『エピペン』ってどんな薬?~保育所で、いざという時の使用を躊躇しないために
記事の内容
回答:アナフィラキシー・ショックの治療薬
『エピペン(一般名:エピネフリン[別名:アドレナリン])』は、蜂や食べ物・薬物によるアナフィラキシー・ショックの症状を一時的に抑える注射薬です。
本来、注射は医療行為であり、『エピペン』も本人または保護者・家族が注射するための薬です。
しかし、保育所などでは自分で注射できない子どもに代わって、現場に居合わせた保育士が注射することも違法ではありません。
しかし、こうした行為は躊躇してしまう人がほとんどです。
アナフィラキシー・ショックは重篤なアレルギー症状であり、短時間のうちに死に至ることもあります。そのため、初期対応が極めて大切で、『エピペン』の注射は子どもの生命を守るための重要な治療薬と言えます。
そのため、普段から『エピペン』がどういった薬なのか、どこに保管してあるのか、どうやって使えば良いのかなど、職員全員で正しい知識・情報を共有し、いざという時の使用を躊躇しないよう備えておく必要があります。
回答の根拠①:アナフィラキシー・ショックの正体
アナフィラキシー・ショックは、アレルギー物質が体内に侵入したことで起こります。
このとき、体内では副交感神経が過剰に優位となって血管が広がるため、血圧が急激に低下します。この血圧の急低下によって死に至る恐れがあります。
『エピペン』を注射すると、有効成分である「エピネフリン」が交感神経を興奮させ、副交感神経の活動に拮抗します。この作用によって、一時的にアナフィラキシー・ショックの症状を緩和することができます1)。
1) エピペン注射薬 添付文書
スズメバチの例で有名なように、2回目の接触で発症するのが一般的ですが、初めて刺されたときにも発症することがあるため、注意が必要です。
回答の根拠②:アナフィラキシー・ショックは短時間で症状が進む
アナフィラキシー・ショックでは、生あくびや頭痛、冷や汗、不整脈・動悸といった症状が現れた後、極めて短時間のうちに心肺停止などの重篤な症状に進む恐れがあります。
アナフィラキシー・ショックは、スズメバチに刺されることや、卵や小麦・そばなどアレルギーの食べ物を摂取する、アレルギーを持つ薬を服用するなど、アレルゲンが体内に入ってくることによって起こります。
このとき、体内にアレルゲンが侵入してから平均して、薬物なら5分、ハチなら15分、食べ物なら30分で心停止に至ることも報告されています2)。
2) Clin Exp Allergy.30(8):1144-50,(2000) PMID:10931122
通常、救急車が到着するにも多少の時間がかかります。そのため、病院へ到着するまでの間、一時的に症状を緩和させるために『エピペン』を使用することが重要です。
しかし、『エピペン』もあくまで応急処置のため、使用後は薬が効いている間に一刻も早く病院を受診する必要があります。
回答の根拠③:保育所での使用に対する法律上の問題
先述のように、アナフィラキシー・ショックは極めて短時間で症状が進み、生命に危険が及ぶアレルギーです。そのため、緊急時には人命救助の観点から考える必要があります。
このとき、『エピペン』を保育士が子どもに代わって注射することは、「緊急避難行為」として違法性は問われない、とされています3)。
3) 厚生労働省 保育所におけるアレルギー対応ガイドライン
ただし、いざという時に正しい使用方法で『エピペン』を使えるよう、日頃から使用方法や注射する場所、注意点、保管場所についての研修を行う必要があります。
また、どのタイミングで『エピペン』を使い、どういった場合は使わなくても良いのかといった判断基準などについても、処方した医師や家族と事前に十分確認しておくようにしましょう。
薬剤師としてのアドバイス:いざという時の使用を躊躇しないために
いざという時の使用を躊躇させる最大の要因は、「どんな薬なのか知らない」、「法律違反になるのではという不安がある」といったものです。
そのため、『エピペン』の正しい使用方法や、緊急時の使用に対する法律上の扱いについての理解を深めてもらうことで、この躊躇の気持ちを大きく軽減できることが報告されています4)。
4) 第48回日本薬剤師会学術大会
また小児の場合、『エピペン』を使ったことによる副作用は、心拍数が増えて起こる頭痛や動悸などが考えられますが、ほとんどが軽微なものです。大きな副作用があるかもしれない、と躊躇する必要はありません。
現在、多くの薬局が、『エピペン』の認知度向上と正しい使用促進のための講習会を行っています。特に、アレルギーの子どもがいる場合にはこうした講習会に出席し、いざという時のために正しい知識と情報を備えておくようにしましょう。
+αの情報:『エピペン』は処方薬、別の子どもには使用できない
『エピペン』は処方薬です。つまり、処方された本人にしか使用できません。他の子どもがアナフィラキシー・ショックを起こしたとしても、『エピペン』を使うことができません3)。
他の人の薬を使って起きた副作用に関しては、「医薬品副作用被害救済制度」の対象外となることにも注意が必要です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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