①:予防接種は重症化を防ぐためのもの
予防接種は、身体に「抗体」を予め備え付け、感染した時に効果的にウイルスを退治できるようにするためのものです。免疫が素早く機能すれば、確かに発症そのものを防ぐことも可能ですが、それはあくまで単なるラッキーです。
インフルエンザは、通常の風邪などとは異なり、大人でも38℃を超える高熱が出るなど重い症状が出ます。また、「インフルエンザ脳症」など危険な合併症のリスクもあります。
『タミフル』等の特効薬があるから大丈夫、と言う方もおられますが、これらの薬は発症から時間が経過してしまっていると効果がありません。
そのため、インフルエンザ治療薬のみに手段を頼ってしまうのは、あまり賢明とは言えません。
また、いくら予防接種をしていても、体調不良やストレス・疲労などによって、身体の免疫機能そのものが低下していた場合には、インフルエンザを発症する、ということが起こり得ます。
予防接種をしたからといって、感染予防のための手洗い・うがいを怠らないようにしてください。
薬剤師としてのアドバイス②:使うリスク、使わないリスクを正しく知る
インフルエンザワクチンの予防接種は確かにリスクがゼロではありません。しかし、予防接種をしない場合のインフルエンザ重症化のリスクの方が遥かに大きいものです。個人の価値観によって予防接種を受けないことは自由ですが、誤った情報によって適切な医療を受けられないことは、極めて問題です。
特にインフルエンザワクチンについては、でたらめなデマも出回っていますので、疑問や不安はきちんと医師・薬剤師などの専門家に相談するようにしてください。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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