「アスピリン」で大腸がんは予防できるのか~市販の鎮痛薬では意味がないので、勝手な使用は厳禁
記事の内容
回答:有効性と安全性を評価するため、7,000人規模の臨床試験をスタート
テレビ番組などでも報道されているように、「アスピリン」製剤を少量服用し続けることによって、大腸がんの発症を予防できるのではないか、という期待が高まっています。
本当に予防効果があるのか、安全性に問題はないのか、を確かめるため、2015年10月から全国20の医療施設で、7,000人規模の臨床試験が始まっています。
実現すれば、1錠5~6円の薬を1日1錠飲むことによって、大腸がんの予防が可能になる、という夢のような話です。医療費の削減にも大きく貢献してくれるはずです。
ただし現段階では、『バイアスピリン(一般名:アスピリン)』をはじめとする「アスピリン」製剤を、大腸がんの予防目的で使用することはできません。
また、市販の「アスピリン」を含む鎮痛薬では、用量や錠剤の問題から、こうした予防効果は期待できません。
特に、「アスピリン」は本来、血を固まりにくくする抗血小板薬です。使い方を誤れば、脳出血を起こしやすくなったり、胃潰瘍による出血が止まらなくなったりするなど、危険な副作用を起こす恐れもあります。
絶対に、自己判断で勝手な使い方をしないようにしてください。
詳しい回答:ポリープ抑制効果の証明から、臨床への期待が高まった
1980年代ころから、アスピリンによる大腸がんへの効果は、数多くの論文が発表されています。
そんな中で2014年、アスピリンを1日100mgという低用量を投与することによって、大腸がんの前段階となる”大腸ポリープ”の再発を40%抑制するという報告が、日本からされました1)。
1) Gut.63(11):1755-9,(2014) PMID:24488498
この報告では、特に非喫煙者で60%を超える抑制効果が発揮されたことから、一気に臨床への期待が高まりました。
詳しい原理は明らかになっていませんが、腸のポリープで起こる炎症を「アスピリン」が抑えること等が関与していると考えられています。
また、大腸がんでは炎症に関わるCOX-2が強く発現していることも報告され、『セレコックス(一般名:セレコキシブ)』などのCOX-2阻害薬を消化器系のがん予防に使えないかという研究も進んでいます2)。
2) 臨床消化器内科 Vol.23 No.12,(2008)
回答の根拠①:アスピリンは、飲む量によって作用が変わる
「アスピリン」そのものは、珍しい薬でもなんでもなく、市販の頭痛薬などにも広く含まれている薬です。
しかし、「アスピリン」はたくさん飲むと鎮痛薬、少し飲むと抗血小板薬、といったように、使う量によって薬効・薬理が変わります。
鎮痛効果:アスピリンとして1日660~3,960mg 3)
抗血小板効果:アスピリンとして1日81~324mg 4)
3) バファリン配合錠A330 添付文書
4) バファリン配合錠A81 添付文書
そのため、『バファリン(一般名:アスピリン)』は鎮痛薬用(A330)と抗血小板薬用(A81)に、それぞれ別の規格が存在し、別の薬として扱われています。
今回、大腸がんの予防効果が期待されているのは、低用量の「アスピリン」、つまり抗血小板薬としての「アスピリン」です。
つまり、市販薬などで使われている量、鎮痛薬としての「アスピリン」では、大腸がん予防を期待することはできません。
回答の根拠②:「腸溶錠」というミソ
『バイアスピリン』は、腸で錠剤が溶けるように設計された「腸溶錠」です。
本来は胃の副作用を減らす目的で施された工夫ですが、大腸がんの予防効果に対しても、「腸溶錠」であることが関係している可能性があります。
しかし、市販の頭痛薬は「腸溶錠」にはなっておらず、副作用を減らすためには「酸化マグネシウム」などの制酸剤を配合したものがほとんどです。
こうした点から、市販の「アスピリン」製剤では、たとえ少量に調節したところで、話題になっているような予防効果は期待できない可能性があります。
薬剤師としてのアドバイス:2020年以降の実現を目指して
通常、薬に関する話題がニュースに取り上げられるのは、もっと実用が近づいてからです。そのため、比較的すぐに実現可能な話題を耳にすることがほとんどです。
しかし、今回はまだ臨床試験が始まったばかりのテーマについて、大々的に取り上げられました。そのため、2024年頃の実用を目指す、といったように、まだこれから10年ほどかけてしっかりと研究していかなければならない状態です。
「アスピリン」製剤は非常に安価で、しかも低用量であれば副作用もほとんどありません。
それでも、副作用はゼロではありません。誤った使い方をすれば出血しやすくなり、脳出血や胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの出血を悪化させ、時には生命に関わる事態を引き起こす恐れのあるものです。
こうした副作用が頻発すれば、実用化に向けても少なからず影響します。
絶対に、自己判断で薬を勝手に使うことは止めてください。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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