『シグマート』ってどんな薬?~「ニトロ」と異なる使い方・作用機序と、頭痛を感じる理由
記事の内容
回答:冠動脈を拡張させる薬~頓服と定期薬
『シグマート(一般名:ニコランジル)』は、心臓の太い血管(冠動脈)を広げる作用があり、狭心症の治療に使う薬です。
狭心症の薬には、有名なものに頓服薬の『ニトロペン(一般名:ニトログリセリン)』などの硝酸薬があります。
しかし、これらの硝酸薬は作用が非常に強力な反面、作用時間が短く、副作用も多いため、症状をコントロールするための毎日の定期薬としては適していません。
『シグマート』は硝酸薬のように血行動態に影響せず、作用も持続することから、毎日の定期薬として使用し、狭心症発作を予防するのに適しています。
回答の根拠①:作用時間と副作用による使い分け
狭心症は、心臓の太い血管(冠動脈)が何らかの原因によって狭くなり、一時的に心臓に血液が供給されなくなることで起こります。
そのため、冠動脈を広げる薬によって血流を回復させ、治療・予防ができます。
『ニトロペン』等の硝酸薬は、舌下に置くことですぐに効果が現れますが、その作用は持続しません。そのため、発作が起きたときの頓服薬として使用します1)。
『シグマート』は、血中濃度に依存せず抗狭心症効果が持続します2)。また、心拍数や心筋収縮力、大動脈圧に影響しないことから、定期薬として毎日服用するのに適した薬と言えます2)。
1) ニトロペン舌下錠 添付文書
2) シグマート錠 インタビューフォーム
回答の根拠②:冠血管の攣縮も抑える
『シグマート』は、冠動脈を広げるだけでなく、痙攣を抑制する効果もあります3)。
そのため、冠動脈が痙攣や異常な収縮を起こして発症するタイプの狭心症(冠攣縮性狭心症)の防止にも効果的です。
3) J Pharmacol Exp Ther.227(1):220-8,(1983) PMID:6225867
特に日本人は欧米人に比べ、冠攣縮性狭心症の割合が多いため、『シグマート』は非常に有用と言えます。
回答の根拠③:頭痛を感じる理由~片頭痛との共通点
『シグマート』を服用すると、3%以上の頻度で拍動性の頭痛を感じることがあります2)。
主な原因として、『シグマート』が脳の血管を拡張させてしまうことで頭痛を感じる、という理由が考えられます。実際、『シグマート』を内服すると、若干量が「血液脳関門」を通過して脳に分布することが報告されています4)。
4) 応用薬理.23(1):153,(1982)
片頭痛も脳血管の異常な拡張が原因の一つと考えられています。そのため、脳の血管を収縮させる『アマージ(一般名:ナラトリプタン)』等の「トリプタン製剤」によって治療が可能です。
『シグマート』の使用によって片頭痛が悪化する可能性も十分に考えられます。その場合は、「トリプタン製剤」をたくさん使うのではなく、片頭痛の予防薬を使うことも考慮する必要があります。
+αの情報:一酸化窒素(NO)による血管拡張作用と、他の薬との相互作用
そもそも生体には、血圧や体温を調節するために、血管を収縮・拡張させる機能が備わっています。
※血圧調整の例
大きな血管(冠動脈)を拡張させ、血圧を下げる
※体温調節の例
末梢の小さな血管を拡張させ、熱の放散を増やし、体温を下げる
その中で、一酸化窒素(NO)は強力な血管拡張因子として機能します。
①一酸化窒素(NO)は、「グアニル酸シクラーゼ」を活性化し、「cyclic-GMP」の産生を増やします。
②増加した「cyclic-GMP」は、カルシウム(Ca2+)チャネルを遮断します。
③細胞内カルシウムイオン濃度が低下したことによって、血管平滑筋が弛緩し血管が拡張します。
『シグマート』や『ニトロペン』等の硝酸薬は、この一酸化窒素(NO)と同じように、「グアニル酸シクラーゼ」を活性化させることで、血管拡張作用を発揮します。
なお、ED治療薬の『バイアグラ(一般名:シルデナフィル)』は、陰茎海綿体で同様の一酸化窒素(NO)を介した作用を発揮する薬です。
そのため、『シグマート』と併用すると血管拡張作用が相乗効果で強まり、全身の血管が弛緩して重篤な低血圧を起こす恐れがあります5)。
5) シグマート錠 添付文書
また、『ノルバスク(一般名:アムロジピン)』等のCa拮抗薬も、上記の②(カルシウム(Ca2+)チャネルを遮断する)部分に直接作用して強力に血管を広げる作用を持っています。そのため、同様に副作用として頭痛を感じることがあります6)。
6) ノルバスク錠 添付文書
薬剤師としてのアドバイス:頭痛は慣れてくることも
『シグマート』を服用し始めると、多くの人が拍動性の頭痛を感じる傾向にあります。
しかし、続けて服用していることで次第に身体が慣れてきて、頭痛を感じなくなることがほとんどです。そのため、最初は量を減らした状態から飲み始めるなどの工夫をし、続けて服用できる方法を探ることが重要です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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