ACE阻害薬で、咳の副作用が起こるのは何故?~「ブラジキニン」による空咳と、心不全による咳
記事の内容
回答:気道を刺激する「ブラジキニン」が増えるため
高血圧治療に用いる「ACE阻害薬」は、副作用で痰の絡まない「空咳」が出ることがあります。
この咳は、気道を刺激する「ブラジキニン」が蓄積することで起こります。
「ACE阻害薬」を使っていて空咳が出る場合、「ARB」に切り替えるなどの対応が一般的です。
ただし、痰が絡むような咳は感染症、水っぽい咳は心不全の症状である場合があります。咳が長く続く場合には、きちんと原因を特定するため、一度病院を受診するようにしてください。
回答の根拠①:「ブラジキニン」と空咳のメカニズム
「ACE阻害薬」は、「アンジオテンシン変換酵素(ACE)」を阻害することによって、血圧の上昇を抑える高血圧治療薬です。
しかし、同時に「ブラジキニン」の分解も阻害してしまうため、身体に「ブラジキニン」が蓄積するようになります。
この「ブラジキニン」が気道を刺激するため、咳を生じるようになります1)。
1) 総合臨床 45(8):1946,(1996)
この咳は、喉に細菌やウイルスなどの異物がくっ付いて出る通常の咳ではないため、痰が絡まない「空咳」になるのが特徴です。
また、咳中枢も関与していないため、『アスベリン(一般名:チピペジン)』や『メジコン(一般名:デキストロメトルファン)』、「リン酸コデイン」などの咳止め薬では治まりません。
こうした空咳は、「ACE阻害薬」を使い続けられない最大の原因となっており、「ACE阻害薬」を中断する理由の70%近くにのぼるとされています2)。
2) Lancet.362(9386):772-6,(2003) PMID:13678870
回答の根拠②:心不全でも咳は起こる
「ACE阻害薬」は心不全にも使用する薬ですが、心不全が進行すると身体の水循環が滞り、肺に水分が溜まるようになります。その結果、水っぽい咳が出るようになります。
このときの咳は、ストローで残り少ないジュースを吸ったときのような、ゴロゴロした音が混じるのが特徴です。
こうした心不全症状による咳が酷い場合には、『ラシックス(一般名:フロセミド)』などの利尿薬を使って身体の水分を調節するといった対応が必要です。
「ACE阻害薬」を使っている時に咳が出るからといって、全てが薬の副作用は限りません。自己判断で副作用だと思い込むことはせず、きちんと主治医の診断を受けるようにしてください。
薬剤師としてのアドバイス:空咳がひどい場合は、「ARB」に切り替えるのが一般的
空咳がひどく薬を続けられない場合は、「ACE阻害薬」から「ARB」に切り替えるのが一般的です。
「ARB」は「ACE阻害薬」に比べると薬価がやや高めですが、どちらも高血圧治療の第一選択薬に選ばれている薬で、治療効果には大きな違いはありません。
ただし、副作用による「空咳」なのか、心不全による咳なのか、あるいは喘息や感染症などで起こる咳なのか、ひとことに咳と言ってもその原因は様々です。
正しい原因を突き止めなければ、正しい対策はできません。咳が長く続く場合には、自己判断で対応せず、一度病院を受診することをお勧めします。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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