FDA基準によるカテゴリ分類が廃止されたのは何故?~妊婦に対する薬の安全性評価の変容
回答:同じカテゴリ内で、リスクに大きなばらつきがあったから
アメリカ食品医薬品局による「FDA基準」では、これまで妊婦に対する薬の安全性をA、B、C、D、Xの5段階に分類して、添付文書に記載してきました(アメリカでの話です)。
しかし、同じカテゴリに分類される薬であっても、情報が不足しているものから、具体的なリスクが報告されているものまで様々な薬が混在してしまい、リスクに大きなばらつきが生じてしまっています。
そのため、FDAは2015年6月にこのカテゴリ分類を廃止し、個別に具体的な安全性とリスク評価を記述形式で添付文書に記載するよう義務付けました。
回答の根拠:従来の「FDA基準」のカテゴリ分類
従来の「FDA基準」では、安全性が以下の5段階に分類されていました。
A・・・ヒトの妊娠初期3ヶ月間の対照実験で胎児への危険性は証明されず、またその後の妊娠期間でも危険であるという証拠もない。
B・・・動物生殖試験では胎仔への危険性は否定されているが、ヒト妊婦での対象試験は実施されていない。もしくは、動物生殖試験で有害な作用が証明されているが、ヒトでの妊娠期3ヶ月間の対照試験ではこの有害作用は実証されておらず、またその後の妊娠期間でも危険であるという証拠がない。
C・・・動物生殖試験では胎仔に催奇形性、胎仔毒性、その他の有害作用があることが証明されているが、ヒト妊婦での対照試験は実施されていない。もしくは、ヒト、動物ともに試験は実施されていない。
D・・・ヒトの胎児に明らかに危険であるという証拠があるが、危険であっても、妊婦への使用による利益が容認されることもある。
X・・・動物またはヒトでの試験で胎児異常が証明されている。もしくは、ヒトでの使用試験で胎児への危険が証明されている。
妊娠中は、薬を使うリスクと、薬を使わないリスクを天秤にかけ、母子ともに薬を使った方が良いと総合的に判断された場合にのみ、薬が処方されます。
しかし、このカテゴリ分類が【B】や【C】と書かれているだけでは、具体的なリスクの内容がわからず、実際に薬を使うべきかどうかの判断には役に立ちません。
そのためFDAは2015年6月、このカテゴリ分類を廃止し、薬を使うリスクについて、妊娠のどの時期に、どの程度の量の薬を、どの程度の期間使った場合、リスクがどの程度高くなるのか、といった具体的な情報を、添付文書へ個別に記述するよう義務付けました。
+αの情報:日本の添付文書も、画一的な表現にとどまっている
日本の添付文書でも、「有益性が上回る場合にのみ投与する」といった画一的な表現に留まっており、具体的にどういったリスクがあるのかはわかりづらい記載になっています。
そのため、絶対に避けなければならない「絶対禁忌」から、できれば避けた方が良いという「原則禁忌」まで、幅広いリスクのものが「禁忌」とひと括りで記載されている状態です。
その結果、実際に妊婦に対して薬を使うかどうかを判断する際には、添付文書よりも細分化されている「オーストラリア基準(オーストラリア医薬品評価委員会・先天性異常部会による評価)」や各分野の専門書などを別途参照する必要があり、添付文書の記載はあまり役に立っているとは言えません。
今後は、日本でも添付文書により具体的なリスクの内容が記載されることが期待されています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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